異世界の地に降り立った
視界が明転すると、そこは大草原だった。
見渡す限りの芝生が風で波を見ている。
群青色の空、純白の雲、鮮やかな若草色の芝、心地良い風、燦々と降り注ぐ太陽。
良い景色だ。
春風が心地良い。
ピクニック日和にはもってこいのロケーションだ。
「さて、どうしよう」
うん。
景色だけなんだ。
他に何にもない。
異世界に転移する時、街の近くにするんじゃ無かったっけ? あのジジイがそう言っていたはずだ。
まあ、超高高度からのダイブを想定していただけあって、まだマシな部類に入る。
だが、見渡す限りの平原。
やっぱり、あのジジイの言葉は信用ならなかった。
「本当にどうしようか? どっちに向かったら良いか分からないし、地図も無い。魔法のレーダーみたいなのがあったら……レーダー、電探、探知……」
一人でにそう呟くと、周囲の情報が頭に流れ込んでくる。ソナーの様に遠くに向かって魔力を飛ばし、戻ってる魔力から探知できるみたいだ。
そうか。俺のスキルは全魔法適正だった。そして、魔法の一種である索敵魔法? が発動したのだろう。
発動した魔法の種類も鑑定魔法で分かる。
魔法、様々だ。
どっちに移動したら良いかも分かるじゃん。あっちの方に小さな街道があるみたいだ。
早速、移動しよう。
「あ、早く移動できる魔法、あるかな? 速力強化、加速、俊足、走行、飛行……」
うん。あるみたいだ。意識したら分かる様だ。
それを発動させる。
「おっと、お! 浮いた!」
ふらつきながら、ゆっくりと身体が浮く。
多少、バランスをとるのが難しいが、魔法は正常に発動した様だ。
魔法はイメージだけで発動するらしい。詠唱とか面倒だし、これは楽で良い。
飛行魔法が慣れるまではゆっくりと移動する。
ん? 索敵魔法に反応があるな。
「ありゃあ、ゴブリンか?」
反応があった方向には、緑の小人が居た。
飛行魔法で近付くと、その姿がよくわかる。
ホントに緑色。さすがはファンタジー世界だ。
「ギ、ギギギ!」
ゴブリンは俺に気づくと、襲いかかってきた。
い、いきなりだな。
「……よし、倒すか!」
俺は緊張しつつ、距離がある内にファイアーボールと念じる。
少し慌てたため、82個もの火の玉が高速でゴブリンを襲う。
直撃した火の玉は爆発し、ゴブリンは四散した。
確実にオーバーキルだ。
地面も真っ黒焦げで抉れている。
[ゴブリンを討伐]
[魔石を獲得 アイテムボックスに収納]
倒した瞬間、視界に文字が浮かぶ。
なるほど、ゲームっぽい。
ちょっとゲームみたいで面白いな。
魔物の討伐、ハマりそう。アイテム集めみたいな地味なのが好きなんだ。
「ん? なんだ?」
ワクワクしたのもつかの間、索敵魔法に反応があった。
どうやら、ゴブリンの反応らしい。一度接触した種類なら、遠くの反応でも、何なのかが分かる様だ。
「ブヒー!」
時々、分からない反応もあるが、一番近い反応に接敵したらオークだった。
まあ、ファイアーボール10連発で瞬殺だけど。
「ポヨン、ポヨン」
スライムも居た。
体当たりしてくるが痛くも痒くも無い。
魔法どころか、キック1発でノックアウトだ。
◆
そこから俺は魔物を狩りまくった。
ゴブリン20匹、スライム48匹、オーク4匹を倒したが多いのか少ないのかは分からない。
鉄の剣が役に立った。
おかげで、タンマリとアイテムをゲットした。
アイテム数は以下の通りだ。
魔石 72個
オークの牙 6個
オークの厚皮 4枚
オークの肉 8個
オークの睾丸 1個
スライムゼリー 2個
錆びた短剣 2本
錆びた長剣 1本
錆びた長槍 3本
石の打撃斧 1個
木製お鍋の蓋 1個
どうやら、魔物は必ず魔石をドロップする様だ。
一方、それとは別にアイテムをドロップするらしい。アイテムは一つとは限らず、一種類だけでもないようだ。
ゴブリンに関しては装備している武器もドロップするみたいだ。売れるかどうかは怪しいものだけど。
お鍋の蓋もドロップしたので、これは装備する事にしている。
「さて、どうしよう」
既に日が暮れはじめている。だが、人里がどこにあるのかが分からない。
既に街道に入ってから7時間が経ってる。空腹で、途中でオークの肉を食べた。普通の豚肉だった。
「あっ! 反応!」
索敵魔法に反応がある。
人だ。人里だ。
南の方角だ。
遂に見つけたようだ!
