花
民が栄える豊穣の地を発ち、獣が駆ける緑の平原を、魚が跳ねる紺碧の川を、空に光有る限り進む。
夜には熾火をくべ、冷気を凌いで眠る。
暁光と共に目覚め、再び南へ下りる。
寂莫の平沙を過ぎ、やがて丘陵を成す所に至る。
滑る砂丘を重い足で越え、三日歩き、遂に遠くに赤光を見据える。
里を出でて七日目。光の形が分かる。
赤く燃えるような花が一輪、高い砂丘の上で煌々たる燐光を放つ。
それから夜は明けること無く、荒野は橙が映え渡るのみ。
平和の虚無から里を退け、摩訶不思議な花を望む。
七日を経て見え、身に受けた艱苦 は悉く失せる。
昂びあるがまま、赤い輝きに跳び込む。
世の摂を説く花に平伏して、心にそれを記す。
花の威光を身に纏い、郷里に戻る。
民は皆平伏し、その摂を聞き入る。
平和の真髄なるを奉り、里はより安泰を極める。
法治には及び得ぬ、仁徳が統べる所に至る。
民は悟る境地を目指す。
ある者は食を断ち自らの地を耕さず。
ある者は人を断ち自らの心を明かさず。
静まり、黙し、荒れ、遂に人は斃れゆく。
ところが、その臥せた背に赤光が宿る。
光は形と成り、芽を作る。
肉の腐るにつれて、蕾が膨らむ。
そして地に還ると同時に、花が開いた。
煌々たる光が里を包み、雑草忽ち枯れる。
次に花が、木が、獣が、水が、土が、光が、枯れる。
辺りは寂莫の平沙。
救済を果たした花々は、粉を撒き、次の摂説く者を待つ。
(*´_`)。o (読んでいただき、ありがとうございました)




