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099:燻る

ティーナとヴァイスが今日戦った相手を確認していると両グループ長がやってきた。

聖騎士グループの長は、「これからは二年を中心にこっそり警護をする」とヴァイスに耳打ちをすると、特待生全員でお礼を言った。実践戦闘グループの長も聖騎士グループに協力してくれるらしい。

今日の戦闘は在校生の実力を新入生に紹介出来た、とても良い機会だったと喜んでいた。

ティーナとヴァイスはしばらく稽古をつけるので忙しくなる予定だった。


無事、品種改良グループへ入れたローラとソラが戻ってくると御礼を言ってきた。

今日に懲りて変な護衛がつくことも減るだろう、早く通常通りの学園生活になって欲しいと思った。

早々に武器を仕舞って関係者じゃない事をアピールしてたけど、いろいろな人に肩を叩かれ謎な頷きをされたのは納得いかなかった。

実践戦闘グループの長は、「あの戦いはなぁ・・・、やる方も見る方も参考にならない」と呆れていた。


「よぉ、リュージ。今日はおつかれさん」

「ヘルツさん、悪ふざけは止めてくださいよ」

「そういうなって、俺だってやるなら勝てる相手に勝てる条件でやるさ」

「気持ちは分かりますけど、新入生のやる気を削ぐのは良くないんじゃないですか?」

「小細工を弄した奴の心配はする事はないさ。魔王さまに喧嘩売ったんだからな」

ちょ・・・魔王さまってどういう意味だろう・・・、というか爆笑しすぎだ。


「ああ、後悪いんだが明日の朝一に火葬場へ来てくれないか」

「はい、予定しておきます」

「リュージ、俺も最後まで見届けるわ」

「うん、お願いしたい」

「本当に秘密主義と言うか公表する気がないのか。ギリギリまで待ってもこのザマだよ」

「ひどいですね、行ったら焼き終わっていますじゃ洒落にならないですね」

「最悪、見張りしている騎士2名はいるけど、どこまで状況を確認出来るかだな」


今日はギリギリまでグループ活動へ参加していたので、ローラとソラは特待正チームで送る事にした。

ヴァイスと自分は明日学園を休むと話すと、くれぐれも無茶をしないように釘を刺された。

翌朝は嫌な予感がしたので、朝練をパスして簡単に食事を済まして焼却場へ向かった。

正門へ着くと既にヘルツが到着していたようで、煙がモクモクと上がっていた。


煙が出ている場所へ向かうと、昨日の職員がやってきた。

「申し訳ありません、本日午後に焼却を行う予定だと昨日の帰り間際に連絡が入りまして、残っている騎士の方へは話したのですが・・・」

「じゃあ、何で火が入っているんだよ?」

「お、お待ちください。まだ焼いていない遺体も残っています」

「では、至急案内してくれ」


焼却場所では3体の遺体が処理出来るようになっていた、焼却の責任者らしい協会関係者が鋭い目をこちらに向け、「今は作業中だ、話があるなら後で聞く」とぶっきらぼうに言うと窯を見ていた。

騎士2名もいたのでヘルツが呼ぶと、今いる責任者が早朝に作業を始め補助者が段取り良く進めた為、呼びに行くよりか待って報告出来る体制を取ろうと思ったそうだ。


「昨日遺体をギルドに持っていった後、残り4体の解剖はこちらで行い、黒い結晶の欠片のようなものをそれぞれから見つけました」

「遺体に臓器を戻した後、本日の焼却時に胸の辺りにその欠片を置いたのを確認し、封をした後現在の焼却作業に入るところまで確認しました」

二人の騎士はこの作業者にかなり愚痴愚痴言われたらしい、黒い欠片について質問しても「知らん」の一言で終わり、焼却後は骨しか残らないの一点張りだった。


「ヘルツさん、あの焼却では神聖魔法に準じたものが使われています」

「リュージ、ただの焼却じゃないんだな」

「はい、ただ・・・これ普通に焼いても一般人が見たら違いなんて分からないですね」

「ここの責任者の匙加減ってやつか」

我関せずな感じで集中している責任者、見ようによっては職務に忠実な姿勢にも思える。

それから少しすると焼却が終わり、冷却時間を経て封があけられた。

入れ替わりで残りの遺体も焼却する事になった。


「先程は失礼しました、何かおっしゃりたい事があればどうぞ」

「それじゃあ言わせて貰おう、これは王宮で起きた事件が関係している。そちらの都合もあるだろうが、こちらの捜査に少しくらいは協力する姿勢を見せても良いのではないか?」

「どうやら少し行き違いがあったようですね、これからは気をつけるとしましょう。ただ、騎士さまが街の平和を守っているのは理解しているが、同じように我々も闇を払う活動をしている。一概にどちらの利を取るかは時に難しい事があるのは理解して欲しい」

