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119:覚醒間近

 土曜のイベントは無事終了した。実践戦闘グループのグループ長はとても感動していて、是非何かお礼を考えたいと言っていた。気持ちで伝えたいと言うなら受け取るのが礼儀だ。

「楽しみにしています」と言うと、次は寮の侍女二人とアイが挨拶に来る。

調理場の責任者に、「一週間は王国マナーグループの誰かが来たらお願いします」と言ってある。

3人が「楽しみにしてるね」と、揃ってウィンクして駆けていった。


「リュージ、楽しそう」

「「知~らない」」

「ま、まあ。いちいちみんなの悪ふざけに反応するのもね」

「ふ~ん」


 みんなで帰るので、ガレリア達に挨拶をする。

帰る前にはナナに色々書き込んだ設計図を渡し、ユーシスが解読すると「備品の発注はお任せください」と言ってくれた。

全員で夕陽が疎らに差し込む光と影を楽しみつつ、寮までの道のりを楽しむのであった。


 翌日は二手に分かれて行動する。

ザクスとヴァイスとティーナが農場へ直行し、自分とレンとローラが商業ギルドのレイクの元へ向かった。

すぐに対応してくれたレイクに乾物屋の話が聞きたいと言うと、早速馬車を出して案内してくれるようだ。

行く道で聞いた話だけど、その乾物屋は商業ギルドを通してなく、小さな商会を通して運営していた。

店の評判は最悪で、何に使うのか分からない干物・海藻類・処理をした薬草等、よく今まで営業が続いていたなと思うような物ばかりが置いてあるという。


 商業ギルドは突然、今まであった店がなくなるのも困るし、市場調査はギルドの管轄だ。

普段は下っ端にやらせるが、農場がいまや希少価値からも市場の独占具合からも、大手取引相手となっているようで、そのトップからの依頼は無碍には出来ない。

「ガレリアさんって凄いんですね」と言うと、どうやら自分の事のようだった。


 その店はラース村で懐かしい、駄菓子屋形式の販売スタイルだった。

ほっといても誰も取りはしない、もし取っても売り先がないとでも思われているのだろうか?

大きな声で挨拶をするとおじいちゃんが出てきた。

「いらっしゃい、次来た時この店があるかどうか分からないから後悔しないように買っとくれ」

「えー・・・、閉める予定でもあるんですか?」

「もう、年だからな。客が物の価値を分からないなら、この商売もお終いだよ」

「少し商品見てもいいですか?」

「ああ、何か良い物を見つけたら呼んでくれ」

そういうと店主は再び奥に篭ってしまった。


 来る時に聞いていた通り、謎な商品も多く並べてあった。

乾燥ワカメ?乾燥昆布?並んであると言うことは間違いなく食用だと思う。

別の一画には根っこがあったという事は、こっちはザクスが関係する部類だろう。

後でザクスを連れてきて見てもらおうと思う。


 問題はこの微妙なカーブがある木だった。

一つ手に持ち、軽く爪で弾いてみると見た目に反して結構軽い。

二つ目を持って両方を軽くぶつけてみると、澄んだ音が聞こえてきた。

奥から店主が再びやってくると、「少しは物を知っている者が来たか」と鋭い眼光がきらりと光ったような気がした。


 日本で鰹節と言えば、パックに入っている一人分サイズを想像するだろう。

削り方・原料によりバリエーションは豊富で、主に出汁を取るかお好み焼きなどに使われる。

これぞ、「ザ和食」と言われる食材に思われるが、モルディブという場所でもあると聞く。


 酒やチーズもそうだけど、一定の条件が揃うと遠い地域でも、「何でこんな似たような食品があるの?」というような類似性が発生する。香りを確かめてみてもほとんど分からない物だったけど、店主がナイフを取り出して少し削ってくれたら、まさに鰹節だった。カンナの変形バージョンまで売っていて、思わず昆布と鰹節を買えるだけ買ってしまった。

