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147:祈り

 農場で待ち合わせしていたのでガレリアと一緒に行こうとしたら、ケインとフリーシアが馬車を出しますと言ってきた。

「帰りが何時になるか分からないよ」と話すと、毎日充実した仕事ときちんとした寝床があるので、気力は充実しているらしい。

ここに来て初日は休んだものの、すぐにナディアに仕事を習い真面目に働いていたようだ。


 深夜の中央広場、噴水前に協会関係者と噴水の工事に携わった者達が集まっていた。

遅い時間に何故召集されたのだと、協会関係者はヴィンターに説明を求めていた。

賛成派半分・反対派半分といったところだろうか?「こんな夜中に呼び出して」とブツブツ言ってる人もいた。

製作者チームとして纏まって挨拶をすると、ヴィンターから何名か補足があった。


「では、始めてもらえるかな?」

「こんな暗くては何も見えんぞ」

「少しお待ち頂けますか?決して協会の意向から外れるものではありませんので」


 エントが持っているランプを掲げ、大きく円を描くようにぐるっと回すと衛兵が大きく広がる。

噴水の所にいた衛兵二人が女神像の布を取って外に出ると、ガレリアが小さな石材の前で静かに魔力を流した。

中央の台座から水が噴水に零れ落ちるように流れると、その水には淡い光が溢れていた。


「キレイねぇ・・・」

「ああ、女神さまの前では穏やかな気持ちになるな」

しばらくすると、女神像を囲むように水が真上に噴出されて姿を隠した。


「・・・ヴィンターよ、何故女神像を隠すのだ」

「協会以外で女神さまを祀るのは認めないと言ったのは、どなたでしたかな」

「そうは言っても、この女神像を公開するのであろう。それは詭弁というものだ」

「出すぎた事を言いました。今回のこの噴水は市井の者の為に作られたものです、そして女神像も協会になかなか来られない者にも愛される存在になって欲しいと願っております」

