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128:ブルーローズ

 今日はブルーローズの視察の日だ。

キリッとした朝を迎えキリッとした朝練をする、キリッと朝風呂に入りキリッと午前の講義を受けた。

学食で食事をとると、それぞれの指導員に視察の為午後のグループ活動は参加出来ない事を伝えた。

寮の執事を学園内で捕獲すると、早々に農場へ向かった。


 お土産用のスイカ一玉をキンキンに冷やして収納へ入れておく。

セルヴィスは朝から来ていたようで、ベリアと調理場の責任者と一緒に二つのサングリアを試していた。

レイクには昨日のうちに試作について話してあり、今目の前にあるのはベリアの領で作ったワインを使ったサングリアだった。

商業ギルドでは、このままワインを死蔵すると大赤字になるので、賞味期限が終わらないうちに全部使い切って欲しいと打診されてしまった。


 一日の作業が終わる頃には全員揃う。ゲストには職員用の風呂に入ってもらい、少しだけ良い格好をすると迎えの馬車がやってきた。サングリアなどは収納へ瓶ごと仕舞う。さっきまで時間が中途半端に余ったので、噴水のイメージ図などを描いていた。


 到着すると、ある一室へ通される。

どうやら今日は農場からの視察の為、貸切になっているようで、前回王子と一緒に来た際のVIP用の部屋に通されていた。

革張りのソファーに2班に別れるように座ると、支配人から挨拶が始まった。

セルヴィス・ベリア・ユーシス・エントのアダルトチームに、ヴァイス・ザクス・執事・自分のヤングチームだった。

ナンバー1嬢から挨拶して入場してくる。


「マイです。お越し頂き、ありがとうございます。今日は楽しんでいってください」

「ミィだよ。今日は甘えてもいいかな?私こちらのテーブルに行くね」

「私の名前はマインだ。好きな男性は強い男だ、だが私より強い相手に・・・」

「はい、マインちゃんそこまでー。今日は特別に妹がヘルプに来てくれたから呼んでもいいかな?」

ミィとマインがアダルトチームのテーブルにつく、マイがヘルプとしてアイを呼ぶとヤングチームのテーブルについた。


 全員乾杯のエールをお願いすると、4人の嬢が「「「「お願いしまーす」」」」とキレイにハモって黒服を呼んだ。

グラスと共にヘルプの嬢が各テーブルに2名ずつ到着すると、男性一名に対して女性一名のマンツーマン体制になる。

エントの掛け声で「乾杯」と高らかにグラスを掲げると、朝から水分を抑えていたであろう全員が半分まで一気に呷った。


「リュージさん、今日は視察ですよね」

「ああ、日頃お世話になっているので、お礼も兼ねてだよ。こういうの苦手かな?」

「あー、事情も説明しないで連れてきちゃったんですかぁ?悪いんだ」

「アイ、そういうこと言わないの。貴族の方もいらっしゃる健全な店ですので楽しんでくださいね」

「は、はい」


 ナンバー1であるマイは、テーブルで一番緊張している執事をほぐすべく、他愛もない話から始めていた。

ヴァイスとザクスはヘルプの女性達と、既に楽しそうな雰囲気を醸し出していた。

「リュージさん、今日はゆっくりお喋りできますね」

ナンバー1であるマイの妹だけあって、持っている空気感というか居心地が良い。

エールのグラスが空になると、次第にアーノルド家のワインに切り替わっていった。


「うむ、管理も抜群だ。丁度飲み頃になっているな」

「セルヴィス殿、誠に感謝しております。あなたのお口添えで当店に再び納入して頂けたとか」

「マインよ、いつもそういう話方なのか?」

「申し訳ございません、女性らしさというものが苦手で」

「もー、マインちゃん。難しい話は後だよ」

「ミィ、じゃあ早速例の物出すか?」

「「お願いしまーす」」


 だいぶ場が暖かくなったかと思うと、ツマミがところ狭しと並んでいく。

野菜スティックにマヨネーズ、プチトマトの盛り合わせ、一口で食べられるトマトの冷製カッペリーニ、ナッツ、クラッカーのようなものの上にカッテージチーズやジャム・マーマレード・レモンの蜂蜜漬けなどが乗っている物など、まさにパーティー仕様だった。

