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159:憎しみの果てに

 王子と合流したのは最悪のタイミングだった。

ただ、全員無事なのは、ある意味最良のタイミングかもしれない。

王子の話では同士討ちをしていたと聞いていたので、きっとアーノルド領で出現した大きな蛇みたいなものが出ると予想している。


 ヴァイスは収納から新品のタワーシールドを取り出した。

屈めばその身をすっぽり隠してしまえるサイズで、確かラース村でマイクロが使っているのと同じようなものだった。

「ヴァイス、何が来るかわからないけど時間稼ぎお願い出来るかな?」

「ああ、任せとけ」

「ヴァイス、一人で無理する事はないぞ。俺も本気を出せそうでうずうずしているからな」

「はい、隊長」


 ダイアナとセレーネは馬車に乗っている。

二人には出てこないようにきつく言い渡されて、その影に隠れるようにザクスとレンが待機していた。

静かに風を読むように目を瞑るティーナ。

「来る」という一言だけで周囲に緊張が走る。


 それはいきなり発生した突風のようなものだった。

道の中央にいた王子目掛けて飛行してきた物体は、ヴァイスの盾で王子への視界が塞がり、更に王子の前に割り込んだ二人の近衛を確認したのか突風だけを残して上空へ駆けて行った。・・・そう、駆けて行ったのだ。

