123:進路と青田買い2
サリアル教授がフレアを呼び出すと、ダールスとメフィーを紹介する。
国防の意味でも攻撃魔法が使える者は重要で、火属性魔法は攻撃魔法との相性が最高に良い。
メフィーはフレアに何点か質問をすると、最後には握手を交わしていた。
次にメフィーは魔法科の特待生に会いたいと言うと、サリアル教授は自分とレンとザクスを呼んだ。
「こちらの3名が特待生です。魔法科のリュージ君・農業科のレンさん・薬学科のザクス君です」
「ほう、三人とも良い顔をしている」
「ダールスさん、顔だけでは実力は分からないですよ」
「メフィーよ、日々の暮らし方や実力は顔にも表れるぞ。こんなごっつい俺や、得体の知れないお前なんかに呼び出されたら身構えるだろ」
「その表現はきついなぁ・・・。それで君がリュージ君だね」
「はい」
「私は宮廷魔術師団に所属しているメフィーです。君の話はちょっとずつだけど各所から聞いているよ。うーん、何と言うか才能だけで言うなら多分うちの団長クラスなんだろうね」
「えーっと、何と答えたらいいか分かりません」
「うん、言い方が悪かったね。君の溢れる才能は分かったよ。それでいきなりで悪いんだけど、君は王国に仕える事に興味があるかい?文官でも宮廷魔術師団でもいいんだけど」
「自分の第一志望は冒険者です。後、ガレリアさまと一緒に農場も経営していますので・・・」
「学生のうちから既に経営者か・・・」
「メフィー、当てが外れたようだな。では、こちらの視察に移るぞ。サリアル教授、申し訳ないが残り二人の特待生も紹介してくれないか?」
「はい、ご案内致します」
「もし、良かったら君達も来るかい?」
ダールスの呼びかけに3人は頷いた。
聖騎士団のグループ活動は、大半が訓練に始まり訓練に終わる。
学園内の危険箇所や揉め事、魔法科のグループからの出張依頼で盾役等色々あるが、隣り合う実践戦闘グループと稽古をつける事が多かった。
時々、「卑怯だぞ」とか「戦い方が真面目すぎる」だとか反目する事もあるが、それはグループの方針にすぎない。
大人数で移動するとこちらに気がついたのか、両グループ長がヴァイスとティーナを呼び出し、お互いに模擬戦をするように伝えた。
定石通り木剣に木の丸型盾を持つヴァイス、それを切り崩す目的でティーナは木の槍を持った。
二人はコートの開始線に立ち、始めの合図と共に緊張感が走る。
ティーナは握りを確かめるように手首を使ってくるくる回すと、挨拶代わりに鳩尾めがけて突き出す。
すると、行動を予測していたかのように盾で逸らし、滑らかにミドルレンジからショートレンジに距離を詰める。
慌てる様子もなくティーナは石突の部分で剣を持っている方の手を狙うと、ヴァイスは嫌がるように距離をとった。
「ダールスさま、あの二人が特待生です。騎士科のヴァイスと冒険科のティーナです」
「よく訓練されているな。あの盾の使い方なんて・・・ふむ、誰に教わったか分かったぞ」
「嬉しそうですね、ダールスさん」
「お前と違って、こっちの当ては外れていないからな」
示し合わせての打ち合いのように、お互いの攻撃はバリエーションを増してはいるが、ことごとくいなされてしまう。
それがとても楽しいのか、二人の顔には薄っすら笑みまで浮かんでいた。
その姿に触発されたのか、今まで見学していた者達も隣のコートで模擬戦を始めてしまった。
大抵、どこのグループ活動もそうだが、月曜は基礎練習や体作りをメインにしていた。
ティーナは左右の攻撃から上下に打ち分けてきて、ヴァイスは立ち位置とステップでかわす。
マイクロの教えを忠実に守っているヴァイスにとって、盾とは単なる防具ではない。
模擬戦では、往々にして武器を叩き落とす技が用いられる。
危険も少なく、相手を傷つける可能性を少なくするためだ。
今回、握りがあまくなった盾目掛けてティーナの繰り出した技が決まり、ヴァイスの盾が落ちることになった。
しかし、それはヴァイスが仕組んだ罠だった。
両手でも握れる木剣は、盾を落として油断したティーナのわき腹を横薙ぎに正確に打ち抜いていた。
「それまで、勝者ヴァイス」
お互いほぼ同格の実力を持っているので、勝負に対して引きずる事はない。
騎士科としての戦いは守りに特化したものであり、時間を稼げれば勝ちだし一人で攻める必要はない。
冒険科としての戦いは役割に応じたものである、一人でモンスターに戦いを挑むのは余程の実力者かバカがする事だ。
二人の信頼関係とは仲間が強くなることを喜び、その強さに負けないように自分が強くなることを誓う事だった。
サリアル教授は顧問に話しかけ、二人をダールス達のもとへ呼んだ。
「素晴らしい戦いだった」
「「ありがとうございます」」
「私の名前はダールス。ヴァイス君、君には何度か会っているけど覚えているかい?」
