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106:学園長のお話

 学園には様々な教室がある。

普段は講堂を思わせる大人数を収容出来る所を利用しているけど、今日指定があったのは小さな部屋だった。

学園長による講義で、特待生全員で教室に入ると円卓があり好きな席を勧められた。


「皆よく来てくれた、そして二学年進学おめでとう。半年で卒業する者がいれば三年間みっちり学ぶ者もいる。学年には意味がないとも言えるが、限られた学園生活を楽しんで欲しいと私達は思っておる」

「「「「「はい」」」」」

「通常、特待生にはこのタイミングでこの講習を行うことになっている。まあ、気楽に聞いて欲しい」


 学園長の講義の内容は、今までにいた特待生がこの学園でどんな事をして、どんな事を学んだかと言う事だった。

当時は貴族の学園しかなく、学園が出来てからもここに通えない子供達に門戸を開き辛い状況は変わらなかった。

そんな中多くの人々から協力を得て、才能ややる気に満ちていても金銭的に厳しい者へは特待生制度を設けて受け入れる事にしたそうだ。そういう生徒はすぐに学業を修めて、仕事に就く特待生がほとんどだと言っていた。


 特待生の中でも可能性で終わった学生もいれば、大きな功績を残した学生もいる。

今までで一番の功績を残したのは、ガレリアを中心とした『常春さま』だった。


 そして、事件が起きた。

全員が内容を知っていたので割愛されたけど、大きな成功には足を引っ張る者も現れると学園長は悲しい顔をしていた。その他にも騎士科なのに魔法にはまったサリアル教授の事や、現在の講師・教授達の中にも特待生だった者がいっぱいいると教えてくれた。


 そして本当の講義はここからだった。

多くの特待生には貴族家からの援助と言う名目のちょっかいが入るのが常だった。

それは国の内外問わずで金だけではなく、ある時は暴力で、ある時は身内を盾にして脅しにかかった。

王国に就職する特待生が多い中、他国に行ってしまった者もいたが二重スパイとして活動する者もいたのだ。

その時の特待生は1人や2人しかいなかった時期で、悩みを打ち明けられなかったそうだ。

講師・教授達も貴族家出身が多く、信用が出来なかった為に起きてしまった不幸な出来事だった。


 ある薬学科の特待生はポーションではなく毒薬を作り、ある魔法科の生徒は失踪したまま他国の宮廷魔術師になったと聞く。騎士科や冒険科でも名前を隠して活動している特待生もいた。

必ずしもこの王国へ敵対するだけの為に行った活動とは断言出来ないが、そのまま王国に残ったらこの国へ利益をもたらせてくれたかと思うと考えるものがある。


 今期は特待生が5名揃っていて王家からも手厚い保護を受けている。

また人間関係も良好のようで特別は心配していないと言っていた。

また、学園全体で特待生だけではなく全生徒を見守っているので、自衛は大事だけど学園内では健やかに過ごして欲しいと言われた。

そして、決意としてもし5人の時に直接的な裏切りがあったとして、お互い戦えるかと質問を受けた。


「「「「ザクスは倒せるね」」」」

「おい、何で俺限定?しかも真っ先に」

「だって、ザクスだもの。その前に伏せって言えば動かなくなるかな?」

「俺はペットか」


「ティーナとヴァイスは難しいかな?」

「今のザクスにはやられないよ。盾で全部防ぐからね」

「そうだね、サボり魔のザクスにはやられない」

「私がお願いしてもダメかな?」

「「その時は逃げる」」

「レンは最強かもしれないね」

「「「「え?最恐はリュージでしょ」」」」

「えー・・・」


「魔王さまとは戦いたくないな。あれは正面に立った者しかわからない」

「リュージと戦えるなら私は勇者になる」

「おい、ティーナが勇者で自分が魔王?」

「ティーナ、魔王が相手なら勇者チームで戦えばいいんじゃないか?」

「ヴァイスまでそれを言う?というか魔王確定なの?」

「「「「うん」」」」

「鎌なんて持たなければ良かった・・・」


「まあ、仲がいいのは良い事だけど冗談はその辺にしてだ。自衛の手段はきちんと学んで欲しい。私の講習はここまでだ」

「「「「「はい、ありがとうございました」」」」」

「そして、ここからはお願いというか依頼になる」


 3月に行った討伐会で、ほとんどの生徒は戦闘もなければ観光で終わる者も多かった。

このイベントは他科の生徒との連携や、次学年へ進級するに当たり今までの成果を実地に生かす目的があった。

そして、とあるチームから異常の報告が来たのだ、場所は山岳訓練で宿泊した村だった。

極一部の者にだけ聞こえる、か細いうめき声が墓地の近くであり、きっと迷える霊ではないかという話になった。

学園から王国に、王国から教会に連絡が行ったようだけど、「ほっとけば自然に成仏するでしょう」という回答が来たようだった。


 墓地という事もあり、他の眠っている者達に影響がないか心配した村長は、最初に来た生徒宛に依頼として出したのだ。勿論、この生徒は現場も確認したし、声もうっすらとしか聞こえなかった。

