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133:王子の行方

「はぁ・・・なあ、キアラ。やる気がないなら帰れよ」

「え・・・何?何か言った?」

「これだもんな。愛しのヴァイスさまと何か進展でもあったのか?」

「そんなんじゃないってば・・・。私は秘めた恋でいいの」

「それにしては、平常心失いすぎてるぞ」

「私はいつだって冷静だよ」

「あ、ヴァイス。来たのか」


 ここはとある広場。

主に子供を対象にした剣術教室で、まばらにいる生徒にゆるーく男性が教えていた。

キアラも何年か前までは教わっていた側だけど、今は教えながら一緒に稽古をしていた。

もう既にこのグループの中で、キアラがヴァイスの事を好きということが知れ渡っていたので、よくからかわれる事になった。


「そんなに何度もひっかかりませんよー」

そう言い、振り返ったキアラはヴァイスを見て固まってしまう。

何度引っかかっても振り返ってしまうのは、業の深さというかキアラの愛情なのかもしれない。


「先輩、お久しぶりです。キアラも元気か?」

「な、なんでここが?」

「先輩にはお世話になってるし、広い場所で声を出しても平気なのはここくらいだろ?ああ、お前を探してたんだ」

その一言でちびっ子と女性から黄色い悲鳴があがった。


 頬を赤らめフリーズしているキアラを置いといて、先に先輩に事情を説明するヴァイス。

ついでにスイカの手土産を取り出すと、先輩は「もう俺がお前に教えられる事はないな」と言い、訓練にならないからキアラを持って帰ってくれと言われてしまった。

「先輩、それ冷やして塩を少量かけて食べると美味しいですよ」

「ああ、わかったわかった」

小さい声で「お持ち帰りだって」という言葉も聞こえてきたが、先輩からの許可が出たのでキアラの手を取った。

軽く引くと呆然としていながらも歩くようだったので、急いで転ばないように農場へ向かった。


 途中、覚醒してヴァイスと手を繋いでいる自分に気がつき、またフリーズするキアラ。

それを何回繰り返したのだろうか?農場に到着する間際に、ようやく正常な状態に戻り事情の説明をされた。

キアラはさっきの先輩から、「もうここじゃない場所で訓練をするように」と言われていたのだ。

ただ、やはり女性が学ぶにはどこも門戸が狭いようで、自然と居心地が良いあのグループにいることになっていた。


 農場へ行くとすぐにベリアに迎えられる、するとセルヴィスとマインがやってきた。

「おやっさんを慕っている後輩達と一緒に教える事になるけど良いか?」

ベリアはマインとキアラに問いかける。

マインもキアラもとても喜んでいて、同じ年代で共に成長できるとお互いに喜んでいた。


 セルヴィスも指導はするが、長時間の打ち合いなどはもう厳しい年齢だ。

その点、ベリアはまだ若いし体力も有り余っている。

教える事で学ぶ事もあるとセルヴィスが説得すると、ベリアは二つ返事で受けることにした。

問題はいくら広いからと言って、農場で剣を教えるのは場違いな点だろうか?後でガレリアに相談するべき項目がまた増えてしまった。


 稽古は昼食が終わった午後からにして、先に食事を取ることにした。

食堂へ行くと調理場の責任者がすぐにこちらを見つけ、大きな声で呼びかけてきた。

「あ、リュージさーん。ちょっと試食をお願いします」

「もうカルツォーネが出来たんですか?さっすが」

「ピザで苦労したから派生系なら大丈夫ですよ。大きさはこのくらいでいいですか?」


 一人で食べきれるサイズのピザを半分に折りたたみ、ターンオーバーで焼いたピザがカルツォーネだった。

ワインバーでは、ピザをフォークとナイフで中央から淵に向かってクルクル巻く、お上品な食べ方をしているお客もいるらしいけど、これは見たまんま齧り付くタイプだ。

みんなに行き渡ったのを確認するとがぶりと行けるところまで齧り付く。


「あっ、あふ。チーズもたっぷりで・・・うわ、こぼれる」

「リュージ、慌てすぎだよ。少しずつ食べれば大丈夫そうだぞ」

「ヴァイス、これは熱さも楽しむんだよ。特に夏場なら暑いだろ?それを上回る熱さでガーンと攻撃してから、すかさずエールだな」

「そうだな、これはワインも良いがエールもいいな」

「キンキンに冷やしたサングリアも合うでしょうね」


 これで、出店でやる最後の一品が決まった。

油で揚げるか鉄板で裏返すかは、出店で出す担当と打ち合わせる事にした。

ユーシスとナディアには後でこれを食べてもらう必要がある。

セルヴィスには後で時間がある時に、ワインバーの調理担当者に来てもらうようにお願いをした。

これはレシピだけでは分からない点もあるからだ。

打ち合わせも大体済ませ、それがそれぞれの午後を過ごした。


