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139:試し切り

「ところで、リュージ。お前なんで鎌なんて持ってるんだ?」

「マイクロさん、戦闘中に喋ってていいんですか?」

「いいんだよ。こういうのも相手はむかつくもんだ」

「相手を挑発する手段、いっぱい持ってるんですね」


マイクロは上部に位置するSMPの鎌首を無視するかのように胴体を真横に一線すると、霧状に見えた胴体が肉感確かにがつんと数ミリ食い込む。これで倒せると思っていないマイクロは、すかさず剣を引き戻す。

ダメージをほとんど受けていないSMPが、絶好の位置に頭があるこの隙を見逃すはずはなく、真上からマイクロの頭に牙を突き立てようと鋭く振り下ろされる。


ティーナの弓から放たれた矢が、振り下ろされる鎌首の動きを躊躇させた。

矢はSMPの胴体に突き刺さると、一瞬SMPを包む空間がぶれたような気がして矢が地面に落ちた。

「マイクロ、そいつは協会の奴等が隠している闇の何かを使っている。何が起きてもおかしくないから油断するな」

「王子、その全部に警戒しろってアドバイスじゃ厳しいです」

「神聖魔法には弱いぞ、その為にダイアナを・・・」

「今、いませんねぇ」


近衛が闇を削ろうと角度をつけて剣を振り下ろすが、表面をなでただけだった。

すかさず二激目を繰り出そうとした近衛は、マイクロの制止に大きく後ろに跳ぶ。

足元をえぐるように、闇の塊がいつの間にか放たれていた。


「ホーリープロテクションも神聖魔法です。効果が切れないうちに討伐をお願いします」

「ああ、わかった。ティーナ、正確さより速射だ。少しけん制を多くしてくれ」

「はい、わかりました」

「お前はもうちょい周りを警戒しろ」

「マイクロさんの視野が広すぎるんですよ」

「真後ろから狙われてる訳じゃねぇんだから文句言うなよ。尻尾の方を頼むぞ」

「わかりました」

「リュージは少し動きを止めてくれ。その鎌はちょっとサポートしにくいから、出来れば魔法を頼む」

「はい、何をしても驚かないでくださいよ」


相手の意識を引くように、しばらくマイクロが攻撃をしかけている。

ティーナが矢を顔付近に乱射し、近衛が尻尾付近に攻撃を繰り出す。

目の前に格好な標的がいるのに、なかなか喰らいつけないでイライラするSMP。

次第にバラバラに攻撃を受けるのが嫌になったSMPは、体を一瞬震わせたかと思うと、自身を中心に闇の霧を纏わせた。「跳べ」というマイクロの一言に、一斉に距離を取る。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「レン君、彼女の様子はどうかな?」

「スチュアートさん、彼女は病気ではなさそうなんです。体力を回復出来る魔法はかけているのですが・・・」

「病気ではないとすると、毒や呪いか・・・。あの化け物を見たら、切り離して考える方が難しいな」


レンが神聖魔法の光を強めると、ケホケホと言っていた女性の口から高速で黒い影が飛び出した。

その一瞬を見逃さずに、スチュアートがレンを女性から引き剥がすと、影がスチュアートの頬をかすめSMPに向かって飛んでいく。女性は意識を失うと、呼吸が落ち着いたように感じた。


「スチュアートさん、大丈夫ですか?」

「ああ、このくらいは傷のうちに入らないよ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「行きます、蒲公英」

