057:深層鑑定
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「愛とは呪いのようなものだ」
とある協会に一人の末期患者がいた、この男は後半年もしないうちに自分が死ぬであろう事を自覚していた。
そこに献身的な介護をする女はこの男と結婚するはずの者だった。
男は愛想をつかした態度で接し、女はそれが男の愛だと確信していた。
幸せな未来が紡がれないならいっそと、二人は患者と介護の役割を徹底して貫いていた。
時折呼吸が苦しくなる男を思い、莫大な協会への寄進と共に解決策を相談すると一組の腕輪を授けられた。
「いいですか?これは聖別された腕輪ですが、ある種の呪いと同じものです。どうしてもという時にのみ使い、決してつけたままにしてはいけませんよ」
説明を受けた女はとても喜んだ、男と同じ苦しみを受け男の苦しみを減らす事が出来る夢のような腕輪だった。
男に運命付けられた病は半年を越え一年程もった。そしてある朝、女の姿を見ないと確認にいった司祭が寄り添うように亡くなっていた二人の男女を見つけ同じ墓に弔った。
司祭はこの二人に安易に腕輪を与えた事を悔いて封印の間にしまうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《New:付与魔法のレベルが上がりました》
《New:スペル 鑑定【物品】のレベルが上がりました》
《New:スペル エンチャントを覚えました》
一瞬のうちに流れる映像をガレリアと共有する。
「なるほど、リュージ君も今の記憶は確認できたかい?」
「はい、悲しい話でした」
「確かに第三者の視点で捉えたならそうかもしれない、ただ当事者が幸せかどうだったかが問題だと思うよ。そう考えるとこの腕輪は紛れもなく協会関係の魔道具だね」
「この魔道具はやはり封印するべきでしょうか?」
「それは譲り受けた君次第だと思うよ。とりあえず外してみようか?司祭が最後に外す場面は見たね」
「はいコマンドワードの場面は見ました、開放せよ【エターナル】」
腕輪が淡く光りだし拡張したので両方とも外すことが出来た。
「見事な魔法だったね、付与魔法にも素質があるなんて羨ましいよ」
「お褒め頂きありがとうございます」
「ガレリアさま、今後もこちらにリュージ君を連れてきても良いでしょうか?」
「勿論歓迎するよ、ああ君もね」
「先生、私のことも忘れないでください」
「ごめんごめん、それからなんだっけ?ああ、新種の魔法だったね」
「そうなんです、とても素晴らしい魔法なのですが私も最近土属性に目覚めたばかりで良い指導が出来ないでいます」
「ほう、それは付与魔法・・・とは関係なさそうだね」
「多分、付与魔法の手法が使えると思うのです」
「なるほど、とりあえず見てみないと何ともアドバイスできそうもないね」
三人で外に出ると良い場所を探す、隣にある空き地もガレリアが管理している場所と聞いたのでそこで試す事にした。
「では、いきます。温室」収納から鉄筋棒が飛び出し指定した四隅に刺さる、その四隅を下から面状に土の魔力がせり上がっていく。ディーワンの先が中に入り地面に沈み込むと開墾が始まった。
「これは・・・そう、儀式魔法だね。膨大な作業を膨大な魔力でねじ伏せているイメージだね」
「中は暖かくなっていきます、完成まで少し時間はかかりますが」
「それはそうだろう、こんな魔法を完成させるには最低でも10人単位の魔法使いが必要になるからね」
「え?そうなんですか?」
「すぐにでも宮廷魔術師になれるくらいの潜在能力はあるね、これは指導が大変だね」
「他人事見たいに言わないでください」
ガレリアは完成された温室の面を指で軽くはじき強度を確認している。
「ある種の結界だけど強度的には心許ないね、でも用途は別の所にあるんだろう?何が問題なんだい?」
「はい、ご指導頂きたいのは時間の事なのです」
2日で温室が消えてしまう事を話すと「それはもったいないね」とガレリアは考え込んだ
「サリアル、君が考えているのはやはりアレかね?」
「はい、ただ常春さまの技術が復活することで動き出す者がいるのが心配なのです」
「私の技術は失われていると公言しているからね、ただ理論は残してあるのでそろそろ誰かが復活させてくれるのを期待してるんだけど・・・まだ難しそうかい?」
「ええ、残念ながら」
