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149:夏祭り2

 農場で調理場の責任者をしているトルテは、元々商業ギルドの商品開発部門にいた凡庸な男だった。

この部門では、四半期に一度新しい商品をプレゼンする事になっていて、料理に限らず新種の食材や生活雑貨・薬・はたまた民間療法など、日々の業務から情報を得て現地に向かい、関係を構築してパッケージや商品化などを行う業務をしていた。

商品開発と言っても、王国としては一度打撃を受けた蔵に食料を貯める時期で、正直多くを求められている訳ではなかった。

ある者は薬問屋に出向し、ある者は商会に出向していた。


 トルテは料理に対する感があり再現性が高すぎた為、料理屋などに出向したにも関わらず下働きのような働きを任されていた。

商業ギルドでは、大きく分けて頭脳系と肉体系に分かれる事になっている。

そんなにアイデアが湧いてくるものでもないし、創造性という面ではトルテは人並みだった。

自分の将来を考えて悩んだ時期に、レイクから次々と課題が出るようになった。


 ばらばらだった部門が呼び戻されてチームになり、多くのヒントを貰ったおかげで次々と開発は進んでいった。

それはハムやベーコンだったり、特別な調理器具だったり、正直何に使うか分からない物もあった。

次第によく聞く名前として、リュージさんの事が出てきた。


 大きな施設で腕を存分に奮えるだけでも農場は魅力的だった。

元々料理は好きだったし、今までだって吸収出来ることは習得出来たはずだった。

これからはただの調理人として行きよう、ここが第二の人生として高望みは止めようと思っていた。


 ところが、リュージさんの求める物は違ってた。

ピザの研究と称して小麦の有用性を語り、パンを含めふっくら粉を使って新しい事にチャレンジをしていった。

新種の野菜で調理方法を指示したかと思うと、既存にない調理方法を提示したりした。

するとどうだろうか?王宮の副料理長を始め、自分より各上の料理人達が自分に教えを請うようになってきた。


 その頃になると、リュージさんはイメージや感覚で商品化をお願いするようになってきた。

決して何時までに・・・とか、予算は・・・とか言わない。

未知の料理や調味料に関しても、中心になる食材を教えてくれるし、どうしてこうなるかも丁寧に教えてもらえる。

その上で自分の再現力に期待をしてくれているのだ、これで創造力が湧かないなんてありえない。

王妃さまや他の貴族家の方に自分の料理を出す事に、当初は戸惑いを感じたけど、今までの固定概念を打ち壊した食材や料理法・味・演出など、皿を出すのに相応しいと思っていた。


 そう、一瞬自分の実力と勘違いし、驕った自分を自覚してしまったのだ。

借りているだけの力を、リュージさんはあっさりと公表している。

それが上位者に指示されたにせよ、きちんとレシピを売却するにせよ、自分にとっては信じられない事だった。

そして、・・・己を恥じたのだった。


 こんなにも自分の力を信じてくれる、リュージさんと調理場のスタッフ。

仕事をどんどん振ってくれる事もありがたいと思った。

いつかは分からないけど、リュージさんは冒険者として旅立つと聞いている。

帰って来た時に落胆されないよう、農場の食を守る覚悟を決めるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「トルテさん、カルツォーネ順調ですね」

「あ、リュージさん。思いの他、食材の消費が激しそうです」

「そりゃあ、そうだろう。農場で食事をした誰もが、あなたの料理に魅了されてるんだからな」

「人気ですね、トルテさん」

「やめてくださいよ、まだまだ修行中なんですから」

「すいませーん、カルツォーネ3つくださーい」


 徐々に高貴な人々から一般の人が増えていく。

並んでいる列には更にお客が並ぶ、そして客が見ているのは『GR農場』と『ワインバー』の文字だった。

ナポリタンを作っている3軒には農場のケチャップ使用と書いてあったし、『マヨケチャ』の店にも農場という文字があった。

焼きとうもろこしが香ばしい香りで客を集めると、スイカ売り場ではイベントで客を集めていた。


「さあさあ、お立会い。ここにあります、農場産のこのスイカ。食べればのどを潤し、爽やかな甘みで病みつきになることでしょう。そこゆくカップル、あなた達も興味があるでしょう」

