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137:虎穴

 宿屋の名前は【牧歌の羊亭】と言って、1階に酒場2階に宿泊施設がある一般的な宿だった。

まずはティーナと再開の乾杯をすると、情報交換を始めることにした。


「ティーナ、この領の出入り口って、あの検問所のところしかないのかな」

「これはギルドから聞いたけど、男爵領は思いの外広い。正規のルートはあそこしかないけど、人の一人や二人ならいくらでも入る道はあるそうよ」

「そっかぁ。じゃあへたに分散するよりも、王子が会いたい人を見張っていた方が見つける確率があがりそうだね」

「そうね、前のチームが撒かれたのは馬車だけを見てたからだしね」

ティーナとザクスチームはすぐに追跡した為、王子達が消えた経緯はよく知らなかったようだ。


「ザクスはすぐに帰ったけど、目的地がここなら是非会いたいと思っていた」

「ティーナ、やっぱりレイシアさまに会いたいよね。いきなりあの姿を見て驚いたけど」

「うん、レイシアさまは普段外に出てなかったの。さすがにスチュアートさまがこの領へ戻った事は、みんな分かっていたみたいだけど、なるべく少数の人にしか分からなくしていたみたい」


「お腹の子って、扱いは王子になるのかな?」

「リュージ。レイシアさまは公的に失踪しているし、ローラが第一王女扱いになっているの。そんな形だから王位継承権は発生しないと思う」

「そうだね。でも、子供のお披露目はすると思うんだ。その時に奥さんも一緒に紹介を・・・、どうやるんだろう?」

「それは、同姓同名のレイシアで押し切るんじゃないかな?」

「男爵家なら周りからあまり多くは言われないと思う。貴族はいざという時に、ちゃんとしてくれれば嬉しいだけの存在だしね」

「レン、何かふっきれた?」

「別に、そんなんじゃないよ。これでも伯爵令嬢として色々考えてるんだから」


 小さいグラスのエールから、ワインに移っていく。

さすがに夕方近くなると酒場も活気を取り戻してくる。仕事帰りの騎士風の男性や街娘風のダイアナとか・・・「ダイアナ?」思わず声に出すと、三人対二人がお互いに目を合わせてびっくりした。

二人をこちらのテーブルに呼ぶと、騎士とダイアナに向かって自己紹介をする。

この騎士は王子と一緒に旅に出ている近衛の一人だった。


 小声で「今、王子とセレーネさまはどちらに?」と聞くと、「何者かに捕まったらしい」と返事をした。

大きな声を上げそうになって、かろうじて自重する。他のみんなは唖然としていたようだ。

2班目のパーティーが見失った王子達を諦め、ティーナ達に追跡をお願いした頃、王子とセレーネは乗馬デートのように二人で併走していた。一旦別れて飛び出した近衛とダイアナも、途中で合流し少し距離を置いて追いかけるように馬を走らせていた。


 男爵領の近くで事件は起こった。

途中で動かない馬車を発見した王子は、馬から降りて何か話しかけていた。

どうやら御者の隣に座っていた女性が体調を崩していたらしい。

荷馬なので後ろには荷物が積んであって、このままゆっくりのペースで進んだら、アーノルド男爵領に入れなくなってしまうと言う。

セレーネがポーションを出そうとすると、商売で来ているので返せない施しを受けるのは困ると女性が言った。


 一定の距離を保ちながら進んでいたが、今回の旅では何かあっては困ると全ての事を疑っていた近衛は、この荷馬車の男女二人も怪しいと思っていた。

ダイアナは、「私が行った方が良いでしょうか?」と近衛に尋ねると、「止めておいた方が良い」と釘をさされた。


 様子を見守っていると、馬車がゆっくりした動き始め、王子達が男爵領のルートをはずれていった。

周りを確認し、その後を気取られないようについて行くと、一軒の屋敷に到着した。

王子は馬に旅の道具を入れたズタ袋を括りつけている。そして、腰には申し訳程度の武器として木剣を刺していた。

セレーネはエコバックにちょっとしたパンと保存食を入れているくらいだ。


 馬をつなぎ、馬車を停泊場に留めると4人は屋敷に入っていった。

ダイアナを安全な場所で待っているように伝えると、近衛は早速動き出す。

屋敷の外周を確認すると、中から質の低い殺気を感じる事が出来た。


 王子からは、「こういう楽しい事態が起きた時は、翌朝まで突入はするな。背後関係もあるだろうし、何よりそう何度も経験する事が出来ないだろう」と言われていた。

近衛にとっては耐え難い事だが、この程度を解決出来ない、若しくは命を落としてしまうとしたらその程度の王族とレッテルを貼られてしまう。問題はセレーネさまも一緒にいる事だが、王子の指示は絶対だった。

