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102:アドバイス

「リュージ君、あなたはフレアの今の状態をどう見ますか?」

「うーん、一言で言えば集中出来ていないかと」

「そうですね。魔法としては集中出来ているようですが、火属性魔法としてはダメなようですね」


 詠唱に意識を取られ、身振り手振りに意識を持っていかれ、いざ具現化した瞬間にバフンだとかパスンだとか嫌な音を立てて魔法が消滅してしまう。その都度落ち込み泣きそうな顔をしながら、それでも集中して次の魔法を唱えていた。


「フレア、そろそろ休憩しないか?」

「あ・・・、ああぁ」

審判はフレアが戦意を喪失しているのを確認したので一度止め、サリアル教授は新入生に魔法使いの戦い方の説明をしていた。

そういえば、こういう講義を受けないで戦っていたなと少し反省をする。


「なあ、リュージは火の精霊さまに会った事あるのか?」

「ああ、あるよ。火の精霊さまは熱くて少し抜けているところもあったかな?」

「へぇぇ・・・、やっぱり俺には火の精霊さまの加護もないのかな・・・」

「フレアは前に魔法使えてたじゃん、どうしたんだよ」

「何か、当たるように当たるように、丁寧に丁寧にって考えれば考える程、力が抜けていったような感じなんだ」

「昔の事は思い出せない?」

「ああ・・・、今思えばあの頃がピークだったのかな。なあ、何かヒントをくれないか?もうこれ以上考えてもダメなんだ」


 サリアル教授はコートの外で指導や練習の仕方などをアドバイスしている。

少し元気付けようかとフレアとコートまで歩いていく。


「自分は火の魔法は使えないけど、一度習った事があるんだ」

「え?精霊さまから直接に?」

「ああ、まずは正しい動作ってのをやってみるよ」


 右肘を30度くらいに曲げ手をグーにして胸に添える。

次に応援団のオスのポーズ(両肘を軽く引くやつね)。

その後グーにした右手を空に突き上げる。

最後に目標を照準に入れ銃を撃つポーズをする、これを文章の区切り毎にポーズを決めると良いそうだ。

フレアとラジオ体操が出来るくらいの位置で横に並び、自分の後に魔法の詠唱と動作をするように話した。


「煉獄に燻る青き炎よ」、「煉獄に燻る青き炎よ」、手をグーにしてどこかの敬礼のポーズ。

「我が魔力を喰らい」、「我が魔力を喰らい」、応援団のオスのポーズ。

「敵を滅ぼせ」、「敵を滅ぼせ」

グーを空に突き上げるポーズをすると、自分の背後にドゴーンという爆煙が舞い上がった。


「え・・・?」、振り向くと確かに爆煙が舞っていた。

そしてサリアル教授他、グループの皆がこちらを向いていた。

「あ・・・、続けてください」と皆に向かって言うと、サリアル教授はグループの皆の視線を再び自分に集め、こちらの手伝いを邪魔しないようにしていた。


「なあ、今の爆煙って・・・。リュージは火属性魔法を使えるのか?」

「いや・・・、教わったのは動作だけだし」

「いーや、今のはどう見ても火属性に関係するものだと思うぞ」

「じゃあ、今のを自分は魔力を込めないでやるから、もう一度真似してくれ」

「わかった」


 まさか、リラックスさせる為の冗談であんな反応が出るとは思わなかった。

そして、今更冗談だったとも言えず恥ずかしいポーズをとり、「敵を滅ぼせ」とグーを空に突き上げるポーズをすると、今度はフレア背後にドゴーンという赤い爆煙が舞い上がった。

思わずフレアと一緒に後ろを振り向く、グループの皆はさっきより大きく赤い爆煙に驚いていた。

サリアル教授は魔法科用の的として、プレートメイルの上半身のマネキンっぽいものを設置し、プロテクションとシールド魔法をかけていく。この魔法は抗魔の効果もあった。


「二人とも、最後まで気を抜かずに続けてみてください」

サリアル教授が細かくアドバイスをすると、今のフレアは萎縮してしまうかもしれない。

一言だけ告げるとサリアル教授はコートから出て、グループの皆と一緒にいつもより距離をとった。

今度は全員が見守る中、フレアの前に自分がお手本として的を正面に見据えて詠唱を始めた。


「煉獄に燻る青き炎よ」、「煉獄に燻る青き炎よ」、手をグーにしてどこかの敬礼のポーズ。

「我が魔力を喰らい」、「我が魔力を喰らい」、応援団のオスのポーズ。

「敵を滅ぼせ」、「敵を滅ぼせ」

グーを空に突き上げるポーズをすると、自分とフレアの背後にドゴーンという赤と黄色の爆煙が舞い上がった。


「ファイヤーボール」、「ファイヤーボール」銃を撃つポーズをする。

フレアの指先に集まった魔力に火が点ると、バスケットボールくらいのサイズの火球が発生し、そこから圧縮してテニスボールくらいの大きさになった。

撃ち出された火球はまっすぐプレートメイルの胸に当たると、鎧は一回ガゴーンと上に上がり、落ちた後は全体を焼き尽くすように燃えていた。ちなみに自分の指先にはバフンと小さい煙が上がり、魔法の不発を表していた。