「ダールス、何をしているんだ?」

「ああ、セルヴィスと奥方か。デートですかな?」

「それはいい、騎士団なら仕事をせんか」


「今日はこのスイカを売るのが仕事なのだ、所定の金額を払えばこのゲームに参加できる。勿論参加しなくても構わなく、スイカはゲームに勝利しても失敗しても進呈しよう」

「勝ったら何が貰えるんだ?」

「ほう、そこのいきの良いあんちゃん。騎士団へこないかね?」

「お宅の厳しさは知ってるよ」観客から笑い声があがった。


「ふむ、ならゲームに参加してみてはどうかな?失敗したらこの美味そうなスイカを一切れだ。成功したらこの丸ごとのスイカを差し上げよう」

「面白い、俺が一番手だ」


 デモンストレーションとして騎士団がダールスを目隠しし、木剣を持たせてグルグル10回回している。

10m離れたスイカの近くまで行って、真っ直ぐ振り上げ真っ直ぐ振り下ろすだけだった。

やけに慣れたダールスを怪しく見つめる観客、ダールスが振り下ろしたスイカはポコッと音がして騎士団のデザートになっている。

「試食で配らないのかよ!」

「配ったら売れないではないか、さあ若人よ早く目隠しをするのだ」

セルヴィスは、新しい販売方法だと思って感心した。


 グルグル回る焼きとうもろこしに、醤油をハケで塗っていく。

「なあ、姉ちゃん。もう出来てるんじゃないか?」

「いえいえ、まだです。先に本数を聞きますね」

「今焼いているの全部じゃダメか?」

「えーっと、後ろを見てもう一回その本数で良ければその本数を言って下さい」

「あ~・・・、二本で頼む」

「はーい、お買い上げありがとうございます」


 商品を渡すと、次のお客に本数を確認する。

すると、残った本数全部と言うので、後ろを向いてもらい再度本数を確認する。

味が分からない商品なのに、香ばしさだけで食欲を沸かせてしまう醤油の魔力は恐ろしかった。

どんどん流れ作業でとうもろこしを焼く、「甘い・美味い・香ばしい」と近くで見せ付けるように絶叫が聞こえてくる。

どうやらエールとの相性も良いようだった。


 閑古鳥が鳴いているだろうと思われた朝顔のブースは、まず風輪の販売をしていないのか多くの質問があった。

ガラス工房も今回の祭りに出店しているようで、そんなお客さんにはそちらの出店の場所を案内している。

次に興味が出たのは勿論朝顔で、一個だけ全開で咲いている花を紹介し育てやすい事を説明すると、取り置きという事で予約を受け付けていた。最悪一鉢も売れなくても、品種改良グループのメンバーが欲しがると思う。


 キアラ達を待っていたヴァイスとティーナは無事合流した。

マーリンは仕事があるらしく、キアラと一緒に来たベリアは、サングリアが気になると早々に出店に向かってしまった。

すると、今度はティーナが私も仕事が出来たと、二人を置いて人ごみに紛れてしまう。

仕方がないのでヴァイスはキアラと出店を巡る事にした。

一瞬ボーっとしてキアラを置いていってしまったヴァイスは、迷ったら困るなとキアラの手を取って歩き出した。


「ヴァイス、ぐっじょぶ」

こっそり呟く女性が後をつけている事を、ヴァイスは気がつけなかった。


 『GR農場』と『ワインバー』の文字を出していて、さっぱり売れてないのはサングリアだけだった。

出店の前にカフェとかであるような、黒板が置かれていて説明が書かれている。

『赤ワインを使った飲み物です、アルコールが少なく女性や子供でも気軽に飲めます。※アーノルド男爵家産ではありません』

この一言が周りを遠ざけた要因だった。


 アーノルド男爵家産の代替品として入ったワインは、『一味足りない』と周囲をがっかりさせたのだ。

王都民は忘れていない、ワインが飲めなくなった恨みを・・・。

完全な逆恨みなのだが、もう既に責任を取るべき相手も恨みをぶつける相手もいなかった。

結果的にここも噴水と同じように遠くから見てるだけで、勇気ある一人目のお客が出る事はなかった。


 酒が行き渡り、二品目の料理が手元に入る頃になると、噴水のお披露目をラザーとヴィンターから行われた。

ベンチもあったが、丁度良い高さに噴水があった。

座ろうとする人には警備の者が腰をかける場所を拭く布を渡し、女性にはひざ掛けのような物も渡していた。

王国から王都民への贈り物として噴水の設置があった事を宣言すると、「俺は酒がいいがな」と酔った男が茶々を入れた。


 協会関係者は噴水の使い方にハラハラしていたけど、女神像の説明はラザーからはなかった。

そして、ヴィンターも説明することはなかった。


 自分とザクスとレンは救護班の手伝いをすることにした。

日陰の場所に4床休憩場所を作ると、熱中症と急性アルコール中毒に備える。

他にも迷子センターの役割も担うことになった。

念の為、癒しの水が入った瓶を取り出すと、思い出したのでザクスに質問をしてみた。


「思い出した、ザクスちょっとこれをみて」

「ん?うーん。リュージ、これ何だ?」

「水の属性魔法で癒しの水って言うんだけど・・・」

「ケインさんにも使ったので、効能には問題はいと思うんだ」

「へぇぇ、レンもその場にいたんだ」


 薄桃色の少ない液体を何回か振るザクス、そして出した結論が「高濃度な回復薬だね」だった。

「高濃度?」

「うん、これって薄めて使えば良いんじゃない?多分、水魔法だからそういう魔法かと」

「・・・ああぁ、こういうことかな?」

大量の水で薄めた癒しの水をイメージすると、ソフトボールの大きさくらいの霧が発生した。


《New:スペル ヒーリングミストを覚えました》


 癒しの水は回復魔法のベース魔法だった。

迷子は何名か出たようだけど、無事お迎えが来て問題が起きることはなく、徐々に怪我人とか酔っ払いが増えてきた。

祭りの活気で盛り上がっているようにも見える、どの店も順調な滑り出しに少しベリアの事が心配になるのであった。


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