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145:女神の噴水2

 一通り説明を受けたので、関係者が噴水の正面に集まると噴水の機能と魔導ラインの説明が始まった。


「よーし、リュージ。今日は俺が講義してやる」

「はい、エントさんお願いします」

「あなたに先生の理論が、きちんと理解出来ているようには思えないのですが」

「サリアル、そう言うな。俺だって付与魔術師の端くれだからな」

「何か不足があったら、サリアルが説明すればいいではないか」

「はい、先生の素晴らしい理論を、しっかり次世代に繋げたいと思います」

「理論だけで実現できなかったからな。ダメなら女神像に干渉するだけにしよう」


 まずは魔導ラインの理論をエントから説明された。

基本的に魔道具とは、アイテムを介して魔法を具現化したものを指す。

水筒に水が生まれる機能をつけた魔道具は、本人が水の属性魔法を使える必要はない。

基本的に一つの道具につき一つの役割を持つものである。

特待生寮にある【水を撒く乙女像】や自分が持っている水筒は、かなり高性能な部類に入っていた。


 お湯を出すという事に特化しただけでも、複雑な技術を必要とする。

今回求めるのは、『噴水(水)』・『水の発生と停止(水)』・『排水』・『安全性の向上』だった。

これをこの状態になったらこうなる、その状態になったらそうなると、複数の動きを一つの魔道具として一括管理するのが魔導ラインの理論だった。

ただ、一つの宝石で行うには魔力量が足りなく、広範囲で管理しないといけないので実現には至らなかった。


「では、ここからはエント氏に代わり、この私が説明しよう」

「はい、お願いします」

稼動の理想図として、ヴィンターから説明があった。


 女神像が設置されている台座には、時計のように12個の小さな穴が開いている。

ここから常時、女神を隠すように噴水が真上に噴射されている。

その他にも台座の中央から、水が常時零れ落ちるように全方向へ少しずつ流れている。


 女神像の正面を大理石の通路を、真っ直ぐ裸足で進むと、厚手のマットの場所で跪く。

噴水に接する位置にある小さな石材に、祈りを捧げると噴水が止まり、女神像が姿を現す仕掛けだ。

零れ落ちる水はこの時止まっていない、常時流れるが魔法なので溢れることはなかった。

最初は警備か協会関係者を置く予定だけど、後々は自然と祈れるように住民に開放する予定だ。


 問題はどこかのタイミングで行う清掃作業と、子供や常識を弁えない者が噴水に入った時の対策だった。

高さは大人の腰くらいなので、子供が乗り込むには少し苦労する。

きっかけを作る場所は、噴水に接する位置にある小さな石材が適切だと思う。


 ガレリアからは多くの宝石を預かっている。

今回必要なのは、輝きと大きさが揃った赤青黄緑の宝石と紫水晶2個だった。

噴水を囲むように外周に赤青黄緑の宝石を、女神像が持つ錫杖と小さな石材には紫水晶を埋め込む。

ワァダとサリアルと一緒に、噴水を乗り越えて女神像の所へ行くと分担を行う。

二人でサリアルの肩に手を乗せ、ワァダには水が発生する魔法を、自分は噴出するように調整した水の属性魔法を発現させる。それをサリアルが自身で解析しながら、紫水晶に情報を書き込んでいった。


 魔法が完了してサリアルが深く一息つくと、大事な事を思い出した。

「あ・・・、サリアル教授って付与魔法を使えましたっけ・・・」

「リュージ君、そう言う事はやる前に考えて欲しいです。これが付与魔法だったのですね」

「もしかして、今覚えたのですか?」

「ええ、元々ガレリア先生の手伝いはしていますし、着火という魔法は似たような技術だったので何とかなりました」

「恐ろしい程の才能ですね」

「リュージ君、それを才能で片付けてはいけないよ。サリアルの努力と集中力は、昔から群を抜いていたからね」

「サリアル教授に教えてもらった事を誇りに思います」

慌てて照れ隠しをするサリアル教授に、周囲は少し微笑んだ。


「よーしリュージ、続いての講義だ。今回用意した宝石は4種類だ何故だか分かるか?」

「普通に考えると水の属性魔法なので青系の宝石で十分ですよね」

「ふむ、模範的回答だな」

「もしかして、水火土風の精霊さまを模しているんですか?」

「何故そう思う?」

「一見すると相性が良いのかと思う組み合わせですが、精霊さま同士仲が良いからです」

「そうか、それは実際見た者じゃないと言えない台詞だな」


 今回は青系の宝石で纏めるという話は当初出たようだ。

それを理論の証明として推したのがエントだった、サリアルもその理論は熟考していて魔力不足という面で挫折していた。メフィーもワァダも理論としては勉強している、出来る出来ないは別にして画期的な構想だったから覚えていたのだ。