周りの3人は不安そうな顔で見ている、後でご馳走するからと言うとレイクが真っ先に「いいんですか?」と聞いてきた。


 店主にワカメの事を聞くと、どうやら少量を水で戻して増やせるタイプらしく、よく苦情がある商品だと暴露していた。

少量だけ購入すると、周囲を見回し海苔や味噌・醤油を探してしまう。

さすがにそういう調味料はないようで、次も買いに来ますのでと店主に伝えると、来月いっぱいまでは頑張るよと返事を貰った。


 馬車で農場まで送って貰うと、ラザーがガレリアとザクスを質問攻めにしていた。

ザクスはある意味、我関せずの精神で脚立に立ってゴーヤとヘチマを収穫している。

ガレリアがこちらを見つけると、急いで来るように言ってきた。


「リュージ君、良い農場だね。私も仕事がなければここに勤めたいくらいだよ」

「ありがとうございます、そう言えば頻繁に王妃さまが来ているようですが大丈夫ですか?」

「ああ、悪いね。迷惑かけてないかい?実は王様公認で君に迷惑かからなければ良いよと許可が出たんだよ」

「そうですか、こちらは警備体制が問題なければ大丈夫です」

「そこの所は安心して欲しい。企業なら秘密もあるだろうし、見られたくない場所もあるだろう」


 確かに情報は筒抜けだ、でもその分早い対応をしてくれているし、ガレリアはその件についてはこちらに一任してくれている。ラザーには「ナナさんがミスした時だけ見逃してくれれば良いです」と話すとガレリアに爆笑されてしまった。


 話は変わり、祭りについて色々質問を受けることになった。

今度ある祭り実行委員会では職員を出すし、セルヴィスも出席して貰う予定だ。

素直にその事を伝えると、「リュージ君は出席しないのかい?」と言われてしまう。

出席しても良いけど、その土地の祭りを一回でも体験しないと大きく外してしまう可能性がある。

「案は出しますので職員を宜しくお願いします」とお願いをすると納得してもらった。


 レイクが隅っこにある部材を確認し、ユーシスに検品してもらっていた。

レンに場所を話し、ザクスに今の作業を止めてもらい、ユーシスに人員を確保してもらう。

昨日、緑の精霊さまからの依頼をみんなに伝えたので、今日はレンとザクスに協力して貰って作業に入って貰う予定だ。その区画は昨日のうちに軽く耕してあった、レンがローラを連れて土作を始める。

ユーシスは大人数を集めて、田舎の葡萄や梨の直売所のような傾斜のついたカウンター作成を指示すると、別働隊に百葉箱のような大きさの箱作成をお願いした。


 真っ白な箱は正面が下半分くらいの扉しかなく、蝶番がついていて開閉式になっていた。

箱が完成し区画の土作が終わると、ザクスは預かった種をみんなに配る。

畑は2面分あり、片方は普通のキャベツなどの葉物野菜で、片方は花畑になる予定だった。

種を植えて水を撒き、ザクスが杖を構えると真剣な顔で集中しはじめた。


「ザクス、肩に力が入りすぎてるよ」

「あ、緑の精霊さま、こんにちは」

「ザクス、良い場所をありがとう」

「お礼ならリュージに言ってください」

「うーん、リュージにも言うけど今はザクスにも言いたいな。みんなも、ありがとうね」

「レン、緑の精霊さまがありがとうだって。みんなにも言っているよ」

全員でお辞儀をすると、レンが少し首を傾げる。


「ねえ、そこにいる弓を背負った小さい子が緑の精霊さま?」

「あ、リュージから話を聞いているよ。レン、よろしくね」

「緑の精霊さま、宜しくお願いします」


 挨拶や世間話が一段落すると、再びザクスが集中する。

ザクスの魔力量は多くなく、繊細な魔力操作をするのは難しい技術らしい。

まだ覚えたばかりの魔法操作でゆっくりと種に干渉していった。


「良い土に良い水があって、魔力を受けたら植物は抗えないのじゃ」

「もー、おじいちゃん。そんなんじゃないんだってば」

「あら、坊や。リュージに我侭言ったんだって」

3精霊さまがやってきたようだ。


 農場には何名か魔道具を使える人が存在する。

それはガレリアの教え子だったり、サリアル教授の関係者だったり、魔法科に所属していたけど魔法に縁がなかった者達だった。

農場のオープニングスタッフとして、調理場のサポートだったり水撒きだったり、魔道具を使う場面では引っ張りだこだった。

そんな中、段々仕事内容が固定されていくと、水撒きの魔道具を使う担当に変化がおきた。


 グリーンカーテンの下がかなり気に入ったのか、ラザーの質問は止まらなかった。

昨日王妃さまへ話した内容や、暑さ対策・夜間対策・警備対策まで相談されてしまった。

終わりが見えない話をしていると、少し離れた場所からふらふら歩いてやってきた職員が目の前で倒れた。

駆け寄ろうとするナナとガレリアだったけど、止められたのはガレリアだけだった。

揺さぶるナナの更に頭上からザバーっと水の塊が降ってきた。


 意識を取り戻した男性が起き上がると、ナナと頭をぶつけてしまう、見ているだけでコントだった。

少し前に聞いていた話だけど、この職員は「何かこの魔道具の魔法使えるかもしれない」と言っていたのだった。

周りに魔法使いが増えていっているのが少し不思議だったけど、みんな出来ることが増えているのは良い事だと思う。


「そうか、水だな」、ラザーの言葉にびくっとして続きの言葉を待つのだった。



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