「そういう者は協会に来れば良いではないか?」

「まあまあ、その辺の議論は一度保留になり、今回はヴィンターに一任したはずだが」

「そうだな、では女神像を崇めたい場合はどうしたら良いのだ?」


 ガレリアが自分の隣に来て、デモンストレーションを誰にしたら良いか聞いてきた。

自分は協会の作法を知らないし、メフィーとワァダとエントには断られた。

サリアル教授を見ると、「この場にふさわしい方にお任せしてはいかがですか?」と返された。

感動しているまま固まっているケインとフリーシアに、「女神さまへ祈りを奉げますか?」と聞くと、あっけにとられたのかゆっくり頷いた。


 噴水の女神像正面にあたる、大理石を敷いてある道の前に二人が立つと、靴を脱いで静かに一歩前に出る。

霧状になった水を避ける為のアーチをゆっくり進み、見学者はその横を少し離れて静かに見守っている。

厚手のマットの前まで到着すると二人は両膝を付き、胸の前で両手を組むと祈りの言葉を奉げた。


「祈りの言葉の後は、石材に埋まっている宝石に触れてみてください」

自分の言葉に反応した二人は一緒に片手を添える、すると女神像を囲む噴水が止み再び女神像が姿を現した。

「お聞きください、私達は罪深い者です」

「優しくしてくれた方を欺き、危険に曝してしまいました」


 二人の独白に協会関係者はざわざわしている。

ガレリアやサリアル教授も自分と同じように、二人の危うさに気が付いていたのだろう。

この場に相応しくないと動き出そうとした協会の者を、ヴィンターは腕を上げて静止させた。


「罪は消えないと思いますが、せめてその方達への謝罪として、これから生きてゆくつもりです」

「私共のような者の言葉を聞いて頂き、ありがとうございました」

二人して再び宝石に手をやると、本来噴水が再開するはずが、四方を囲む宝石に変化があった

紫水晶に手をかざした二人は共に淡く全身を光らせていて、その光は噴水を魔導リンクで結ばれた宝石を駆け巡る。


「呼ばれたのじゃー」

「私も来たわよ」

「あっしも来やんした」

「我も参上」


 宝石の真上にふよふよ浮いている、4大精霊さまは見える人と、見えない人がいる。

ただ、神聖魔法の淡い光が宝石をぐるっと回った事は全員に分かった。

そして、この場にいる全員の脳裏に話しかける者がいた。


『愛しき我が子らよ あなた達の強い想い 強い呼びかけを聞き 参りました』

「ま・・・、まさか」

「ヴィンターよ、お主にも聞こえるのか?」

「はい」


『私の現し身とも言うべき像の作成 大変喜ばしく思います』

「・・・」

「はっ!」


『あなた達の憂いは聞き届けました 人とは罪を犯してしまうものです』

協会関係者の一人が声を上げてようとして、すぐに誰に向かって話しかけようとしているのか声を止めてしまう。


『もしあなた達の憂いが一生続くものなら 私が半分背負いましょう そして共に考えましょう』

「なんと恐れ多い・・・」

「いや、これは慈悲深いというのではないでしょうか?」


『あなた達には既に私の加護が届いているようです 今為すべき事をするのです そして今を生きるのです』

「私達は今を生きて良いのですか?」


『愛しき我が子らよ それが明日を迎える覚悟になります 精一杯生きなさい』

「「ありがとうございます」」


 噴水が徐々に競りあがってくると、女神像の全てを隠してしまう。

二人して深い礼をすると、四大精霊さま達もいつの間にか消えていた。

元の位置に戻ると、大理石から降りて静かに自分の近くにやってきた。


「女神さまのお墨付きも貰えたようなので、今日からが新しいスタートですね」

「ありがとうございます。ここに来れて良かったです」

フリーシアから溢れる程の涙が出ていて、サリアル教授はハンカチを出して慰めていた。

二人を包む光もいつの間にか消えていたけど、もしかしてケインを助けた時の神聖魔法と癒しの水の効果で何かに目覚めたのかもしれない。フリーシアに関して言えば、ケインと魔道具でリンクしていた状態だ。

本人の希望次第だけど、協会の仕事に携わる可能性もあるかもしれないなと思った。


 半々だった評価を、がらっと変えたのはヴィンターだった。

自分達が奉じる女神さまの言葉を直接聞いたのだ。

その声を疑う事も出来なければ、否定することも出来ない。

この噴水については、協会の満場一致の回答として合格だった。


 次に協会で一番のお偉いさんらしき人がやってきて、ケインとフリーシアに語りかけた。

「私達の公式コメントとして、人は罪を犯すものだとは言えない。多くの人々はそれを律し、日々真面目に生きているのだ。ただ、協会には懺悔をする場所がある。私達の驕りがそのような場所を人々から遠ざけさせたのも事実だ。二人の勇気に感謝している」

「このような公の場所で、言うべきではありませんでした」

「いやいや、正直言って私達も女神さまのお言葉を頂けたのだ。二人の加護にも興味はあるが・・・、良ければ協会で働いて見る気はあるかな?」

二人は一瞬こちらを見たので頷いたが、二人の出した結論は農場で頑張る事だった。


「そうか、二人は良き人々に出会えたのだな。では、女神さまの言葉の通り今を生きよ。王国法と私達の正義は必ずしも合致するものではないが、人々の平和を願う気持ちは同じはずだ」

メフィーがうんうんと頷き、ヴィンターがケインの肩をポンと叩く。

「お二人は正規ルートで王都に来たので、犯罪歴とかもないですよ。皆さん誤解がないようにお願いします」

「では、ますます惜しい人材だな」

「ええ、私達の農場がひどい時は迎えに来てくださいね」

「精霊に愛された農場が・・・か?うちからも出向させたいもんだ」


 無事稼動した噴水に、全員時を忘れて見続けている。

エントが「じゃあ、一眠りして祭りを楽しむか」と言うと、日付が変わったであろう時間に、今日と明日も忙しくなるだろうと思う一同は随時解散していった。

帰りに時間がかかりそうな人は、いったん農場で仮眠を取ったらどうかと提案し大勢がやってきた。

出迎えたユーシスにお礼を言うと、シフトの調整をお願いする。

そして、ユーシスにもゆっくり休んで貰えるようお願いをするのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ねえ、あなた」

「ん?なんだ?」

「二人の間に男の子が産まれたんですって」

「ああ、昨日も一昨日も聞いたよ」

「そうじゃなくって、お祝いって必要じゃないかしら?」

「何度も言っただろう、10年は我慢するって」

「でも、孫達は王都に来てはいけないって言われていませんし。私達も禁止されてませんよ」

「もし、親切な冒険者さんがいたなら、少しくらいの届け物は考えよう」

「どちらに似るのかしら?スチュアートは優しすぎる所があるし、レイシアさまですかね?」

「健やかに育ってくれればいいさ」

「そうですね」


 セルヴィスは孫の剣術を指導するのに、体作りが必要だと思っている事を妻は知らない。

孫の誕生を喜んだ二人は、仲良く祭りデートに繰り出そうと考えていた。


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