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120:おねがい

「突然叫んでどうしたんですか?」

「リュージ君、水を使ったイベントで何か案はないかな?こう、オブジェクト的な物でもいい」

「うーん、場所と規模がわからないと何とも・・・」


 びしょ濡れで朦朧状態から戻ったナナが、恨めしそうな目でこちらを見つめてくる。

「ナナさん、ワァダさんは魔法で不安定な状態だから、不用意に近付かないでって言いましたよね」

「あ・・・、そうでした」

「まぁまぁ、リュージ君。人としては正しい行動だと思うよ」

「それが事前に注意されてなければなんですが・・・、ラザーさん秘密でお願いします」


 ワァダを抱き起こし、泥を払うとここでは邪魔になるので移動しましょうと連れて行く。

まだ時間があるのか、ラザーも農場の見学も出来ればしたいと言い、もしそちら方面に行くならついて来たいそうだ。

レンとザクスの進み具合を確認する為、ワァダとラザーを連れて移動した。


「ヴァイス君・ティーナ君、ちょっと良いかな?」

「「はい、ガレリアさま」」

「二人ともかしこまりすぎだよ、今はだたの下っ端男爵さ。少し付き合ってくれるかな」

「「はい」」


 ガレリアが二人をある一室に招くと席にかけるように言う。

すぐにナナがワゴンを押してきて、お茶を置き待機していた。

「特に問題は・・・、なさそうだね」

「「はい」」

「リュージ君の事は引き続き頼むよ。後、ローラさまの事もね」

そう言うとナナに目配せをして、テーブルの上に皮袋を二つ置いた。


「ガレリアさま、これは頂けません。リュージは既に学園で自衛の手段を学んでいますし、ローラさまも多くの人々に見守られています」

「私も同意見です、仲間に対して金銭の授受も後ろめたいというか・・・」

「ふむ、二人の意見はわかる。ただね、これは依頼に対する報酬なんだよ。表立ってランクには関わるように出来ないのは心苦しいけどね」

「でも・・・」

「ティーナ君なら分かるね、依頼を出す方も命がけなんだよ。中途半端な冒険者なら、そもそも依頼なんか出せないんだ」

「分かりました。ヴァイス、この分は働きで返せばいい。3人がこの農場に関わっているなら、私達は置いてかれるだけだよ」

「そうだな、ありがたく頂きます。リュージが鎌を持たなくてもいいぐらい頑張るか」

「それは正直微妙かな。一人でいても心配ないくらい鍛えよう」

「二人とも程ほどで頼むよ」


 丁度その頃レン達と合流すると、3精霊さまが見守る前でザクスが行った成長促進が形になっていた。

結構な広範囲だったので出力が足りなかったのか、野菜畑も花畑も芽が出るに留まっていた。

野菜畑の端っこにはお願いしていた、直売場の野菜を展示するような傾斜のついたカウンターが設置されていた。

そこから少し離れた場所に、百葉箱のような白い木箱が設置されていた。


「リュージ君、これはなんだい?」

「ラザーさん、精霊さまの希望で蜂などが来るようです」

「それは、ほっといても来るものだろう?」

「うーん、何かここって特殊らしいんですよね」


 多くの人が待っているのでラザーに少し待ってもらい、最後の仕上げに入ろうと思う。

「準備が出来たみたいですが」

「リュージ、ありがとう。蜂さんと蝶さんが来たいと言っていたので宜しくね」

「はい、仕上げは自分がやりますので、準備をお願いします」


 緑の精霊さまが、扉の開いた百葉箱の中へ何か集中しだす。

箱の中央に緑色の染みが発生したかと思うと、茨が球状の塊になり上部が少しずつ広がって空洞が生まれた。


「ザクス、続きやっていい?」

「ああ、魔力不足だし、これ以上は俺では力不足だ」

二つの畑に魔力で干渉する、土の魔力は十分足りているようなので、全体的に成長促進をかけていくと花畑に変化があった。


「畑の方は徐々に成長するでしょう。ユーシスさん、ここで収穫できた野菜は数本だけ、あのカウンターに置いてください」

「はい、こちらは精霊さま用に確保しておきます」

「では、花畑も満開のようですし。緑の精霊さま、大丈夫ですよ」

「ありがとう、リュージ。じゃあ、呼ぶよー」