王子からの緊急事態の合図である布きれの存在を確認すると、ダイアナを馬に乗せてアーノルド男爵領へやって来たのだった。


 食事と宿を取り、王子達の差し入れをお願いした所で見つかったようだ。

ダイアナはここで留守番になり、この後はもう一人の近衛を連れて戻る予定だと言う。

そんな話をしていると、【牧歌の羊亭】にスチュアートとマイクロがやってきた。


「やあ、リュージ君。レンさんもティーナさんもお久しぶりです。ダイアナさんもようこそ。そして、そこの職務怠慢な騎士さんもね」

「スチュアートさん、そりゃーないよ。全部王子の我侭なんですから」

「王子の我侭は分かってるさ、それでもつかず離れず王族を守るのは近衛の義務だよ」

「そうだぞ、俺だって近衛じゃないのに、この領でこきつかわれてるんだからな」

「マイクロさんは動きが派手すぎて隠密に向かないから、裏とか言われてるだけじゃないですか」


 どうやら今回護衛している近衛2名は、マイクロやスチュアートより後で任に就いた者らしい。

王子も含めてつるんで暴れまくっていたマイクロと比べたら、今回の近衛二名は真面目すぎたのかもしれない。

先に来た近衛はレイシアの事を見ててもらうようにお願いをし、今回スチュアートとマイクロが動くようだった。

進んで危険に飛び込んで行ったとは、冒険者ギルドに報告は出来ない。


 スチュアートは目的の場所を聞くと、その屋敷は金で地位を買った商人が、貴族風の建物を商売の中継地点として作ったもので、今は誰も管理している者がいないはずだと言う。

マイクロが馬を2頭連れてくると、「勿論、お前達の仕事だから来るよな」と聞いてきた。

近衛は宿屋の親父から食料を受け取ると、もう1頭の馬を連れてきた。

スチュアートの後ろにレンが、マイクロの後ろに自分が、近衛の後ろにティーナが馬に乗ると、近衛はダイアナに早めに休むように伝えた。


 さすがに近衛・元近衛・裏近衛だ、一糸乱れぬ隊列を組んだかのように馬をあやつると、あっという間に現地に到着する。

「はぁ、こりゃ王子が油断する訳だ」

「マイクロさん、作戦はどうしますか?」

「うーん、リュージはどう考える?」

「王子って今は安全なんですか?」

「まあ、99%くらい鼻歌歌ってるね。早めに合図を出したって事は、危険じゃなく安全だというサインのはずだよ」

「それって突入を早まるなって事ですか?」

「はぁ・・・、ここにヘルツがいたら、間違いなく玄関からしらみつぶしなのにな」

「マイクロさん、裏近衛のやり方じゃなく、近衛のやり方教えてくださいよ」

「そんなんスチュアートに聞けよ」

「僕はもう領主だよ、顎で使う立場なんだから聞かない事。近衛として頭を使いなさい」


 そんな話を隅っこの方でしていると、1台の豪華な馬車がやってきた。

「ビンゴだね、これでもう入れると思うよ」

「じゃあ、まずは少し時間を置いてから油断させて捕縛か」

「あ、収納にロープとか預かって来ました」

「ほう、準備がいいな。ついでに王子も静かにしてもらおうか」

「マイクロさん、不謹慎ですよ」

「じゃあ、義弟としてちゃんとお前が文句言えよ」

「今はただの旅のローランドという男性のはずです。キリキリ捕らえましょう」


 屋敷の中から喧騒が聞こえてくる、ざっと10名くらいいるんじゃないかとマイクロが呟く。

レンと一緒に歩いて屋敷のドアを叩くと一瞬静かになった。

シーンとしているが、明かりが漏れているので人がいるのはバレバレだ。


「申し訳ありません、道に迷ってしまって。一晩だけでも良いので宿をお借り出来ませんか?御礼も致します」

「すいません、この辺は夜盗も多いのでお泊めすることは出来ません」

「そこを何とかお願い出来ませんか?夜盗と聞いたら戻る訳にも・・・」

「出来ないものは出来ないんです」

「私ともう一人は王都の学園の生徒です。ちゃんと証明するものもありますので何とかなりませんか?」


 押し問答をしていると、諦めたのか扉が開く。

若干不機嫌そうな顔を隠さずに女性が対応すると、念の為学生証を提示した。

何でこんな場所に来たのか質問を受けたが、馬車と馬が通った方面へ向かったら迷った事に気がついたと言うと諦めた。

もう一人男性が現れると、2階に行くように指示を受ける。男性はある部屋の前に行くと、カギを取り出しガチャガチャやると、入るように促しレンも入った事を確認すると、ドアを閉め再びカギを閉められた。


「あら、レンこんばんは」

「セレーネさま・・・、お怪我はありませんか?」

「ええ、王子が守ってくれていますから」

「ああ、危険な目にあわせてしまっているからな。今回はお前達が来たか」

「お久しぶりです、王子。何故こんな屋敷に来たのですか?」

「ああ、ただの盗賊だと思ったんだがな。他国で小魚を釣ったら、そのまま大物を狙えという諺があってな」

「レン、聞いた事ある?」

レンと一緒にセレーネも首を振っていた。


 新しい馬車が来たことを王子に話すと、「じゃあ、もうお暇するか」とつまらなさそうな顔をしていた。

外には援軍が来ていると伝えると、諦めたように王子は近くの窓に向かう。

はめ殺しにされている窓ガラスに、木剣の柄で衝撃を与えるとあっけなく割れた。

カタッっと音がして、もう一回カタッと音がすると、どこかからこちらの様子を見られた事に気がついた。


 また騒ぎが大きくなる。

王子は収納から片手剣と盾を取り出し、レンとセレーネに部屋の後方へ下がるように指示を出す。

仕方がないので練習用の木製の両手鎌を取り出すと、王子から何で練習用の武器を出すのかと聞かれてしまった。




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