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111:再会

 村長とノウムは家庭菜園を見て、あわあわしていた。

山へ行く無謀な者のうち、真っ当な理由としてあげられたのが『グレーナ草』の採取だった。

流行り病への特効薬として有名であり、一時期は薬師や農家、はたまた領主や王国に『グレーナ草』の栽培を求めた事があったそうだ。ところが生えている場所が悪い、抜いたら劣化する、育たない育てられないという薬草だった。


 そんな薬草が家庭菜園で、「もー、今年の○○は取れすぎちゃって困るわ」というくらい成長していた。

何十年も研究している人もいるだろう、それがお昼を買いに行って帰ったら出来ていたのだ。

「村長、婆ちゃんに知らせてきてもいいかな?」

「ノウム、そういえば今日の仕事はいいのか?」

「あ・・・、村長夕方はどう?後、きっと婆ちゃんが使わせてくれって言うと思う」


「リュージさん、この『グレーナ草』ですがどうしたら良いでしょうか?世話はしますが・・・、出来れば村の運営費から買い取れればと思うのですが」

「いえいえ、元々この村にあった薬草ですし。病気の方に適正な価格で対応してあげてください。後、王都で育てたいと思っているのですが良いでしょうか?」

「ええ、それは多くの者の夢ですので。出来れば栽培に成功したことを報告して頂けると助かります。ある一箇所のみで成功したとなると独占する者も出てきますので」

「わかりました、責任もって報告致します。後は夜にマリーさんのお墓参りをしましょう。出来ればマーガレットさんの情報がもっと分かれば・・・」


「リュージさん、マーガレットという女性を探しているのですか?」

「ええ、今生きていればかなりの高齢だと思います」

「うちの婆ちゃんもマーガレットだけど・・・。薬問屋の爺ちゃんと結婚して、店は俺の両親に任せてこの村に戻ってきたんだって。さすがに小さい頃に居ただけで、当時の事を知っている人もいないし、柵がなくって良いって笑ってたよ」

「もしかして、そのお婆さんに妹がいませんでした?」

「小さい頃に生き別れて、当時の記憶は曖昧だって言ってたかな。確かマリーって名前の妹がいたとか」


 村長と目が合うと、年代的にもぴったり合うのか村長が大きく頷いた。

ノウムのお婆さんが本人かどうか確証はない。ただ、一つの可能性として最後に会えるとしたら、会っておいた方が良いのだろうと思った。『グレーナ草』の事もあるので、夕方に村長家集合で墓参りに行く事にした。


 宿へ戻る道で花束を買い、御香があったので1セット購入した。

どんな香りが出るのか分からなかったけど、こういうものは思いが大切だと思う。

宿では荷物をまとめ、明日の早朝に出立する事を話すと先に会計を済ませておく。

早めに夕食を取り村長の家に行くと、ノウムとマーガレットも先に待っていたようで、またまた丁寧なお礼を言われてしまった。

どうやら『グレーナ草』を調合したのはこのマーガレットのようで、自分で自分の薬を作ってしまうなんて驚くべき体力だと思った。


 ザクスがこっそりマーガレットに、「これってあれをこうしてですよね」と質問するとマーガレットはとても驚く。

そして、こそこそとザクスに耳打ちすると、「ああぁ、なるほど」と感心していた。


 全員で墓場まで行くと、前回同様ザクスが明かりを持っている。

ヴァイスとティーナは前回安全を確認したので、今日は自然体で歩いていた。

自然体とはいつでも次の行動に移れる心構えが出来ているということだ。

目的の場所まで行くと、レンが花束を置き、ティーナが香に火をつけてくれた。


「ティーナさんにレンさん、来てくれてありがとう」

「マリーも元気だった?というのはおかしいか」

「うん、前より元気だよ」


「なあ、リュージ。前より存在感増してないか?俺にも見えているぞ」

「ヴァイスにも見えてるのか・・・と言う事は」

村長がノウムとマーガレットの前に立つと、ティーナが村長の肩を叩き、「怖がらなければ大丈夫」と微笑む。


「ねえ、お姉ちゃんは見つかった?怪我とかしていなかった?」

「マリー、マーガレットさんはね・・・」

「お嬢ちゃん、その先は私から説明するよ」

「あなたはだーれ?」

「マリー・・・ごめんね。私、間に合わなかったの。こんな年をとってしまったけどマーガレットよ」

「お・・・おねえちゃん?」

「そう、はっきりと思い出したの。二人きりの家族になってしまったけど、マリーはいつも一緒にいてくれたよね。お父さんとお母さんがいなくなって、寂しいけど寂しくないよって何時も言ってたね」