 扉を閉めるように言われたので、近くにいたザクスが白い箱の扉を閉める。

魔法で召喚すると思っていたみんなは、「蜂さーん、蝶さーん出ておいでー」の言葉に変化を見守った。


 扉が閉まった白い箱の、正面上部から一匹の蜂が顔を出す。

習性なのだろうか?念入りにキョロキョロ辺りを確認すると、一直線に花畑へ飛び立った。

1匹2匹と蜂が飛んでいくと、今度は真っ黒なアゲハ蝶が姿を現した。

次第にどこからそんな出てくるのか?というような量の蜂や蝶が出てくる。


「普段はこちらで過ごしてもらって大丈夫です。もし、農場内を飛び回るようでしたら、お昼と午後の休憩がありますので、その時間にお願いします」

「うん、分かったよ。みんなにはちゃんと伝えるね」

花畑が一気に幻想的な楽園の姿に変える。

レンの「きれい・・・」という言葉に、お願いを聞いて良かったと思った。


 ラザーは感動していたが、この場所については秘密にしてもらった。

勿論、王家には隠すことが出来ないので、そこは了承したけど、ここは直接見た人だけの特権だ。

ユーシスに見学コースからは外して貰うようにお願いした。


「見事な精霊の園なのじゃ」

「ほんと、羨ましいわね」

「へへー、いいでしょー。蜂さんが後でお礼に蜂蜜を渡すんだ」

「坊や、それは蜂さんがするお礼でしょ。それじゃ釣り合ってないわ」

「うーん、リュージ。今、何か欲しいものある?」


 周りを見回しても緊急事態はない、・・・いや、フラフラし出したワァダが又、頭の上辺りに水の塊を無意識に生み出していた。

「リュージさん、グルグル回りますー。ちょっと横になっていいですか?」

「ワァダさん、ここは畑ですよ。部屋で水浸しも困りますが」

「リュージ、ここは私が手伝ってあげるわ」


 水の精霊さまがトンとワァダを叩くと、一瞬意識がはっきりする。

「なんて可愛らしい妖精さまだ・・・」

「あら、思いの他いい子ね。ただ、可愛いじゃなくて綺麗と言ってくれないかしら」

「き・・・れ・・・い・・・、だ・・・ぁ」

「一瞬だけ魔力を開放しなさい、いい?1・2・3」

上空に溜まった水の塊が一瞬のうちに広範囲に霧散した、周りの温度が数度下がったような気がした。


「リュージ君。今、何が起きたんだ?」

「ラザーさん、水の魔法が霧状に広がったんです」

「これはいいな、今のはリュージ君がやったのか?」

「いいえ、ワァダさんと水の精霊さまです。多分、今ので魔力切れ直前の暴走はなくなったかと」


 水の精霊さまがワァダの頭をトントンしていた。

幸せそうに眠るワァダには、後で少し仕事を増やしても大丈夫かなと思う。


「ねぇ、リュージ。おーねーがーいーは?」

「今ので十分ですよ」

「だめー、あの子は水の精霊が叶えたの。リュージのお願いを聞かないと蜂さんや蝶さんに怒られるー」

「えーっと、じゃあ夏場に向けて涼しくなる魔法を覚えたいです。氷とかあればカキ氷とかも作れるし」

「氷ならユキちゃんなのじゃ」


 ラザーがぶつぶつ喋りながら、事務所の方へ戻っていく。

ユーシス達も一通りここでの作業が終わったようなので、それぞれの仕事に戻りたいと言ってきたので了承した。

「ワァダさんも連れて行って」と慌てて職員に言うと、ユーシスが忘れてたと背負っていった。


「あら、ユキに用があるの?ちょっと起こすのに時間がかかるから待ってね」

「ユキちゃんは水の精霊の妹なのじゃ」

「へぇぇ、精霊さまにも兄弟姉妹がいるのですね」

「仲が良い者同士が勝手に名乗っているだけなのじゃ」

「もー、おじいちゃん。ちょっと静かにして、あの子寝起き悪いのよ」


 しばらく花畑を見ていると、レンが畑の土について感想を求めてくる。

土の精霊さまが「良い出来なのじゃ」と言っていたので、自信を持ってOKを出すと、とても喜んでいた。

ローラは自分より更に花畑に夢中だ、蜂や蝶に警戒されない位置まで近付くとうっとり眺めていた。


 色々見える者同士で自己紹介を進めていくと、ちょっとだけ周囲の温度が下がったような気がした。

「そろそろ来るのじゃ」

おじいちゃんの言葉に、百葉箱からこちらを覗き込む視線を感じた。




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