○○○パーティーを経験したことはないけどね。


「エンちゃん。ミィはプチトマトが食べたいなぁ」

「ああ、これだけあるから大丈夫だぞ」

「ミィは今お酒を準備しているから手が離せないのです」

「と、言うと?」

「ミィは手が離せないけど、今すぐ食べたいのです」

「ああ、わかったわかった。はい、あーん」


 空きっ腹にお酒をいっぱい入れるのは良くない。

少しのツマミでお腹を満たすと、厚切りの食パンを十字に4等分したピザトーストまで出てきた。

もともとこの店の調理担当は、色々な店から好条件で引抜いて、高位の貴族や王族まで満足する料理を出していた。

また新しい料理に対しても柔軟で、許可を得て最先端の料理にすぐ対応出来る技術を持っていた。


「これは凄いですね」

「ありがとう、リュージさん。シェフに伝えておくわ」

「お姉ちゃん、先週食べた料理はこれ以上だったよ。まだまだ美味しそうな料理が並んでたんだから」

「あら、じゃあ、うちのシェフを是非勉強にいかせたいな」

「リュージさん。お姉ちゃんのこの瞳から逃げ切れた人いないんですよー」

「アーイ、そういうこと言ってお姉ちゃんを落として、リュージさんを狙ってるの?」

「それは秘密だよー」


「セ、セルヴィス殿」

「な、なんだ」

「こ、このキュウリの切り口凄くないか。私が切ったのだが・・・」

「うむ、これはナイフも良いだろうが腕の問題でもあるな」

「わ、わかりますか」

「ああ、こう見えても色々な者に教えているからな。息子もそこそこの腕になったぞ」

野菜スティックの容器を持ちじっと見つめるマイン、それに気がつかない振りをして、どうしようか考えているセルヴィス。

微妙な緊張感にヘルプの二人の女性が、テーブルの男性に視線を送る。


「おやっさん、そろそろあれ飲んでもらったらどうですか?」

「ああ、そうだな。ちょっと失礼。リュージ君、あれお願い出来るかな?」


 セルヴィスから要請があったので、アイに黒服を呼んでもらう。

収納からサングリアを出すと、二つのテーブルに一個ずつ置く。

水の入ったピッチャーを持ってきてもらい、新しいグラスに準備してあった、レードルで注いでもらうと水でフルアップする。

さすがナンバー1の所作は美しかった、執事の彼はすっかりマイの虜になっていた。


 サングリアで本日二回目の乾杯に入る、今日は比較的お客のテンションが低いというか、ゆったりした感じなのでお酒のペースも速くはない。セルヴィスは「ワインは楽しく飲めれば良い」と考えてはいるが、酒なら何でも良いという勢いで飲むのは基本的に苦手だった。


「わぁ、これ飲みやすい」

「私お酒弱いから、これ嬉しいな」

「ほーら、そういう事言うと、お客様からお酒を受けにくくなるでしょ」

「えー、マイさん。これが美味しすぎるのが悪いんですー」

「ねぇ、支配人。飲みすぎて断るのも悪いので、これうちでも仕入れられないかしら」


「こらこら、お客様をほったらかしにしない」

「支配人ごめんね、ここはミィちゃんに免じて許して欲しいのだ」

「エンちゃんからもお願いなのだ」

「・・・エントさん。サリアル教授とガレリア先生に秘密にしておきますね」


「ねえ、リュージさん。あのエントさんとサリアル教授って何か関係あるんですか?」

「アイさん、世の中には知らない方が良い事もあるんだよ」

「じゃあ、二人だけの秘密だね」

「おーい、リュージ。レンに秘密にしといておくよ、それは俺達4人の秘密な」

「ザクス、それはお互いにな」


 途中シャッフルして、話す相手を変える。

「どうしても二人っきりで話したい場合はこっそり申告して」と話したけど、今回は視察だと話してあったのが効いたのか誰からも申告はなかった。次回からは予約すれば、一人でも来られるようになったので、今度は自腹で通う人も出てくるだろう。

ナンバー1のマイが自分の担当につくと、まずワインのお礼を言われる。

本当はガレリアとセルヴィスに向けた言葉のようだけど、代表してお礼の言葉を受けることにした。


 農場で出される料理は、どうしても大人数に対応出来るように大雑把な盛り付けになりがちだ。

ワインバーではワインの邪魔にならない料理か、ドーンとでっかいピザなど、こちらもやはり大雑把な盛り付けだった。

さすがはブルーローズだ。

すぐに客層に対応した食べ易さに纏め上げ、味も農場と差がない程のクオリティーまで保っていた。


 マイがナンバー1のナンバー1たる所以、それは感情の落差のようだった。

トップとしての毅然とした態度とは裏腹に、一瞬垣間見える緊張感がどこかあった。

そしてそれが緩まった時に、恋に落ちたような錯覚に陥ると言う、経験者(執事)による談だった。

そしてスイッチが入ったかのように、あの時食べられなかったレモンの蜂蜜漬けが口元にあったのだ。

「あーん」と言われれば、「あーん」と言ってしまうだろう。じっと見ているアイは見ない事にした。


 最後に数名の調理スタッフが現れると、握手をしてまわってくる。

ミィが相手をしている者は握手の後に、すかさず「ミィが上書きだよ」と握手を長い時間してくる。

そんなこんなで視察を終える事になった。

最後にスイカを丸ごと調理スタッフに渡すと、切り方と少量の塩をかける事を伝えた。


 季節の果物は、レイクを通して契約することになっている。

スイカを見る嬢とスタッフの興味津々な顔を見ると、早めにヴァイスにお土産として渡すべきだなと思った。


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