被害はないし対象物が見えなければアクションは起こせない。早々にギブアップした生徒は指導教官へ相談し、学園長は届いた依頼が特待生にふさわしいのではと教授会にかけたそうだ。


「リュージ君もレン君も神聖魔法を使えるようになったようだしな」

「え?」

レンを見ると照れていた。前から兆候はあったみたいだけど協会から来た講師に誘われ、土日も協会に手伝いに行って癒しの魔法を覚えたようだった。

ついでにハイキングコースを歩いて、危険がないか確認してきて欲しいという依頼も受けた。

前回の訓練で修繕はしたので、熊や猪などが初級・上級コースに来ているかどうか確認するだけでいいそうだ。


 出発のタイミングはこちらに任せてくれるらしい。

村まで2日かかりハイキングコースは歩くだけなら1日で行ける。

修繕や野生の動物の事を確認するなら、前回同様に中間地点で野営するのも良いかもしれない。

話し合った結果、早い方が良いと思うので土日で準備して月曜日に出発する事にした。


 ザクスは準備としてポーションを作るらしく、今日明日は農場で作業をするらしい。

農場は広いので、栽培出来る薬草類はザクス管理用畑として確保してある。

ティーナとヴァイスは学園で必要だと思われる備品をこれから集めに行くそうだ。

みんなから美味しいご飯宜しくと笑顔で頼まれてしまった。


 レンはみんなから好かれる性格なので特待生以外の友達も多い。

貴族関係の付き合いでも身分は気にしないし、伯爵家の令嬢だけあって幅広い人脈があった。

お昼に学食で、ある女性を見つける、そしてお願いをする事にした。


「キアラ、元気?」

「あ、レン久しぶり。やっぱり学科が違うとあまり会わないね」

「そうだね、やっぱり騎士科はきつい?」

「そうでもないよ、兄貴達と訓練してた時のほうが何倍も厳しかったよ」

「へぇ、じゃあ今はおしとやかにしてるんだ」

「そんな訳ないじゃない、ヴァイスさまに早く追いつきたいし。騎士って男社会でしょ、いくら強くてもダメな事もあるんだ」

「そんなキアラを見込んでお願いがあるんだ」

「何なに?レンのお願いなら大抵聞くよ。あ、決してヴァイスさまには・・・」

「わかってるって、でも今回お願いするから名前だけは伝えるよ」

「え・・・どうしよう。私の事が気になって・・・、もし目とかあったら・・・、ねえレン私どうしたらいいと思う?」

「それはお好きにどうぞ、今のヴァイスは見た感じフリーだと思うな。特待生は狙っている人多いから行くなら早めにね」

「う・・・うん、心の準備ができたら・・・頑張る」

「それでね・・・」


 レンのお願いは滞りなく伝えられキアラは快諾した。

一応報酬は寮でのお茶会らしい、寮でなくてもいいらしいから後で要相談となった。

キアラは二人の女生徒に声を掛け段取りを整えていく。

時折思い出したようにニヘラと笑い、二人の女生徒は大丈夫?と思いながら計画を練っていた。


 それぞれ別れての行動だったので自分はサリアル教授に報告をする事にした。

「学園長の講義を聞いてどう思いましたか?」と聞かれたけど、この国に来た当初に感じた危機感や国への不信感などは既に感じていなかったので、「とにかく学園生活を楽しもうと思いました」と答える。

サリアル教授は暖かい笑みをしていた。


 今日は魔法科の戦闘訓練は止めておこう。

ここでへたに怪我するのも馬鹿らしいし、あのフレアの・・・というか何で爆発している人が増えているの?

ドゴーンという音と共に爆煙が舞い上がっている皆を見ていると少し微妙に感じた。

「あれ、詠唱している間に負けますよね」

「ええ、非効率ですね。それに早く気が付くのを祈っているのですが・・・。帰ってきたら一度皆と手合わせをしませんか?」

「ええ、考えておきます」


依頼と課題が多いので、学園生活を楽しむ事は出来るのだろうかと少し不安になった。




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