ヴァイスはハッと気付き、王国の正式な敬礼でダールスの所属と役職を言うと、「父がお世話になりました」と深々と腰を折った。ダールスはあの時に何も出来なかった事を詫び、ヴァイスはそれを否定する。
現にヴァイスがこの学園に入れるようになったのは、ダールスが残された母に仕事を斡旋し、家族が問題なく暮らせる環境を作って貰ったからだ。
断片的にあった出来事が、ほんの一瞬で繋がるまで時間がかかったのは、ダールスの優しさに甘えてはいけないという周りの配慮で、ヴァイスにとっては幼い頃に会った父の上司だった。
懐かしい親類の子供を見るような目で見るダールスは、「あいつと似てきたな」とポツリともらした。
「ティーナ君も動きが良いね」
「ありがとうございます」
「ただ・・・」
「ただ?」
「あれは君の本気ではないだろう。あ、いや・・・手を抜いているという意味ではない。きっと槍だけではなく、もっと多くの武器を扱えるのが仇になっているのかもしれない」
「あれだけで分かるものですか?」
「私を誰だと思ってるのかね?」
ニヤリと笑ったダールスは、二人に定期的にやっている訓練に来ないかと誘いをかける。
現役騎士も参加し、多分君達のOBも多いと教えてもらった。
二人がこちらを見たので、「大丈夫」の意味も含めて頷くと、「是非お願いします」とダールスに伝えていた。
「収穫なしなのは私だけですか・・・ハァ」
「メフィー、火属性の少年がいたではないか」
「今のところ、未知数としか言えないです。青田買いが青田刈りにならなければいいのですが」
「お前のところで育てるって頭はないのか?」
「火属性は本当に難しいんですよ。彼、見たところ魔法のバリエーションも少ないようですし」
メフィーの一言で、フレアがファイアボールしか使ってなかった事に気がついた。
こればっかりは魔法を覚える機会と想像力に依存する。
メフィーは聞くのを忘れていたレンとザクスの進路を聞いてみたが、彼の望んだ答えは得られなかった。
ヴァイスとティーナとはここで別れ、今から魔法科のグループに戻るより品種改良グループへ行った方が良いと思い、久しぶりに顔を出す事にした。
一週間こちらに顔を出していなかったので、少し緊張して教室に入ると、どどーんと一大プロジェクトのように大きく黒板に『グレーナ草の育成及び量産化への考察』と書かれていた。
基礎薬科グループと共同で特別チームを作り、ローラもその班に入っていた。
みんなに挨拶するとザクスを中心に、『グレーナ草』の色々な質問を受けることになった。
サリアル教授は二人のゲストを学園長のもとへ案内する。
少しの会話の後、王女に会ったかどうか聞かれた二人は、その事をすっかり忘れていたみたいで、慌てて品種改良グループにやって来ることになった。サリアル教授がローレル教授を呼び、その後二人はローラに挨拶をする。
メフィーは黒板の『グレーナ草の育成及び量産化への考察』を見ると少し考えた。
とても難しくて実用的ではないけど、王女が頑張るならあえて止める事はない。
「とても難しい課題だと思いますが、実用に漕ぎ着ければ大きな成果になります。頑張ってください」
メフィーがそう言うと、ローレル教授もローラもニコニコ笑っていた。
「メフィーさん、連絡が行っていませんでしたか?もう既に、一部では育成に成功されています」
「・・・バカな」
「メフィー、俺のところにも連絡は来ていないが・・・。いや、最近変わった奇跡の話なら噂に聞いたな」
「奇跡ですって?ダールスさん、そんな夢物語を信じているんですか?」
「いや、調べてないだけで最近いろいろ起きているのをお前は知らないのか?新種の野菜だったり、今年の凍死者0だったり」
「それはこちらでも把握しています、何も宮廷魔術師団は戦闘しかしてない訳ではないですから」
「これはラザーが緘口令を敷いている可能性があるな」
「それはきっとGR農場ですわ」
「ローラさま、それは聞いたことない施設ですね」
「ええ、4月に出来たばかりですから。母もよくお邪魔させて頂いています」
「「王妃が・・・」」
二人が目を合わせると、ひそひそと「調べる必要がある」だとか「危険はないのだろうか」と話していた。
「すいません、声が聞こえてしまっているので。今日はもう遅いので、明日なら案内出来ますが」
「リュージ君、君はその農場に伝手があるのかい?」
「メフィーさま、何を言っているかわかりませんが・・・。あそこはリュージさんの農場ですよ」
「ローラ、自分のとは語弊を招くよ。メフィーさん、ガレリアさまと共同経営させて頂いています」
驚いた二人は「いいのかい?」と聞いてきた。
午前に出たい講義が何点かあったので、午後なら時間が取れる事を話すと、二人の予定は大丈夫だと言っていた。
『グレーナ草』の事ならザクスの方が詳しいし、ヴァイスもダールスの案内に興味があるのか、二人はついてくると言ってくれた。ローラもついてきそうな勢いだったので、新入生はきちんと講義を受けないとダメだよと言い聞かせた。