孤独 「名も無き少女」
その日、独りの少女が叫んだ。
「何故ッ!!」と、だがその答に相応しいものが返ってくることはなかった。
その少女の周りには、ただ静けさだけが佇んでいた。
少女は、涙をその吸い込まれそうな瞳に溜めながら、空を睨んだ。
その視線の先には、今じゃ田舎にしか映らないであろう、都会では地上の光に怯えて隠れてしまった星々。
そして、その少女を照らす淡い光を反射した青白い月。
少女は少し、ほんの少し落ち着いた。
1滴、頬を滑った涙を、白く、細く、でも泥で汚れ、切り傷だらけの、それすらも含めて繊細で綺麗だ。と思わせる指で強引に拭った。
そんな、乱暴な仕草の中にも、少し前まではどこかのお嬢様だったのかと思わせる気品があった。
そして、その少女を慰めるかのように、一筋星が流れ、その刹那に色とりどりの夜空に弧を描いた。
それを見た少女は、今よりも昔のことを思い出していた。
霧がかかったように顔が思い出せないが、漠然と感じる、自分にだけ向けた、愛をまとった年上の女を。
その女が子守唄に少女に歌った歌をその少女は口ずさんでいた
そこが、コンサートホールで、大勢の客がいたのならその少女が口から奏でた歌を聞き逃すまいと、耳を澄まし、身じろぎ1つせず、聞くことだけに集中したであろうと思われるほど、清く、錆びることを知らない鈴のような音色を風に乗せていた。
云わば、安らぎの祝音。その音が止んだ時、客はその少女と同じように涙を流し、拍手の嵐が吹き荒れるだろう。
だが、その客はただの少女の歌の素晴らしさの例え。
何故なら、この場にはその少女しかいないのだから。
恐らく、その少女は明日も叫ぶだろう。
答が来るわけがないと知っていながら、叫ばずに入られないだろう。
それは一重にその少女が少女であるからだろう。
その幼さ故に、幻想に縋る。
その幼さ故に、もう一度あの満ち足りた生活に、愛に溺れたい。
その幼さ故に、理解することを逃避する。
もう一度会いたい。まだ甘えていたい。寝るときはそばで子守唄を。成人するまで傍にいてほしい。また名前を呼んで、撫でて。
考えたらきりがないだろう。
だから、紛らわすことの出来ない想いを、紛らわすために今日も叫ぶのだろう。
あの深い空に...




