第三話
「あら~、そんなことが?」
「そうなのよレゾナ、いやー懐かしいねぇ!ねえ、あ・な・た?」
「ハハハ、少し耳に痛いな。」
目の前で父さんと母さん、それとレゾナーテさんが和気藹々と話してる。
正直に言う、すっごい気まずい。
僕だけじゃなく隣のクリスタさんもそう思ってると思う、食べる手が全然進んでないし目も泳いでるし。
あの後レゾナーテさんに「あらあら~」と流されるままに僕の家で昼食を一緒にすることになった。
あのマイペースさ、まったく油断出来ない。
気づいたら話の流れもってかれるんだもの、すごいや。
流石、商会の会長さん。
そう、会長さんだよ。
カーフマン商会を立ち上げたレゾナーテ=カーフマンさん、そのご本人。
海外で暮らしていて、今日は商談の関係でヒナトに来たらしい。
父さんと母さんとは古い友人で、明日の商談の前に会いたくて来たらしい。
そんな伝手があったなんて、聞いた時はびっくりしたなぁ。
「あら?あの時から変わってないのね~?」
「そうさ、これは早々変えられる物じゃないし変える気も内ね。」
「他にも変わらない所はあるけどね!例えば…」
「おいおい、その話はやめてくれよ。」
「な~にそれ?気になるわぁ~!」
………………………。
「ごちそうさま!僕は店に戻ってるね!」
僕にはちょっとこの空間は居にくい、先に戻らせてもらおう……恨めしそうにこっちを見ないでください、クリスタさん。
「ああ、待てグラス。今日はもう店は閉めるから、店番はしなくていい。」
退路が絶たれた!?
こうなったら部屋の中に避難を……。
「そうだ!」
と、考えてると母さんが「良いこと考えた!」と言わんばかりに手をたたいた。
…小柄だからかな、やっぱまだまだ女の子ぐらいにしか見えないや。
「グラス、アンタちょっとクリスタちゃんに街を見せてあげてきなよ!せっかく来てくれたんだし、ね?」
ナイス母さん、助かったよ!あと、ちっちゃいとか思ってごめんなさい!
「うん、わかったよ。あ、クリスタさんはいい?」
「え…っと、母さん?」
「いいわよ~?ここで待ってるから、好きなだけ見てきなさ~い。」
ちょっと戸惑った顔のクリスタさんにゆるゆると手を振りながらお茶を飲み始めるレゾナーテさん、いつもあんなに緩いんだろうか?
「じゃあ行こうか、クリスタさん。」
「…そうね、行きましょうか。」
『行ってらっしゃーい。』
こうして父さん達から見送られ、突然街のガイドをする為に歩き始めた。
さて、あの気まずい空間からは抜けられたな。
でも、クリスタさんに街の案内か…………どうしよう、女の子を案内する場所なんて僕にはわからないよ。
とりあえず大通りを案内しようかな、あそこからなら街の何処へでも行けるし。
「……ねえ、グラスさん?」
そんなこと考えながら歩いていたら、話しかけられた。
しまった、気を使わせたかな?
「はい、何ですか?」
「いえ、一つ聞きたいことがありまして。」
違ったか、でも聞きたいこと?
そう考えているとクリスタさんは、さっきあげたガラス玉をポーチから出した。
うん、中の睡蓮がとても良い出来だ。
「何故、これほどの作品を作ることができるのに見習いなのですか?もしかして、何か特別な理由でも…?」
何だ、そんなことか。
昔も旅人のお兄さんに、同じこと聞かれたなぁ…。
「そのことでしたか。」
「はい。やはり何か特別な理由が「いえ、わかりません。」……はい?」
「だから、僕にはわかりません」
「ふざけているんですか?」
「ふざけてはいませんよ?」
いや、本当に真面目に言ってるんですよ?
僕にはわからないだけで。
「まだ父から合格をもらっていないから、僕は見習いなんですよ。それ以外の理由は特に無いです。」
「……何故、合格をもらえないのか、疑問には思わないのですか?」
「?」
何かおかしかったかな?というか、ちょっと怒ってる?