「マーガレットさんはすぐに山に向かい、薬草を取る時に事故にあったのだ。ずっとマリーさんの事を心配していたんだよ」

「おねえちゃん、すぐ無茶するんだから・・・私、心配だったんだよ。もう、苦しさもなくなったはずなのに何故か光の先に行くことも出来なかったんだからね」

「マリー、ごめんね。こんな近くにいるんだったら諦めなくって良かった」

「え・・・もしかして、おねえちゃんも?」

「弱気になって病に負けるところだったよ、多くの人に助けられたけどね」

「よかったぁ・・・、おねえちゃんが先に行っても私とは会えなかったからね」


 収納から魔力鉢を出して、『グレーナ草』を種から成長させる。

元々の種に魔力の残滓があったようで、かなり力強く成長した。


「あれから何人も何十人も流行り病に罹ったよ。私は偶然、薬問屋の夫に見初められて薬の事をいっぱい勉強したの。どうしてこんな情熱を持てたかは、今思えばはっきりしてた。学園から来てくれたこの子達が『グレーナ草』を育ててくれたんだよ」

「じゃあ、もうみんな苦しむ必要ないね」

「うん、もうこんなお婆ちゃんだから、間もなくマリーの所へ行けるよ。もうちょっとだけ、その光の向こうで待っててくれるかな?」

「おねえちゃん、これだけ待ったんだからゆっくりでいいよ。私の願いはきちんと女神さまが叶えてくれたしね」


「もう行ってしまうのかい?」

「うん、私が長くこの世界にいると良くないみたい。周りから声も聞こえ出したしね」


 村長が少し心配しているけど、まだ深刻になるほどではないと思う。

ヴァイスとティーナはまだ自然体だし、レンも大丈夫と言っていた。

マリーのお墓の横に『グレーナ草』を植え、魔力鉢には土を入れ一粒の種を植える。


「マーガレットさん、お別れはいいですか?」

「ああ、すまないね。ほら、ノウム。大叔母さんに挨拶しな」

「おねえちゃん、ひどい。私はまだ若いんだからね」

「マリーさん、婆ちゃんが心配かけました。盛大な葬式をして送り出すので、婆ちゃんの事をお願いします」

「こら、ノウム。マリーが待っててくれるなら、10年でも20年でも頑張るよ」

「おねえちゃん、ノウム。元気でね」


「マリーさん、リュージです。多分、道案内出来ると思うので、光の行く方へついて行ってください」

「ありがとう。みなさん本当にありがとう。おねえちゃんバイバイ」

「マリー、またねでしょ」

「うん・・・じゃあいくね」


 魔力鉢に光の魔力を込めていく、通常植物への干渉は薄い緑の魔力が灯る。

光の魔力が種に干渉し徐々に成長していくと、花が咲き、種の先に綿毛がついた1輪のタンポポが生長した。

タンポポは淡い光に包まれて辺りを照らしている。

その綿毛をそっと包み、フッっと吹くと光は広がり蛍のようにあちらこちらに飛んだ。


 マリーの姿が徐々に薄くなって行き、小さな光になると綿毛の一つについていく。

墓場の中から何個か色の違う光が出たようだけど、それぞれ綿毛についていくと、光は徐々に上空へ向かい拡散していった。


《New:スペル 蒲公英を覚えました》


「マリーは幸せだったよ。生きた年数は少なかったけど、これだけ多くの人に見守って貰えたんだ」

「婆ちゃん、まだまだ逝けないな」

「ああ、お前が一人前になって結婚するまではね」


「マーガレットさん、この病で苦しむ人がいなくなるよう私も頑張ります、お力を貸してもらえますか?」

「村長、こちらこそお願いします」

マーガレットが素性を隠して、薬師の一人として活動していたようだけど、今はもう動くしかない。

これからノウムへの教育は厳しくなるだろうけど、それは仕方ない事だろう。


 最後に全員でお祈りをすると墓場を後にした。

依頼は完了した、これでしばらくは墓場からの異音の話はなくなるだろう。

翌朝は宿に挨拶をすると、急いで王都へ馬車を走らせた。


 その日、野営をした時に流れ星を見た。

この世界で人が死んだ先、どのようになるかは分からない。

ただ、その人の思いに報いる為にも、今日を精一杯生きなくてはならないと思った。




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