 ギャラリーから拍手が沸きあがり、フレアは茫然自失していた。

「火力が上がっている・・・な」

「久しぶりに満足いく魔法が撃てた・・・」


「今のは腕の角度が悪かったのじゃ」

「あれ、おじいちゃん。あの時習ったのは嘘じゃなかったんですね」

「あれは火の精霊がよくやっていたお遊びなのじゃ」

やっぱりからかわれたんだと悟り、おじいちゃんのほっぺに指をグリグリ押し付けた。

サリアル教授がこっそり近づいてきたので解放すると、おじいちゃんに丁寧にお礼を言っていた。


 おじいちゃんはサリアル教授の指導を褒めていて、コントロールも一度コツをつかめば早々忘れないだろうと言っていた。火属性の魔法は思い切りが大事で、何も考えず勢いで魔法を撃ってきたフレアにぴったりな魔法だった。

魔法のコントロールで繊細な魔法操作を指導され、基礎は上がったけど出力の調整が分からなくなったフレアは、鬱屈した気持ちが空回りしていた。

そこを精霊から指導してもらったと言う自分の言葉を信じて全力で挑んだ結果、『基礎』と『全力』と『鬱屈』が混ざり合い爆発したのだった。


 周囲からは拍手の他に火力を褒める声や、「さすが破壊王」という野次までかかっていた。

燃えている鎧は危険なので水の魔法で消火をしていると、「どうだ、俺の魔法の凄さを思い知ったか」と後ろから声が聞こえてきた。

こっそり真上に小さいウォーターボールをループ状に投げると、危険を察知した人垣が徐々に離れウォーターボールはフレアに直撃した。


 寮に戻ると料理長と二人の料理人に声をかける。

明日のパン教室について農場で行うので、来られるかどうかの最終確認だった。

料理長のお姉さんも是非参加したいらしく、学食で作らない条件で良いならとOKを出した。

その他のメンバーはコロニッドと助手・公爵家と侯爵家の料理人数名・レイクが参加するようで、王子と婚約者のセレーネ・王妃とローラ・ガレリア・特待生全員が集まる予定だ。


 土曜日は朝練をパスして朝から農場へ向かう。

皆には「朝食を食べてからゆっくり来るように」と伝えてあり、試食会は昼に行う予定だった。

ガレリアが既に到着していて、お茶を飲みながら一週間にあった出来事や面談希望者の話などをしていた。


「リュージ君、ここの出荷もワインバーも順調だね」

「セルヴィスさんも張り切っていますからね。学生なのであまり酒場は行けませんが噂は聞いています」

「リュージさん、ワインバーは凄いんですよ。主にセルヴィスさんが教えた騎士達が中心になって通っているらしいです。お忍びで貴族さま方も通っているそうです」

「へぇぇ、ナナさんも行ったんですか?」

「ええ、同期と一緒に行ったんですが、立ち飲みの方はピザを食べて騒ぐ肉体派が多く、座席の方はゆっくりワインを楽しむ大人な感じで住み分けられています」

「詳しいですね」

「ふふふーん、そんな事も知らないんですかー」

「これ、ナナ。商品開発もワインを売り出す店を考えたのもリュージ君だよ」

「あ・・・、そうですね」


 徐々に集まってくる人々を、前回昼食会した場所へ案内していく。

王子が来ると少し時間が欲しいと言い、一緒に来た老紳士を紹介してくれた。

以前、王子達と行った高級キャ○クラ店の支配人で貴族らしい。


 王子とセレーネは秘密にしていたのだが、新入生歓迎会でもてなしたイチゴの話が親に伝わり、その親が今度「俺が直接言って仕入れてやる」と嬢に自慢した事から噂になったそうだ。

是非、イチゴやここで作っている果物を卸して欲しいというお願いだった。

王子同席でのお願いなら断る事は出来ない、ただ季節商品という事もあるので、その時期に可能な限りという条件でOKを出した。本当はNO1嬢もお願いに来る予定だったけど、セレーネも来るので鉢合わせするとまずいという理由で支配人だけの交渉になったようだった。


 その後は王妃とローラが挨拶に来て、全員揃った所でガレリアと一緒にパン教室開催の挨拶をした。

進行は調理場を預かってくれる責任者がしてくれるようで、発酵の待ち時間等で調理場の邪魔にならないなら調理場の見学も許可を出した。


 こちらは限られた時間の中で、ガレリアと念入りに打ち合わせをしていた。

今日は天気も良いので発酵も問題ないだろう、許可していた団体が楽しそうに花見をしていた。




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