067:宣言
学園長が呼びかけると王家のテーブルに特待生が揃う。
魔法科に自分が入ってから特待生が全科に揃い、色々な事件や報告すべき事が出来たとサリアルから話があった。
「ふむ、報告は各方面から聞いている。謝罪しなければいけない事・お願いしなければいけない事など多くある。特にリュージ、お主には多くの者から報酬を支払いたいと打診を受けておる」
「王さま、現在の学園に通う事が出来ているのが報酬だと思いますが」
「謙虚なのは良い事だが度が過ぎれば嫌味になるぞ、私は王として実績に伴って信賞必罰を行う義務がある」
「はい」
「そこで問題になっているのがお主の出自だ、そして何を望むかだな」
既にマイクロさんから報告を受けていると思うけど、自分はこの世界には本来いないはずの異物だ。
それでも居場所を求め、多くの優しさに触れることでこの暮らしが出来て今ここにいる。
冒険者として外に飛び出したいという気持ちはあったが、現状の楽しい学園生活にはとても感謝していた。
「お主が望むなら王国の半分をやろう。我が右腕になり、共に王国を豊かにする気持ちはあるか?」
「王様、我ら文官が右腕と自負していましたが違いますか?」
「ゴホン、では左腕として・・・」
「王様、文官が右腕なら我ら近衛も含め騎士が左腕になると思います」
「ふむ、では両足・・・」
「父上、我らを支える領民の事を考えますと・・・もっとストレートに言うべきです」
ノリが良すぎるのも困ったものだ、どこかの魔王のような質問をされても困ってしまう。
「我らはこの短期間の君の実績を評価している、出来れば王国を導く仲間として政治に係わって欲しいと考えている」
「はい、協力出来る事でしたら吝かではないですが・・・」
「わかっておる、お主は冒険者志望だったな」
「はい、申し訳ありません」
「マイクロより報告を受けておる、今回出た料理も多くの素材・調理法・発明など多大な功績と考えている。個人的に報酬を出すのは止めはせぬが、王国に報告する必要があるような報酬としては我々も考えなければならない」
「父上は法衣男爵の爵位を授ける事も考えたそうだ」
「それはなりません」サリアルが口をはさんだ。
「わかっておる、ガレリアにも大きな傷と荷物を背負わせてしまったからな」
「も・・・申し訳ありません」
「よい、生活が一新するほどの利益を享受しながら、犯人一人捕縛できなかったからな」
ラース村の件から芋・石鹸・アンデット騒動・新種作物から温室と1件だけでもかなりの報酬額になるようだった。
「お主を縛るつもりはない、かと言って金貨をドンと積み上げてハイサヨナラでは正直つまらぬ」
「はぁ」
「そこでお主が望むものがあれば、積極的に叶えたらどうかという話になったのだ」
「王さまがここまで言う事は少ないぞ、好きな物頼んだらどうだ?」マイクロが囃し立てる。
「すいません、話が大きくなりすぎて何を求めたらいいか」
「リュージだけではなく、お前達も希望があったら言っていいそうだぞ」マイクロはヴァイスの背中をトントンと軽く叩いた。
「じ・・・自分はヴァイスと申します。この学園を卒業した暁には騎士として活躍したいと思います。そしていずれは・・・」
「ふむ、お主は元男爵家だったな。あの事件は残念な事をしたと思っておる、実績を重ねた暁にはその努力に報いると約束しよう」
「あ、ありがとうございます」
「私はティーナと申します、冒険者として自分の道は自分で切り開きます。ただ、王女さまと友人になったので身分は違いますが認めて頂きたく思います」思わず相好が崩れて父親の顔になる王さま。
「レンと申します、私も王女さまと友人になりました。これからも変わらずに友人で居続けたいと思います」
「二人の願いは父として嬉しく思う、これから何があっても友として近くにいても遠くにいても想っていて欲しい」
「「ありがとうございます」」
「なあ、リュージ。俺はちょっと欲しいものあるんだけど、先に聞いていいか?」ザクスの問いかけに頷く。
「今日出た素材って王国に広める気ある?料理法とか魔道具とかは置いといて」
「それは私も興味があるな、ラザーも父もそこは求めたい所だと思う」
「はい、えーっと。今日の新しい素材と言えばトマトとハーブ類とオリーブかな?それなら大丈夫です」
「では、言質を取ったので。改めましてザクスと申します、栽培から製品化にかけて土地と加工場と秘匿する為の警備が必要になります。是非予算化して頂き、管理する部署や窓口を用意して頂きたいと思います」
「ザクス、すごいな」
「今日の料理でワクワクしてるからね」
「ラザー聞いたか?」
「はっ」
「今年中に素案をまとめ提出するんだ、勿論分かっているとは思うがこの学園の生徒に迷惑がかからぬようにな」
「はい、それでリュージへの報酬はいかがしますか?」
「自分もザクスの求めるものでいいです」
「では、こうしよう。ガレリアに骨を折ってもらうことにするか。予算と窓口はガレリアの基金に一任する、そして協会と協力して冬を越すのが厳しいものに新たな雇用として働いて貰う事にする。こっそりどころか結構な小遣いを使ってもばれないくらいに予算を組んでおく」