「じゃあ、その辺は納得しておこう。そして、今回手厚く葬ってもらった事を感謝する」

「我々の当然の仕事だ」


この後、3体の焼却後の状態を見たけど残っているのは骨のみだった。

「一つ聞きたい、焼却後はいつもこの状態になるのか?」

「人の命とは儚いものだ。肉体という入れ物がなくなったら、こんなにも小さくなってしまう」

「黒い欠片が出る事はないのか確認したいのだが」

「私も今日初めて見たのだ、聖なる炎で浄化されたようで、欠片も残ってないのは確認できたのではないか?」

「ヘルツさん、確かにないですね」


さっき追加で入れた遺体も、欠片を胸の位置に置いて封をしたのを確認した。

この感じではなくなって終わりだろう、思うところはあるけど正式に処理されたら欠片は無くなるようだった。

用件は済んだようで、ヘルツは残って最後まで確認するらしい。

ヴァイスは学園に行くと言い、自分は農場が気になったので別れる事にした。


正面から入ると・・・枝垂桜の下は宴会場と化していた。

ナディアが代表として【先代会】の名前で予約し、セルヴィスが夜の営業に影響でない程度に奥さんを連れて参加していた。軽食くらい出しても良いよとナナに話してあったので、片付けさえ問題なければ枝垂桜が散るまでは見学出来るようにしてあった。軽く挨拶して酔っ払いの団体を素通りすると食堂へ直行した。


この食堂は毎日結構な量の食事を作っている、商品開発部の出向者も多くてあやふやな注文も形にしてくれる実力者揃いだった。

社員の食事を中心に作ってはいるけど、セルヴィスの教え子達もこちらで食事を取るようになり、孤児院から働きに来たいと言った子には安い給料だったけど、余った料理を孤児院へ持っていっても良いと伝えてあった。

ゲストも多く見学希望者も増えているようだ、昼ご飯を食べたら面談者の対応についてナナと打ち合わせをする必要があった。


「リュージさぁぁぁぁん、ここにいると聞いて!」

「ナナさん、今食事中なんですが」

「食べながらでいいので聞いてください、仕事が捗れば先生が喜びます」

「はいはい、それで何ですか?」

「この前言っていたイチゴジャムは何時作りますか?献上品ですよね?」

「ああぁ・・・忘れてた。ちょっと待ってね」


この前頼んだ担当に材料を渡し、前回の瓶に作れるだけ作ってもらう。

ついでにゆずのマーマレードも多めに作ってもらった。


「おまたせ、良かったぁ。忘れたらまずい案件だった」

「ナナも役に立つでしょー、先生に会ったらきちんと報告してくださいね」

「それがなければねぇ・・・」

残念な性格をしていたけど、仕事に関しては言うほど悪くないんじゃないかなって思うようになっていた。


「お花見の依頼は応募順に処理しています。花が散ったら終わりですが、どの時点を最後にしましょうか?」

「じゃあ、来週の日曜日までにしましょうか。それまでは正面に限り開放で」

「はい、おっけーです。あーとーは、【先代会】の皆様から農場の見学希望があり、他の貴族家や商業ギルドからも見学希望が出ています。それとは別に貴族家料理人から厨房の見学・コロニッドさまより厨房の見学・パン屋の数件から商業ギルドを通して、ふかふかパンの見学の希望が出ています」

「随分いっぱいですね」

「何せ話題の農場ですから」


イチゴジャムについては、ガレリアに献上の手配をして貰えないか聞いて欲しいと伝えた。

立場的には一事業主でしかなく、やはり爵位があるガレリアがいると王宮への手配は簡易化される。

ついでだけど、ふかふかパンの作り方をコロニッドに説明したいけど大丈夫か王子に確認して欲しいと告げる。

もし許可が取れたら寮の料理長と、二人のサポートメンバーも誘おうと思った。


オリーブオイル・トマトソース・マヨネーズ等の加工品は、そろそろ噂を聞きつけた一般の店まで販売が始まるはずだ。

トマトとレモンも市場に流れ始めたので、徐々に広がっていくだろう。

「しばらくはワインバーの方に集中的に新商品を出すから、見学は絞ろうと思います」

「はい、では後で先生とも打ち合わせをお願いします」

「土曜日には来るので、今日お願いした件は進展があったら学園か寮宛に連絡を貰えますか?」

「はーい、きちんと報告しますよー」


戦闘訓練をする為、学園に通う必要があるけどなかなか忙しい毎日だ。

魔法科の特待生なのに魔法の授業を最近出ていなくて、サリアル教授には申し訳ないと思う日々だった。



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