む? 何かに襲われてる?
まだ、一度も遭遇していない魔物だ。
俺は一気に飛行速度を上げ、村に向かう。
魔物はかなり強い反応だ。
救援に向かわないと!
景色がどんどん過ぎ去り、やがて村が見えてくる。
小さな村だ。
「ブモーッ!」
「きゃー!」
「逃げろ!」
村では赤目の巨大な牛が暴れていた。全高2m、全長5mはあろうかという大きな牛だ。その牛から逃れる様に村人達が四散してゆく。
よく見ると、家が2、3軒大破している。
索敵魔法がその牛は魔物だと教えてくれる。早く倒さないと村人が犠牲になる。
二足歩行の牛の魔物は大きな木幹を武器に振り回し、建物を破壊している。無秩序でどこか狂気じみているな。
早く魔法で片をつけよう。
「ブモーッ!」
「……デカいな」
おー、怖っ!
近くで見る身長5mは半端無い。
早く倒そう。
いざ、ウインドカッター!
魔力を込めて風の刃を無数に生み出す。
一方、牛の魔物は拳を振り上げ、俺に正面から敵対する。
そこに風の刃が襲いかかると、牛の魔物は容赦なく切り刻まれた。
血飛沫が舞い、肉片や臓腑が散乱する。
[モルダウロス亜種を討伐しました]
[魔石を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉(上)を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉(高)を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肉(特)を獲得しました]
[モルダウロス亜種の頰肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の舌肉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の歯を獲得しました]
[モルダウロス亜種の歯を獲得しました]
[モルダウロス亜種の目玉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の目玉を獲得しました]
[モルダウロス亜種の角を獲得しました]
[モルダウロス亜種の角を獲得しました]
[モルダウロス亜種の爪を獲得しました]
[モルダウロス亜種の爪を獲得しました]
[モルダウロス亜種の爪を獲得しました]
[モルダウロス亜種の爪を獲得しました]
[モルダウロス亜種の大骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の骸骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肋骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の軟骨を獲得しました]
[モルダウロス亜種の大皮を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肝を獲得しました]
[モルダウロス亜種の心臓を獲得しました]
[モルダウロス亜種の肺を獲得しました]
[モルダウロス亜種の胆結石を獲得しました]
[称号、村の救世主を獲得しました]
倒した事を祝福するかのように、凄まじい勢いでログが流れる。多い! レアモンスターだったのか?
と言うか、胆結石って何に使うんだ?! カルシウムとかビリルビンとかの塊だぞ?
「ふーっ。それにしても、案外呆気なかったな」
そう言って汗を拭う動作をする。
汗をかくまでも無かったけど。
「いや、俺のレベルが高いだけか」
そう言って一人で納得した。
まさに、チートだ。
俺氏、満足。
[魔石などのアイテムをアイテムボックスに収納しますか?]