「ありがとうございます」
「ついでにガレリア経由で小さな屋敷を用意しておこう。管理はガレリアを通しておくので必要な時に使うといい。住んでもいいし売却しても良いが、長期で国を出る時は一報欲しい。それが条件だ」
「リュージくれるっていうんだから貰っとけ」マイクロが大きな声で言うもんだから思わず頷いてしまった。
「ここに宣言する、これより学園関係者及び貴族家は政治力を持って特待生に強要することを禁ずる。これは内内に発付するので覚えておくように、そして学園卒業まで大人が見守る事を約束するのだ」
多くの者が返事をすると、給仕の女性がお盆を持ってやってきた。
「少し早いようですが、デザートにプリンを用意しました。皆様お楽しみください」大声で告げる。
近場の席に座り、プリンを一掬いするモーションが重なる。最初のコンソメを飲んだ時と同じように時が止まった。
「王家としてこのプリンのお代わりを求めても良いだろうか」
「申し訳ありません、プリンは一人一個しか準備してないんです」王・王子・王女と一斉に項垂れていた。
「コロニッドさんにはレシピを伝えていますので後でお楽しみください」一口に歓喜し、減った事によって寂しくなっていた。
王家は分刻みで仕事に追われている、名残惜しそうにしながら馬車の到着と共に王家の皆さんは戻ることになった。
「みんな、まだ飲み足りないだろ?こっからが本番だよな」マイクロが言うと二次会に突入したように盛り上がった。
仕事の半分以上が終わった給仕の女性も、裏方にいたコロニッドやレイクも出てきた。
アーノルド家のワインはまだいっぱいある、これから夕方近くまでパーティーは盛り上がることになった。
片付けは裏方の皆さんにお任せすると3料理人と一緒に寮に戻ることになった。
日曜の準備をするのに前日から手伝ってくれるようだった。
寮に戻ると風呂を沸かし、可能な限り酒を抜く。明日も昼からパーティーになるけど、この分だと早くに集まりそうな予感がした。
明日はガーデンパーティーのような感じを予定しているので調理を早める必要があった。
翌日、朝早くから調理場は大わらわだった。
騎士は早くから警備に努めていて、コロニッドが手配してくれた給仕と侍女二人は準備に余念がない。
寮母と執事は全体を取りまとめていて、特待生の自分達は来客対応をしていた。
最初にサリアル教授がガレリアとエントを連れてくる、レンがサティス家の姉妹を出迎えると、ヴァイスが先輩二人を案内していた。
最後に馬車が到着すると、ラザーとマイクロが王妃と王女達をエスコートして降りてきた。
「お母さま、昨日はほんんんんんっとうに凄かったのです」
「はいはい、ローラ。ちゃんと聞いているわ。今日は宜しくお願いしますね」
王女二人を両脇に置き深々と腰を折る王妃さま、この王家は家族ぐるみで良い意味で王家っぽくないと思った。
寮母が丁寧に挨拶して案内している、今回は中央のテーブルに料理があり給仕が盛り付けしてくれた。
【本日のメニュー:寮パーティー】
ポトフ:ゴロゴロ野菜にレイクが準備してくれたぷりっぷりのソーセージが入っている。
ポテトサラダ/タマゴ:給仕の女性に言えばパンに挟んでくれる。
トマトサラダ:スライスしたトマトに塩とオリーブオイルをかけたもの。
ザワークラフト:キャベツを白ワインビネガーで漬けた付け合せ。
トマトジャム:ジャムだけど甘みより酸味寄りに調整されたジャム、ゆずも絞り汁と皮が絶妙な加減で入っている。
トマトのチキン煮込み:なるべく大きな部位で何時間も煮込み繊維がほどける程の柔らかさがある。
グリーンサラダ:何の変哲もないサラダ、オリーブオイルとゆずと白ワインビネガーを使ったドレッシングで爽やかさを演出している。
ナポリタン:3料理人によりケチャップを作成してもらった、何の変哲もない喫茶店のメニュー風のパスタ。
「本日は王家の皆様をはじめ、日頃お世話になっています講師や来賓の皆様。先輩・ご学友・ご友人と多くの方々に集まって頂きました。時間の許す限り楽しい時間を過ごしましょう」寮母の挨拶から王妃の挨拶に移る。
「今日の準備の為に多くの方にご尽力頂きました。関係各所の皆様、感謝致します。昨日ローラから聞いたのだけど今日はかなり期待しているの。是非私達も仲間に入れて欲しくて、この時間が待ち遠しかったわ。では、みなさんグラスを持ったかしら?この出会いに乾杯しましょう。かんぱーい」
今日は女性ゲストが多いので軽めのメニューが多くなった。
男性ゲスト用のナポリタンは急遽追加したメニューだ。
みんながワインを一口飲むと拍手が起こる、そして皿に思い思いの料理を載せると一斉に一口目をはむっと口に含む。昨日参加したゲストは慣れたようだけど、今日のゲストはそうはいかない。
同じテーブルの人を見回し、どこに何を発していいか分からないでいた。そして昨日と同じく料理の説明をするのだった。