「これは見る人が見れば馬鹿らしい程の魔力が必要になるから大丈夫さ。問題は維持方法だったね、やり方はいくつかあるよ。まずは今までの技術のように宝石を使うやり方だ、これは維持コストの大きさが分からないのが難点だね。次に術者が身につけている又は長時間使用した魔道具を媒介して魔力を注ぎ込む、これなら内部に設置すれば比較的簡単になるはずだよ」
「ご指導ありがとうございます、後はリュージ君と色々試したいと思います」
サリアル教授もローレル教授にお願いされていたようで、この魔法の完成を期待されていたようだった。
「もし良かったらだけどその魔法に私も一枚噛ませてくれないかな?」こちらを見てくるガレリアとサリアル教授。
「えーっと、具体的に何をすればいいでしょう?」
「毎年冬場に亡くなる人がいてね、やはり冬の寒さには勝てないんだ。出来ればうちの敷地を提供したいんだけど、あの事件以来護衛がつくようになって警備上それは出来ないらしいのさ」
「では、この空き地に?」
「いや孤児院を中心に広い空き地があるようなので、そこを提供してもらえることになっている。ああ、今回の事件の担当はダイアナさんだったね。彼女が窓口になってるんだよ」
「この魔法が維持できるなら協力できると思います」
「ありがとう、では報酬の話といこうか」
「いえ、ご指導頂いた上に報酬なんて請求できません。特待生の責務と言うことで納得して頂けませんか?」
「うーん、では色々と資材面で提供させて頂こう。この大きさの鉄筋棒を用意すればいいかな?後、今まで使っていた付与魔法用の宝石を用意しよう。勿論技術もね」
「ありがとうございます、では準備が出来たら教えてください。それまでに色々試してみます」
「宜しく頼むよ」
ガレリア邸を後にするとサリアル教授にご飯を奢ってもらった。
昨日、試験が終わったので早い者は既に実家に向けて帰省をしている、講義は翌週でひと段落するので出来ればそこまでに完成させたいと言っていた。
今手元にある魔道具・・・ディーワンと腕輪があった、この二つがあれば魔法の時間延長は問題なく出来ると思う。また出来ると思った感覚があれば大抵のことは何とかなるのが魔法だった。
サリアル教授と別れた後は街歩きをする。
最初に【グリーンフレグランス】に行くと、ぐったりした店員さんを見かけた。
店先には立掛け式の黒板があり石鹸の次回入荷は○時頃ですと書かれていた。
「こんにちはー」と声を掛けるとこちらに気がついたようだった。
「すいません、石鹸は今入荷待ちなんです」
「いや、十分ダイアンさんから頂いているので大丈夫です」
「え?ではあなたがリュージさんなんですね、工場のみんなもとても喜んでいます」
「いやいや、みんなが頑張ってくれたからだと思いますよ」
「急に大増産体制と言われて自棄になってしまったと思ったのですが・・・これなら売れるはずですよね」
「それは良かった」
いつの間にか入荷時間を知り、いつの間にか家人が並んで買っていく。
そんな事を繰り返しながら購入制限をして、かろうじて多くの人に買って貰っている。
王家の姫君が愛用しているという噂は瞬く間に広まっていた。
「順調そうで何よりです、また今度顔を出しますのでその時には商品をいっぱい用意してくださいね」
「またのお越しをお待ちしております」
その後は協会と孤児院に顔を出した。
場所の下見を兼ねて行ったらシスターダイアナが丁度休憩していたようだった。
世間話から先日の騒動の礼をして、常春さまの話になり冬場の対策の話になった。
「毎年、年末年始には寒さが厳しくなります。王国からの支援が増えると配給などが多くなり、またそれに伴いボランティアの方として多くの方が長期間参加してくれます。その方達に提供できる場所が必要なのです」
ボランティアとしての役務をすれば食べるものには困らないらしい、後は自分の出来ることをするだけだった。
「冬場は食料価格も高騰します、もっと周辺国の暖かい地域で食料が充実してれば・・・」
協会は建前上国の支配は受けない、また一番の穀倉地帯であり農業王国のこの国が頑張るのが最善だと周りのシスターは言えないでいた。
「政策には口を出すことはできないので、やれることをやるしかないですね」
「ええ、お力を貸して頂けますか?」
「勿論です、自分に出来る範囲ですが」
腕輪により二人の人が死に、二人の人が生き残った。
この腕輪が幸せの象徴になるような使い方をするのが自分に架せられた責務のように思えた。