猛禽類の顔と翼があり、肉食獣の四肢を持つその姿は・・・。


「グリフォンか・・・」

「また、やっかいな姿になったもんだ」

「馬車から少し離れるんだ。狙いはどうやら俺らしいからな」


 怯える馬をなんとか宥めるレンとザクス。

「リュージ、こっち何とかならないか?」

「ヴァイス、少しの間だけ頼むね」

「ああ、分かってる。全員の安全が一番だ」


 馬車と馬が集まっている場所へ行くと、まずは温室の魔法で包み込む、これで外の音は気にならないようになった。

出来れば王子もこの中に入ってもらいたいけど、目下のところ敵の憎しみは王子に集中している。

「これだけじゃ不安だな」

「リュージ、何か敵を寄せ付けない魔法とかないか?倒す魔法でもいいぞ」

「ザクス、無茶言うなよ。そっち系は苦手なんだよ」

「こう、畑を何とかする魔法を使って・・・得意だろ?」

「畑・・・鳥・・・うん、出来そうかな?」


 地面に手をつき集中する。魔力で温室を作り上げたので、これ以上石壁などを作っても無意味だ。

畑で鳥避けに使う物・・・、地面から競りあがる巨大な十字架のような物、それが次第に形を成していく。

温室の四隅を囲うように生まれたのはカカシだった。


《New:スペル 案山子を覚えました》


 白い顔に麦わら帽子をかぶり、薄いデニムの色のような作業着を着ている。

首元には真っ白いタオルが掛かっていて、4体いる案山子はグリフォンを睨んでた。

温室の扉から王子を呼ぶと、護衛に囲まれながら温室の中に入ってくる。


 上空にいるグリフォンはすぐに王子を見つけた。

翼を使わず静止するように空中で留まると、威嚇するように広げた羽の上下に、4つの黒い魔力の塊が生まれた。

撃ち出された魔力の塊はまっすぐ王子目掛けて、温室を突き破る勢いでやってくる。

すると、4体のカカシがクルリと回転する。


 魔力の塊は直前でカカシに吸い寄せられるように進路を変え、手にあたる部分でくるりと掴んだかと思うと遠くに放り飛ばされていた。

「随分優秀なゴーレムだな」

「王子、あれは鳥避けのカカシという物です」

「ほう、害鳥対策に良いのだな」

「あそこまで優秀だとは思いませんでした」


 魔力の塊を弾かれて怒りを覚えたのか、グリフォンは一直線に上空から急降下を始める。

風を纏った鋭い突進だったが、またもグルグル回るカカシに注意を削がれ温室にぶつかる事も出来なく再上昇する。

「リュージ、こちらは大丈夫そうだ」

「はい、では行ってきます」


 呆然としているグリフォンに向かってティーナの矢が放たれる。

取るに足らないダメージだったが、それでも意識だけはそちらに向けられた。

「リュージ君、こっちへ」

「隊長、ありがとうございます」

「ヴァイス、ティーナ君を守るんだ」

「私は大丈夫」

「キアラ、レンのサポートを頼む」

「うん、分かってる」


 近衛は王子の安全を確認すると、馬車の中でガサゴソとやっていた。

実力だけで言うならば、隊長より強いはずの2名だ。

何か策があるのだと思い、まずはこちらの戦いに集中することにした。


 実践用の鎌を取り出すと、戦闘するぞという意思を込める。

昔ティーナに言われた弱さを克服する為だった。

近くには隊長がいて、敵の正面にはヴァイス・キアラ・ティーナが立っている。

グリフォンはまずティーナを標的に定めたようで、先程の急降下がティーナ目掛けてやってきた。


 素早くその前に割り込んだヴァイスは、重心を低くした上で片手剣を地面に置き、両手で支えた盾を無理やりグリフォンの顔にカウンター気味に叩き込む。

「マイクロさん直伝、シールドアタァァァァァック」

「ヴァイス、それ普通にみんなに教えてるから」

「隊長、それは言わない約束です」


 ズザザザザーと滑り込むように砂煙を上げているグリフォンは、まだ焦点があってないようだった。

その隙を見逃さず、割り込んでくれると信じていたティーナは狙い済ましたように矢を解き放つ。

2本・3本と当たった所で上空へ逃げ出すグリフォンに、今度は魔力を込めた鎌を精一杯振り下ろした。


 距離があるので直接のダメージは与えられないが、グリフォンは片方の翼に魔力の塊を受け、そこから具現化した巨大な鎖にぐらついてしまう。

そこに矢の追撃を受けると、怒り狂ったように翼を広げ、鎖の拘束を解き放ったと同時に、黒い魔力の塊を4つ発生させた。

解き放たれた魔力の塊は、半分はカカシが干渉して飛ばされ、2つはこちらに着弾する。

着弾と同時に地面がえぐれたのか?火薬のような感じで爆発していた。


 近衛が大量の鎖を全身に巻き、もう一人の近衛はでっかいハンマーで鎖の先のパイクを打ちつけていた。

徐々に鎖を地面に下ろしていくと、その先の巨大な鉤爪を持って、片方に剣をだらんと持っていた。

「とりあえず、地面に下ろして距離を取らせない事だな」

「ティーナとリュージ、大変だとは思うが少し頑張ってくれ」

「はい、隊長」


 魔力の塊に味をしめたのか、また4つの魔力の塊を上空で発生させるグリフォン。

鳥頭だから考えるのが苦手なのかなと思い、先に地面に手をやりカカシに多くの魔力を注いでいた。

放たれた魔力の塊はさっきより多く回転していたカカシの手に吸い込まれて、今度はその勢いのままグリフォン目掛けて打ち返そうと試みる。

4つのうち3つは遥か彼方に飛んでいったが、1つが無事グリフォンの胴体へぶつかった。


 不意な方向から受けた攻撃に我を忘れ、またティーナに急降下するグリフォン。

さっきの攻撃を覚えていたのか、急ブレーキをかけ割り込んできたヴァイスに強力な爪を振り下ろした。

体がひしゃげるほどの圧力に辛うじて耐えるヴァイス、その隙に近衛二人と隊長と自分は走りこんだ。


 隊長が横っ面を剣で殴りつけると、お返しとばかりに巨大な鉤爪を振りかぶる近衛。

その鉤爪を埋め込むように別の近衛が大きくハンマーを振りかぶると、化け物の悲鳴が木霊したように感じた。

首を切り落とす勢いで振られた鎌の一撃で、グリフォンは大きく暴れ一同は大きく距離をとった。


 かなり頑丈に作ってるはずの鎖が、軋んでいるように感じる。

打ち込まれたパイクも今にも抜けそうだったが、すぐに地面に魔力を流し硬化させると安定した。

それからはワンサイドゲームだった。


 カカシに魔力を与えていれば、魔力の塊は怖くない。

今度は馬車からポールウェポンを持ち出した近衛二人は武器を構え、ティーナは弓から槍に武器を持ち替えた。

安全性は高くても、どうしても相手に致命的なダメージを与えられなかったようで、4方向から攻撃を加えると闇の欠片が削ぎ落とされるように、グリフォンにダメージが蓄積されていった。

もう、最後だという頃には温室から全員やってきて、グリフォンの最後を見守っていた。


 そして、きっとこれが最後の一撃だろうという場面で王子が待ったをかけた。

「王子、どうされました?」

「まあ、待て。考えてみればソアラも悲しい女性だった」

「まさか、このまま見逃すのですか?」

「いや、それは出来ない。せめてもの情けで・・・、ダイアナ浄化してやってくれ」


 ダイアナは静かに前に出るとゆっくり頷く、ヒビが入った白い結晶を握り締めて女神さまへ祈りを捧げた。

「慈悲深き女神さま 豊穣を司る女神さま 光と闇は相容れぬ存在 しかし片方だけでは成り立ちません」

「不自然な闇は消え去り 安寧なる宵を待ちましょう 日は昇り、日は落ち 明日を生きる希望としましょう」


 ダイアナを中心に白い光が波紋のように広がっていく。

ダメージを受けるたびに闇の光を撒き散らしていたグリフォンまでその光が届くと、グリフォンの体の上に闇が集まりだし、その体は徐々に人間の体になっていった。ごふりと吐血をしたソアラは、もう一度闇に手を伸ばそうとする。

ダイアナの後ろにいた者から魔法が解き放たれると、光の綿毛がその闇を少しずつどこかに持っていった。


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