 月曜日は学園に行くと、早速学園長から呼び出しがかかった。

教室には4つのテーブルに椅子がある実験室や美術・技術の教室みたいな場所だった。

正面には学園長とギルド職員が、後ろには隊長とラザーほか数名の教授がいた。


「ここに集まって貰ったのは冒険者ギルドよりDランク以上の認定を受けた学園生だ。もう既に知っていると思うが、王子の旅についてギルドより依頼が届いた」

「君達に依頼したいのは王子の発見・陰ながらの護衛・情報の報告だな。王子も理解はしていると思うが、積極的な介入を嫌っている。そして我々を撒く可能性も大いにある」

「この依頼を受けるも受けないも君達次第だ。ちなみに参加の意思を示した時点で依頼は達成となる。成果は問わないぞ」

「学園としてはこの期間、必修講義以外は免除とし、後で補講も受けられるようにしてある」

「では、時間もない事だし決めて頂こう。これは特にギルドからの指令でもなければ学園からの指令でもないのでペナルティはない。この教室から出てもらったら終わりだ」

ギルド職員からの問いかけに退出する学園生は一人も出なかった。


「皆、ありがとう。それでは、こちらで掴んでいる情報を伝えよう。現在、王子達一行はご婚約されているセレーネさまの実家である公爵領にいる」

「予想通りだのぉ」

「4月最終週の月曜に旅立ったので間もなく一ヶ月になる。このペースなら3ヶ月ではなく6ヶ月程度の旅になると予想されている」

ギルド職員は黒板を使いながら旅の工程を書き出した。


4月4週(月):王子の旅立ち

5月1週~3週(月):公爵領

6月~10月末:未定


 王子には夏祭りをする事を話してあるようだ。ただ、これは期間の真っ只中にあるので参加は出来ないと言っていた。

7月中旬~8月いっぱいまでは学園がグループ活動以外休みになる予定だ。

教授は何名か残るが、これは生徒の自主性に任す方針だった。

この期間に就職活動をする学園生も多く、長期の冒険やキャンプに行く生徒も多いらしい。


 王子の旅は期間も長く、場所も広範囲だ。

旅の途中では小さな村などもあるので、予め計画と張り込みをする必要があった。

まず旅に出ているのは王子・セレーネ・ダイアナ・男性の近衛二名だ。

紋章が入っていない馬車で出発していて、公爵領に入った事は確認していた。

張っていた学園生からの報告で、馬で有名な公爵領では乗馬をしたり、会食や買い物などを楽しんでいたようだ。

公爵家も交代で公爵領と王都を行き来していたので、この情報の信憑性は高かった。


 公爵領は近いので一ヶ月の滞在期間なら、そろそろ出発をする時期なのかもしれない。

現地にいる学園生からは定期的に連絡はあるが、どうしても情報にタイムラグがある。

今いる学園生は十数名だ、情報の共有をしながらそれぞれ役割分担をしたいと思う。


○王子の立ち寄る可能性がある場所候補(大幅に外れない方面別:考察)

アーノルド男爵領:レイシアが嫁いだ(公然の秘密)

ラース村:王家直轄領、叔母が協会にいる(秘密)

ノルド子爵領(現男爵領)と近隣の伯爵領及び男爵領:ワイン騒動の中心になった3領で、化け物になった元当主がいる可能性が高い。

ポライト男爵領:王家を含むマナーや躾を教えてくれる。

他、【貴族家の妻の集まり】で食事会をした領も通り道にあるし、一年間で処分された貴族家も多い。


 王国に近い順で回るなら、ラース村は一番最後になるだろうと予想される。

セレーネは婚礼の儀の衣装を最終的に合わせる必要があるので、少し早めに戻る必要があると思う。

その事を考えると、どこかで姿を消したらアーノルド男爵領が怪しく、最終地点がラース村になる事が考えられた。

今なら公爵領にいるので探す必要がないだけ楽だった。


 2から4名のチームで行動する事を推奨されていて、今いる学園生で何時・誰と・どうやって取り組むかの話に移って行った。

ヴァイスはギリギリまで王都で訓練してから行きたいと言い、9月10月にラース村で張り込む事を話した。

するとキアラも、「私も今のままじゃ足手まといになる」と言い、ヴァイスとパーティーを組む事になった。

ザクスは早い方が良いかなと言うと、ザクスだけじゃ不安だからとティーナがすぐ出立するパーティーを組んだ。


 他にも騎士科からはグループ長や副グループ長が、冒険科からはタップや他数名がこの会議に出席していた。

魔法科からはエントの講義の時に出ていた女性が参加していた。

この件については隊長がまとめて情報収集及び相談に乗ってくれる予定だ。

ザクス達には農場の馬車を使って貰う予定で、他にも2名が手を上げたので最初は4名で行くことになった。



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