掌から光の綿毛が広範囲に広がっていく。綿毛がSMPの周りに広がった霧に触れると、ジュッと音がしてその霧の空間がごっそりと削り取られ夜風が進入してくる。

そんな光の綿毛を大きく迂回しながら、小さな影はSMPに向かって行った。


「やはり酸か、不用意に近付くなよ」

「マイクロさんも少し下がってください」

「後でレンに回復してもらうからいいさ、俺が下がったらみんなが危ないだろう」

「わかりました。でも、気をつけてくださいね」

「ああ、そういやレンに魔法かけてもらうのにお前の許可は・・・?」

「いりません」


若干鎌首の位置が低くなっているようにも見える。

さっきの霧がSMPを構成している霧で出来ているなら、全ての神聖魔法のダメージがその存在を削っているようだ。

大きな体を左右に揺さぶりながら、その牙からはヌラヌラとした毒液のようなものを滴らせている。

時折地面に落ちると、ジュッという音が聞こえているのでこれも酸の可能性があった。


徐々に削られているその体に向かって、黒い影が飛んでいった。

影がSMPの大きな口へ進入すると、一瞬びくっと身を震わせる。

その隙を逃さず一斉攻撃をするマイクロ・近衛・ティーナ。

闇を照らし出すように光の綿毛を増やし、逃走ルートを消しにかかるとSMPの目が赤く光った。


ギリギリギリ・・・と弓を引き絞ると、「マイクロさん、避けて」とティーナが悲痛な声を上げる。

ティーナの零れ出た言葉と同時に、解き放たれる矢に一瞬反応が遅れるマイクロ。

近衛が割り込むと、鎧をうまくつかってダメージを最小限に抑えた。


「王子を守るお前が俺を守ってどうする?」

「ひどいなぁ、せっかく貸し一つ作れたと思ったのに」

「スチュアート、そっちはどうだ?落ち着いているならこっちのサポートを頼む」

「撤退準備は完了しました。後は倒して無事帰るだけです」

「ティーナの嬢ちゃんが睨まれちまった」

「なら、今がチャンスじゃないですか」

「近衛が揃っても攻撃力は弱いな、ヘルツでも連れて来れば良かったな」


軽口を言い合っている間に、SMPに変化が起きた。

さっきの小さい影を取り込んだ事により、額の位置に微かな盛り上がりを見せた。

その盛り上がりが真ん中から横一文字に裂けると、第三の赤い目が出来上がる。

今度は金縛りのように動けなくなったティーナに向かって、第三の目から赤い光線のようなものが撃ちだされた。


スチュアートはティーナの弓を片手でトンと叩いただけで落とすと、女性一人を抱えて軽やかに飛ぶ。

軽快な跳躍に驚いていると、ふわっと着地をするスチュアート。体格に恵まれている者の動きではない事は確かだ。

「リュージ君、サポートはこっちでやるよ。そんな物騒な者をもってるなら、当たれば痛いんじゃないかな?」

「はぁ、またサリアル教授に怒られるわ。まあ、しばらく会わないからいいか」

「実践は初めてなんですが、いいですか?」

「ああ、無理はするなよ。お前もサポートしろよ」

「分かりました。リュージ君、君は後ろの方を頼む」


今までの戦いは、少し後ろから見ていた。

ティーナの弓矢は問題なく刺さっていたし、剣による攻撃は若干通りが悪かった。

マイクロと近衛が注意を引き付けている隙に後ろに回りこむ。

さっきより距離をとったティーナが弓を再び構えると、スチュアートはその隣で後ろを向き、剣を鏡代わりにしてSMPを視界に納めた。


射撃回数が減った事により、マイクロへの攻撃回数が増していく。

その背後から下でとぐろを巻いている胴体後半の部位に向かって、下から掬い上げるように全力で鎌を振るう。

シャァァァァァァァァァァッ。

腹に響く重低音がSMPの苦しさを物語っていた。

反射的に視界のギリギリから叩きつけるように打ち出された尻尾は、近衛が軌道を逸らそうと片手剣で打ち付ける。


「おいおいおい、一撃でそれっておかしいぞ」

「ヘルツさんに稽古をつけて貰いましたから」

「あいつは何をやってるんだ。やっていいなら俺が教えたのに・・・」

「マイクロさん、まだ倒れてないですよ」

「そんじゃ、ちゃっちゃとやるぞ」


近衛が尻尾に剣を打ち込むと、また一瞬霧状になって剣から逃れる。

さっきまでは見えなかったけど、光量が増えたので頭部の闇の中に黒い塊を見つけた。

「ティーナ、見えた?」

「え?何リュージ」

「多分、あの第三の目の位置に闇の塊がある。撃ち抜ける?」

「見てみないと分からない」

「ティーナ、今から胴体目掛けて強い攻撃するから、狙っておいて」


地面に刺さった剣を抜いて再び警戒する近衛、ティーナに「行くよー」と声をかけると鎌に光の魔力を込める。

自然体で鎌を振り上げ、ブゥゥゥンと背開きのように勢いをつけて振り下ろす。

ズゥゥゥゥゥゥゥン・・・、勢い良く砂煙を上げSMPは沈黙した。


「えーっと、見えなかったんだけど・・・」

「あ・・・、なんかごめん」

「まだ、油断するんじゃねぇぞ」

マイクロがSMPの顔を仰向けにすると、第三の目に向かって、まだ光が残っている剣を突き立てた。


《New:レベルが上がりました》

《New:レベルが上がりました》

《New:レベルが上がりました》

《制約/攻撃魔法の習得難易度UPが一段階解除されました》


その傷を修復するようにSMPの体が徐々に小さくなり、最後にはコロンと皹の入った小さな黒い宝石が転がった。



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