 サリアルとワァダはいったん噴水の外に出て、サリアルには黄色の宝石を埋め込んだ場所に、ワァダには青の宝石を埋め込んだ場所に立って貰う。

メフィーは自分が会った事がない風の属性魔法を使える人みたいなので、緑の宝石を埋め込んだ場所に立って貰う。


「まいったな、こんな事ならフレアを呼ぶんだった」

「リュージ、まだまだ甘いな」

「え?エントさんは火の属性魔法が使えるのですか?」

「属性魔法は無理さ。ただな、火の属性魔法とはエネルギーを司るんだよ。前に説明したんだが覚えてるか?」

「いえ、熱意だけ勉強したので」

そういうと、ガレリアとサリアル教授に爆笑されてしまった。


「ガレリア先生は正面をお願いします。なあ、リュージ、付与魔術師は『進め』が大事なんだよ。最初に魔力をぶつけると光るか熱を帯びるもんなんだ」

「なるほど、では行けそうですね」

エントが赤の宝石を埋め込んだ場所に立つと、魔導ラインの準備が整った。


「リュージ君、まずは女神像の紫水晶を、実際の指示を出す杖として考えるのだ」

「はい、ガレリア先生」

「そして、全ての宝石を魔力で感知できるように包み込むんだ」

「では、行きます」


 女神像の錫杖を中心に同心円状に魔力を広げていく。

全員宝石に手を置いて、何か変化があったらもう片方の手を上げて貰うようにした。

最初にガレリアの魔力が逆流してくると、小さな石材と錫杖が魔力で結びつく。

エントの細い糸のような魔力を掴むと、エントから一番近いワァダの水の宝石へ干渉する。

それからは水から土・土から火・火から風・風から水とラインが形成されていく。


 魔力が一周回ると、全員宝石から手を離した。

「理論的には出来たはずなんだが・・・」

「ガレリア先生、魔力が一箇所の宝石を通る度に加速しているみたいです」

「実験してみればいいじゃないですか。リュージ、いくぞー」

「はー・・・、あ、ちょっと待っ・・・」

エントが小さな石材に魔力を流すと、魔力が宝石を駆け巡り最後に女神像が持つ錫杖へ集まった。

トクトクトクと零れ落ちるように水が発生すると、女神像を隠すように盛大な噴水が台座にある12の穴から噴出した。


「わぁ、待ったって言ってるじゃないですか」

「リュージ、急げよー」

からかうようなエントの言葉に、急いで台座を降りて噴水から逃れるように外へ向かうと、全員から感動の拍手で迎えられた。エントだけは大爆笑していたようだ。


「第一段階は完了だな」

「ヴィンターさま、このまま進めてもいいですか?」

「ああ、協会での許可は事後承認という形で取るつもりだ。事前にエント氏より話を聞いているから続けてくれ」

「では、続けましょう」


 水の宝石にはラース村でやった排水の機能をつけ、土の宝石には【水を撒く乙女像】の時のように温度管理の機能をつけた。

エントが赤の宝石の前に立つと、ヴィンターが小さな石材の前から神聖魔法の光を流す。

すると、噴水の水が淡い光に包まれていった。

緑の宝石はメフィーに相談した結果、消音効果の機能がつくことになった。


 錫杖と小さな石材が紫水晶になっているので、魔力は自動的に蓄積されてく。

ガレリアの繊細な魔力でも十分に稼動が可能だった。

今は常時稼動していて、小さな石材の紫水晶に触れた時だけ噴水が止まる形だった。


「ヴィンターさま、以上で噴水は完成致しました」

「みなさま、ご協力ありがとうございます」

「では、緊急時には青い宝石に魔力を通してください」

「それはきちんと明示しておきましょう」

「後は噴水の水滴避けの無骨なアーチをどうするかだな」


 みんなが一斉にに自分を見てくる、これはやっぱり自分の仕事だった。

支柱の数だけ、収納から取り出した苗木をその付近に置くと、広範囲に魔力を流していく。

まるで蔓植物のように支柱に巻きつくように成長すると、アーチを覆うように植物が編み込まれていく。

常緑樹のようで特に花や実がなるようには見えない、成長が一段落すると周りから拍手が聞こえてきた。


「リュージ君の魔法を初めて見たけど、やっぱり凄かったね。出来れば王国に・・・」

「メフィーさん、自分は冒険者になる予定です」

「うん、分かってる。・・・後、少し相談なんだけどワァダを宮廷魔術師の一員として迎えたいんだ」

「え?・・・、うちは本人の意思を尊重していますが・・・。ワァダさん、どうですか?」


 メフィーから事前に打診されていたようで、驚いている顔はしていない。

学生時代魔法科に行くくらいだから、将来はそっち系の就職を考えていたワァダだったが現実は甘くなかったようだ。

「メフィーさん。まだ、迷っているようですから少し待って貰えますか?」

「ああ、優秀な魔法使いは国の宝だからね」

「うちもまだ始まったばかりなので、せめて3月まで待って貰えると嬉しいです」

「分かった。ワァダ、良い返事を待ってるよ」

「あくまで本人が希望したらですよ」


 意外な仲間からの意外なお誘いにワァダは迷っていた。

そろそろ特待生だけでなく、学園に通う卒業候補生達も就活が始まるだろう。

自分は既に冒険者を目指すと決めているので、みんなの応援をしたいと思う。


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