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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
92/137

91:分岐点-11

 回廊を分岐させ、その一端を内壁と連結させるようにして、壁を造り始めることに決めたリンは、砂の海に向き合った。


「そう言えば、ナイゼル祖父ちゃん……まだ友達の所に行ったままなのかなぁ」

「流石に、もうご帰宅されているのではないかしら。こちらの用がひと段落したら、落ち着いて訪問すればいいと思うわ」

「うん。そうだね」

『リンよ、ナイゼルはまだ帰っておらぬようだぞ。あちらこちらの友人が、久しぶりにやって来たナイゼルに会うために集まって、そのまま歓談の日々を続けているようだ』

「えっ?! 瑠王って、そんなことまで分かるの?」

『地続きの場所であれば、地に足を着いていない者ではない限り、ある程度は分かる。属性の類によって、リンでも分かるようになるだろう。今でも時折だが、風に教えて貰っているではないか』

「あぁ、そう言えばそうだった。ははは……すっかり忘れていたよ」

「リンに出来るということは、私や兄さんも出来るのかしら?」

『属性の子と意志の疎通が叶うようになれば、出来る。ライは、すでに無意識に使っているようだが』

「流石、ライ兄ちゃん。そうすると、誰でも相性次第で出来る様になる可能性があるってことだよね」

『まぁ、そういう事だな』

「ふふふ。私にも楽しみが増えたわ」



     *



 時は遡り、皇都アシルにて。

 いろいろなモノが遮られて支障を来していた問題を解決するために、何人かで組んで班を作り、問題箇所へ出向く事になり、ナイゼルもその一端を担うことになった。

 ナイゼルに割り振られた場所は、ある程度の顔見知りがいる神殿関係で、それが終われば旅立つことになっている。


「さて、どうやら他も始まったようであるし、儂もさっさと終わらせてしまおう」


 街の外側へ向かって進みながら、寄り道でもするかの如く神殿へ立ち寄り、その場で素早く元凶の場所を特定、速攻で仕掛けを破壊。

 そして、また次の場所へと移動することを続けて、たった一人で動いているのに、ナイゼルが一番早くに分担した場所の後始末を終えていた。

 本人曰く、まぁこんなのは年の功だ、とのこと。

 予定通りに街での用を済ませたナイゼルは、一人で街の外へ向かう。

 他人様の迷惑にならない程度の距離を置いた場所まで移動して、その場で相棒のアルデラを呼び出し、次の目的地へと向かう予定だった。


 久しく会うこともなかった友人を訪ね、北の方へ向かうつもりでいたが、アルデラの背に乗って、上空から地上を見下ろすと、少しばかり拙い雰囲気が見て取れた。

 国境を跨ぐように広がっている山岳地帯から山麓に掛けて、領都ノルンよりも北東へ奥まった地域へ向かうナイゼルだったが、少しばかり空からの眺めで気になったのは、トルーディア王国との国境辺りに集まっている人の群れだった。

 明らかに、これから戦いを始めるつもりと見える鎧武者や騎馬、人の数も多いが、そのほとんどが兵士のようだ。

 さて、知らせはすでに皇都の宰相へ届いているだろうか、と少しお節介をするつもりで放ったのは、鳥の姿をした配達物。

 宛先は、皇都の宰相アレン。

 内容の程は、先ほど見た地上の様子を客観的に文字にした手紙文だ。

 この手紙が変じた鳥が、無事にアレンの元へ辿り着き、これを元にして、北の国境線へとアズールを含めた人々が派兵されることになる。


「しかし、それほどまでに領土を広げたいモノであるかの。現在の国内事情は、確かに皇国が一番の安定を見せているが、要は国の匙加減を操作するモノ次第で、どちらの隣国でも安定した生活は望めるモノであろうに」

『ヒトという生き物は、そういうモノだろう。平和であることに飽き、争いを求める』

「一概に、そうとも言い切れんぞ。アルデラよ、このような状態では更に、リン達が起ち上げる自治領区の様子が楽しみになると思わんか」

『思うに決まっている。あのお子様は、何でも一人で出来ると勘違いする恐れがある程の強い力を持っている。だが、その力を持ってしても、自分一人に出来る事は限りがあるのを知っている。それ故に、信頼の出来る相手に協力を求め、自分の理想を追い求める』

「うむ。過去のハーラ族の中でも、あれほどの強い力を持っていたモノは稀じゃ。全くいなかった訳では無いが、リンの力は特出し過ぎておる」

『あの兄と姉が、あれの傍にいる限りは心配ないだろう』

「そうだな」


 得てして、強い力は慢心の元にもなり、それは自滅への階段を上ることにも繋がる事が多い。

 しかし、その力の使い方ひとつで、沢山の選択肢は広がっている。

 国を治める王や皇帝などの位に就いている者ほど、昨今では、その位が持つ力に振り回されている傾向が否めない。

 それ故の、度重なる領土争いが続いていると言ってもいい。

 今回の自治領区は、その領土争いに終結を迎える事に繋がるだろうか。

 ナイゼルが、リンから簡単な説明を受けた限りでは、身分差や種族差別がない、清潔で飢えのない秩序ある生活基盤を目指して、それらを施行する上で必要な設備や構造物を構築すると言っていた。

 勿論、防衛面の心配もあり、外周を境界線よろしく壁で囲むのは、その他でも多く見られる手法であるが、おそらくは、壁だけでリンの気が済む訳もないだろう。


「楽しみであるなぁ。こちらの用が終わり次第、陣中見舞いがてら挨拶に出向こうかの」

『それはいい。我も同行しよう。魔物達も共存生活していた、旧カルディナ自治領区の再来を楽しみにしておこう』

「あれのことだから、それ以上であっても、それ以下になる事はないだろうて」

『確かに』


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