「アナタには、早く一人前になりたいという向上心が無いのですか?自分の腕に自信などは?『これだけの物が作れるのに』という想いは無いのですか!?」
いけない、何か逆鱗に触れたみたいだ。
あ、近所のおばさん助けて。え、何でニヤニヤして助けてくれないの?
と、とにかくクリスタさんを落ち着けないと!
「い、いや。父が駄目と言うのなら、何か理由があるはずですし、僕が気にすることでは無いかなと。」
「……信頼、しているのですね?」
「?まあ、憧れの父ですので。」
(…ハァ、これではまるで道化ね。)
そう言うと、髪をくるくると指に絡めながらため息を吐かれました。
よくわからないけど、落ち着いてくれたっぽい?
「すいません、興奮してしまって。」
「いえ、お気になさらず。それじゃあとりあえず、大通りにでも行きましょうか。あそこの露店は偶に面白い物が売ってるんです。」
「露店ですか?私、掘り出し物とかを探すのが好きなんですよ!」
おお、ガラス玉見たときと同じ目してる。
ちょっと不安だったけど、とりあえず案内はちゃんと出来そうかな。
◇
「これが4000ゴル?冗談でしょう!?」
「ほうほう、これが天然素材?……その割には随分、質が悪いですね?」
「2000ゴル?これならば3500ゴルの価値は確実にあります!」
「ふざけないでください!この絵は最近描かれたばかりの偽物です!」
「この飴玉を作ったのは誰ですか!!」
◇
ちゃんと案内なんて出来る訳がなかったんだよ!
「~♪」
今は飴玉を食べてるから落ち着いてるけど、さっきまでは露店の商品にあれこれ文句をつけてて手に負えませんでした。
クリスタさん、きっと根っからの商売人なんだろうなあ。言い合ってるときも凄い気迫だったし。
「凄かったなぁ…。」
「んん゛っ……や、やっぱり可笑しかったでしょうか?」
あれ、クリスタさん赤くなってる?声に出てたみたいだ。
ん~…可笑しい、何処がだろう?だって……。
「格好良かったですよ?」
「え?か、格好…良い?私が?」
「はい!あんな風にビシッと言えて、凄い格好良かったです!僕にはあんなに格好良く言えませんよ!」
「あ、ありがとうございます。……少し照れますね。」
あ、あれ?そっぽ向かれちゃった。
どうしよう、また空気が重くなってきて……おや?
ヒナトの大通りに…豪華な馬車?首飾りの隣に二枚の葉っぱが彫られた盾が飾ってある。
もしかしてあれは、『契盾』?
『契盾』
防具としてではなく、貴族の証として存在する盾。中央に国の象徴、隣にその貴族の象徴を彫られる。
シェロウ王国の象徴は確か『山』、なんで外国の馬車がこんなところに?
「クリスタさん、あの馬車が何処の馬車かわかりますか?」
「馬車ですか?この街ならば、やはり連合国なのでは……嘘、なんで?」
クリスタさん…?なんでそんなに驚いてるんだ?
「グラスさん、早く戻りましょう。もう夕方ですし、母さん達が待ってます。」
「え?クリスタさん、急にどうしました?」
「いいから早く、戻りましょう。」
ちょ、後ろからグイグイ押さないで!どうしたんですか急に!?
「すいません、後で話しますから今は早く戻りましょう?」
「いや、それは別に構わないんですが…。」
あのまま押されて家の前まで戻ってきました。結局あの馬車は何処の物だったかは教えてもらってません。
何か思い当たる節でもあったのかもしれない。とりあえず今は早く家に入ろう、ちょっと遅くなっちゃったし。
「ただいま、帰ったよ。」
「おお、帰ってきたか。グラス、お前に少し話があるんだ。」
ん?なんだろ、父さんから話?何だか珍しい───
「グラス、少しレゾナの商会で勉強してこい。」
───どういう、こと?