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村長の思惑

 

 その報告は突然だった。


「魔物だっぺ! かなりでかいべさ!」

「村に向かってきてっとさ! 一大事さ!」


 また、魔物らしい。

 最近、村周辺の魔物の出没が多くなっている。王都に近いこの場所でこれだ。世も末だな。

 良い対策も無いのだから、打つ手は魔物の討伐に限られる。しかし、村にそんな戦力はない。


「村長! 大変だ!」

「どうするさ?!」

「迎え撃つ! 男共は鍬を持って集まれ! 魔物を追い払うぞ!」


 村長である(ワシ)は指示を出し、自らも鍬を持つ。

 人口100人足らずの村では、儂も貴重な戦力だ。


「ブモーッ!」

「む? モルダウロスか? なら、急がなければ村が危険だ」


 モルダウロスはこの辺りでは最強の魔物だ。

 出没頻度も低く、それが相手とあらば、運が悪いの一言に尽きる。


「行こう!」

「急ぎましょう!」


 しかし、家を出た瞬間、見た光景は予想だにしなかった。


「ブモーッ!」


 もう、魔物が村の近くまで来ている。

 速い。


 しかも、奴は赤かった。

 奴は、奴は普通のモルダウロスじゃない!


「に、にげっ!」

「ブモーッ!」


 逃げろと叫びたかった。しかし、それは魔物の咆哮と柵の破壊音にかき消された。

 赤いモルダウロスは村の柵を壊してすぐ、進路上にある家々を破壊して行く。


 まずい。

 もうだめだ。


「この村は、お終いだ……」


 いや、今思えば、これで良かったのかもしれない。

 重い税に村人は疲弊しきっている。何のために生きているのかも分からない有様だ。しかも、今年の冬は乗り越えられらか怪しい程、食料の残りが少ない。


 そう思った瞬間、神風が吹いた。

 男が瞬時に現れたかと思うと、堂々とした出で立ちで赤いモルダウロスの前にたっていた。


 そして、男は魔法を使った。

 赤いモルダウロスは数十個の肉片に変わってしまった。


 なんと運が良い!

 村は救われた!


 ふはは。笑いが止まらない。

 そうだ。あの男を確保しよう。相当な魔法の手練れだ。是非とも村に役立ってもらう。あの者に魔物を討伐してもらい、その肉で飢えを凌げば今年は乗り切れる。


 肉で腹を満たし、農作物で税を納めれば、この村は安泰だ。

 今年どころではない。

 数十年は安泰だ。


 まずは、あの者をもてなさねば!


 こうして計画は始まった。



    ◆



 その晩、村の救世主である"タイゾー"を私の家でもてなした。

 なけなしの塩が使われた夕食はいつもより美味かった。


「いやはや、あなた様がモルダウロスを倒して頂かなければ、この村は壊滅していたことでしょう。このガリウス、村長として感謝の言葉でいっぱいです」

「いえいえ。たまたま通りかかっただけですから。ご馳走まで上がらせていただいて感謝しています。泊めてまで下さるとのことで、私としても助かっています」


 人当たりが良さそうな青年だ。

 こんなチョロそうな男がいるとは、世も捨てたもんじゃない。


「ところで、この村では魔物が良く出るのですか?」

「はい。最近はその数を増やしてきておりまして、近隣の村でも同様の事態にあります」


 そう、それはここ最近の異常事態だ。

 原因すらも特定していない。


「いつ頃から魔物は増えはじめていますか?」

「そうですね。ここ数ヶ月というところでしょうか。はじめは畑が荒らされ、次にゴブリンの襲撃が目立ち、そこからは週毎にエスカレートしております」


 それでもなんとか、税を納めることはできた。

 だが、来年も同じような被害だと村は立ち行かなくなる。


「私でよければ、協力させて頂きます」

「モルダウロスを一撃で屠ってみせた貴方様なら、心強い。是非ともお願い致します」


 おお! なんと頼もしい言葉!

 この青年、かなりのお人好しだろうか?!

 だが、対価がな……


「どうかされましたか?」

「いえ、その言葉は嬉しいのですが、私達の村は貧しく、貴方様に払える報酬はありません」


 だめか?

 しかし、どうしたらよいのだ?

 この村はなにも無さすぎる。


「そうでしたか。では、寝床や討伐した魔物のアイテムを対価でどうでしょう?」

「ですが、それでは些いささか少ないと……」


 どちらの要求も当たり前の範囲だ。

 普通ならここに、日当銀貨3枚。いや、それでも安い。モルダウロスを討伐できる冒険者だ。とてもじゃないが、払えない。


「いえ、そこまで長居は致しませんので、それほどで結構です。幸い、持参の食料などがありますので、気を使って頂く必要もありませんし、私としては魔物討伐の拠点を得る事ができる事が利になりますので」


 ……うまい話もあったもんだ。

 だが、青年に縋らなければ冬は越せない。

 ここはお願いするしかない。


「左様でございますか。いえいえ、こう言ってはなんですが、かなり貧しい村です。無駄な出費は抑えたいのが本音でございます」

「私がいうのもなんですが、渡りに船ですね」

「ごもっとも。尤も、村を救って下さった貴方様に、満足いかないおもてなしとなってしまい、面目もございません」

「いえいえ。そんなことは……これも何かのお導きです。私にできることであれば、なんなりと、お助けしますよ」

「ほら、アナタ。タイゾーさんもそう言ってくれてますし、今は精一杯もてなす時。この話はここでお終いです」


 妻のタリアの声でこの話は終わる。

 青年が村に滞在すると決まった時点で、この話は十分だろう。


「そうだな。タイゾー様、ありがとうございます」


 こうして、今日が終わる。

 後は、なるべく青年が村に滞在するようにしなければ。明日が楽しみだ。




    ◆



 翌朝、どうやらアレは成功したらしい。

 妻のタリアが嬉しそうに「今夜は豪勢にしないとね」と張り切って言っている。

 いや、村の食料事情を考えて欲しい。


 いや、そうだった。

 成功したのだから、食料事情は改善される。

 まずは、昨日の魔物の肉を提供してもらおう。


 ぐふふ。

 久々に美味い肉が食える。

 

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