012:ある日山の中
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花壇の作業が終わると三々五々解散となった。
昨日に続き開墾予定地に行くと兵士の訓練は軽く流す程度で終わったようだった。
村長さんも見学に来ていたので明後日から1番に該当する畑の開墾をしたい旨を告げた。
「おお、そうじゃ。皆の準備が今日終わるので明日案内を頼むの」
代官には話を通しており報告要員として私兵が1名参加を予定している。
兵士は8名全員参加でゲイツさんとアラン君が犬を連れて山に入る。
ここに自分が道案内として加わる。
戦闘に関わるのは兵士とゲイツさんのみだが出来るだけ身の安全を確保して欲しいとの事。
明日は朝食後にゲイツさん家で合流し、背負うタイプのカゴを持っていくとの事。
「指揮のトップは兵士長に任せたので指示をきちんと聞くんじゃの、なーに戦闘のプロ集団じゃ大船に乗った気でいれば何時の間にか終わっておるの」随分と慣れた調子でそう話した。
それからゆっくり移動し食堂の裏口から入り挨拶をすると野菜の下処理に入る。
下処理が終わると大将は「少し仕事を見るといい」と言い調理の様子を見せてくれた。
そう言えば昨日覚えた2つのスキルは昔バイトで飲食店関係の仕事をしていたのと、自炊しているから覚えられたスキルだと思う。体は小さくなったが記憶も技術もきちんと覚えていたようだ。
そしてこの世界では技術や魔法等、使ってから初めてスキルとして覚える事が出来るようだ。
とは言っても学生の頃の作物・動物の知識や仕事に就いてからの地域復興関係の知識やファイル・資料なんかは今手元にないし、パソコン作業や車の運転なども異世界では覚える事が出来ないスキルになる。
スキルが取れたからといって明日の熊退治に出刃包丁とか果物ナイフを持っていくという選択肢は考えていない。実際、包丁渡されて熊と戦って来いって言われたら嫌だしね。
親方の仕事が徐々にヒートアップしてきたので食器が足りなくなる前に皿洗いに入る。
調理は一段落し遅いお昼休憩に入ると大将と女将さんに明日の事を相談する。
大将は兵士もお昼には戻って来られないだろうからと言い、軽く食べられるものを準備すると言っていた。
女将さんは「明日は気をつけてね、今日もおちついたら上がっていいからね」と言い、店の心配はいらないからと言ってくれた。
「あ、そうだ。裏庭なんですが結構なスペースありますよね。小さい家庭菜園も出来るんじゃないですか?」と言うといつもの答えが返ってくる。大将はもし何か作りたいものあるなら自由に使っていいよと言った。
前半の作業が終わると大将は明日の差し入れの準備に入り、女将さんはお昼寝をするようだった。
自由時間をもらったので裏庭の陽が当たる場所に足でラインを引く。
周りを二度三度見回したけど誰もいないようだった。
ウエストポーチからディーワンの一部を取り出してライン際に落とすと沈み込んだ。
地面に手をつき開墾と呟く、今回も開墾するエリアは狭いのでお浚いの意味も込めて丁寧に魔力を練る。昨日との変更点は地表から1cm下を残し開墾を行い石もそこのエリアで止めるよう操作する。
いきなり2時間の休憩時間で開墾してしまうと問題になってしまう。
魔法が完了するのに10分くらいしかかからなかったけどね。
作業が終わった後、何を植えるか種を出して考える。
「大根とかサヤインゲン等があると美味しいかもなぁ」一人呟く。
味噌や醤油があればもっと料理の幅が広がるから欲しいし、ハーブ類やオリーブオイルなんかあるといいかもしれない。一年暮らしてみればどんな土地か分かるけど、冒険者になるには都会に出る必要が出てくる。
とりあえず作業は終わったので軽く休憩し、後半の仕事も程なくして無事終わった。