一息つく間も無く、選択肢が出てきた。
当然、[はい]を選択する。
目の前から魔物が消え去た。流石は魔法の世界。
うむ。これにて一件落着か。
◆
その後、俺は村長宅に招かれ、もてなされた。
その日の夕食は硬いパンに薄いスープ、パサパサの鶏肉を焼いたものと粗雑な作りのワインが出された。はっきり言ってマズかったが、なんとか胃に収めた。
もてなして、この食事だ。普段はもっと貧しい食事なのだろう。
「いやはや、あなた様がモルダウロスを倒して頂かなければ、この村は壊滅していたことでしょう。このガリウス、村長として感謝の言葉でいっぱいです」
名前負けしている雰囲気が漂う村長は、見ていて温かくなるような優しい目をしたオッサンだ。円形脱毛症である事から、苦労が絶えないお人なのだろう。
「いえいえ。たまたま通りかかっただけですから。ご馳走まで上がらせていただいて感謝しています。泊めてまで下さるとのことで、私としても助かっています」
野営なんてしたくないからな。
人生初の野営が魔物蔓延る異世界だなんて、考えただけでもゾッとする。
いくらチートとはいえ、怖いものは怖い。
「ところで、この村では魔物が良く出るのですか?」
俺は気になる事を聞いた。
よく村が襲われているのなら、生活が成り立たないと思ったからだ。
「はい。実は最近、その数を急激に増やしてきておりまして、近隣の村でも同様の事態にあります」
という事は、やはりここは辺境寄りの土地なのだろうか?
少なくとも、都会でそんな事があれば早急に対策されている筈だ。
「この前は森の大火事もあり、北の辺りが完全に焼野原」
「いつ頃から魔物は増えはじめていますか?」
「そうですね。ここ数ヶ月というところでしょうか。はじめは畑が荒らされ、次にゴブリンの襲撃が目立ち、そこからは週毎にエスカレートしております」
これは、なかなか大変そうだ。しばらくはここに滞在してみて、この世界とか魔物とかの情報を集めてみようか。
大量に倒してお金に変えれば、当分は生活に苦労しないだろう。無一文脱出だ。
「私でよければ、協力させて頂きます」
「モルダウロスを一撃で屠ってみせた貴方様なら、心強い。是非ともお願い致します」
村長は笑顔でそう言ったものの、そのあとすぐに顔を顰めた。なにか、申し訳なさそうである。
「どうかされましたか?」
「いえ、その言葉は嬉しいのですが、私達の村は貧しく、貴方様に払える報酬はありません」
なるほど。確かに、対価も無しにとは普通は思わないか。そう言われては、流石にボランティアでとは言いにくい。
逆に怪しまれる。
「そうでしたか。では、寝床や討伐した魔物のアイテムを対価でどうでしょう?」
「ですが、それでは些か少ないと……」
「いえ、そこまで長居は致しませんので、それほどで結構です。幸い、持参の食料などがありますので、気を使って頂く必要もありませんし、私としては魔物討伐の拠点を得る事ができる事が利になりますので」
こうやって適当にそれっぽい事を並べておいたら大丈夫だ。たぶん。
「左様でございますか。いえいえ、こう言ってはなんですが、かなり貧しい村です。無駄な出費は抑えたいのが本音でございます」
「私がいうのもなんですが、渡りに船ですね」
俺がそういうと、村長も破顔する。
これでいけるだろう。
「ごもっともで。尤も、村を救って下さった貴方様に、満足いかないおもてなしとなってしまい、面目もございません」
「いえいえ。そんなことは……これも何かのお導きです。私にできることであれば、なんなりと、お助けしますよ」
「ほら、アナタ。タイゾーさんもそう言ってくれてますし、今は精一杯もてなす時。この話はここでお終いです」
村長の奥さんであるタリアさんがそう言う。
彼女の言う通り、これ以上の話は不要だろう。
「そうだな。タイゾー様、ありがとうございます」
そして俺は村長さんに案内された家に案内され、そこで異世界生活第1日目が終了する、はずだった。
まさか、そうなってしまうとは、この時夢にも思わなかった。
誤字脱字などありましたら、報告頂ければ幸いです。