孤児院に戻るとパンジーの方に発芽の魔法をかける。
続けてトマトの前に座ると地面に手を当てて苗に魔力を流す。
吸い上げる水分の通り道に魔力を溶かしこむイメージが合っているらしく新しい魔法を覚える。
《New:スペル 成長促進を覚えました》
明日の朝にはトマトもパンジーも変化が起きているだろう。
孤児院に入ると皆に囲まれ花壇の報告を受ける。
食事が終わるとアラン君には明日宜しくと声をかけた。
部屋に戻ると準備をどうしようかと考える。
杖は持っていてもおかしくないけどへたに武器を持たない方がいいだろう
後は水筒に水を入れてリュックに入れる。
ほぼ全ての荷物はウエストポーチに入っているからいいけど、お金がないので必要なものを買えないのが痛い。やる事も終わったので早めに就寝した。
朝早めに起きて花壇の前に行くと既に何人かいた。
パンジーからは芽が出ておりトマトの苗も若干伸びたようだ。
地面に手をあて魔力を薄く流す。
「うん、順調に育っているようだね。後は水をあげて少しずつ見守ろうか」と言うと年少組が私達で面倒みるとはしゃいだ。
食事が終わり荷物を持ってアラン君と一緒にゲイツさん家に向かう。
アラン君は既にカゴを背負っていて少し緊張した表情をしていた。
家に着くとすぐにゲイツさんが出てきて腰に手斧・背に矢筒と手には中くらいの弓を持っていた。
「おう、坊主ご苦労さん」ゲイツさんはそう言うとアランに犬を預け、自分にカゴを背負うように言った。カゴにはロープが入っており、その上にリュックを乗せる。
山への入り口が兵士達との合流地点である。
衛兵・兵士・私兵に挨拶する。
大将もいたので挨拶するとお昼を包んだものがあったのでそれをカゴに入れた。
「初めましてリュージ君、私が今回の責任者のマイクロだ。何も指示がない時はゲイツさんの指示が優先、私が何か言ったら私の指示が優先だから気をつけてくれ」軽く私兵に視線を向けるマイクロさん。マイクロさんは30台後半のがっしりしたタイプだ。
フルプレートの金属鎧にタワーシールドという出で立ちで冒険者から兵士になった戦闘のプロらしい。
他の兵士はブレストプレートの槍持ちが2名・革鎧で弓&ショートソードを装備した4名・短剣使いが1名だった。
私兵も革鎧でショートソードを装備していたが常に自分の死角になる位置に行くのが少し気になった。これ山狩りの調査じゃなく自分の調査目的だなと思った。
先頭はゲイツさんと自分、次にマイクロさんとアランが続き、槍持ち兵士・私兵・弓兵と続く。
「じゃあ、行ってきます」と見送りをしてくれた衛兵と大将に告げ山道を歩き出した。
まずはゲイツさんと合流した地点までゆっくりハイキング気分で歩く。
大人数の行軍なので結構音が出ていたが気にしない事にした。
合流地点へは1時間もすると到着した。
「ゲイツさん、この辺りってどんな動物がいるんですか?」と聞くと兎・狸・猪・熊など出るようだった。
ゲイツさんと最初に会話した場所に行き移動した方角を遡る。
程なくして爪痕が見つかった。
「これは・・・新しいな」ゲイツさんが呟く。
地面には落ち葉に紛れて茶色い毛が落ちていた。
「十中八九間違いない、ブラウンベアーだな。爪の位置からすると2mちょっとの個体だと思う」
アランは犬に毛の匂いを覚えさせていた。
マイクロさんの指示に周りは警戒を強める。
「縄張りの誇示なら爪痕は一箇所だけじゃないだろう。とりあえず行動範囲を絞るぞ」ゲイツさんがマイクロさんに頷く。
何も出ないに越したことはないけど今回は冬に向けての危険を極力排除したいのが本音だ。
なんか冒険っぽいけど一方的に狩られるのは怖いものがあるね。
冒険者として活動する時はきちんと修行してからにしようと心に刻む。
周囲の警戒が終わり移動を開始しようとした所で犬が吠えだした。