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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
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8:有子(アリシア)-05

 知られているのならば、隠しても仕方がない。

「私の力も、あの陣を起動させたことで打ち止めになりました。それに、私だけの力で起動させた訳ではありません」

 砂の大地にも力はあるから、それを頼みにして、あの魔方陣を起動させたアリシアだった。

 それでも、力を使いすぎていることは間違いのない事実で、少し眠って回復しておきたい気分だった。

「ここで眠っていても、大丈夫でしょうか。さすがに疲れが溜まってしまって、起きているのが億劫になってきました」

「あぁ、気が付かなくてごめんね。いいわよ、私がちゃんと周りを警戒しているかれ、アリシア様は少し休んで」

「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」


 身体を横に倒すと、スルリと眠りが訪れた。

 かなり疲れていたのだな、と眠りながら思ったアリシアは、夢を見た。


『保てる以上の力を使いすぎた代償は、誰にも肩代わりさせることは出来ないものと思い知るべし。汝は、これよりその代償を払う必要が有る』


 力を使いすぎた自覚はあったが、アリシアは代償を自ら払うことに恐れを覚えた。

 代償が何を示しているのか分からないからだが、それが分かれば自分が払うべき代償であることは納得出来ているので、それを完済するべく努力は惜しまなかっただろう。

 私は、このまま家族と会えないのだろうか。

 アリシアは、漠然とそう考えた。

 これから、自分はどうなってしまうのだろうか、と。

 身体を揺すられている感覚で目を覚ましたアリシアは、女傭兵から魘されていたから起こしたのだと言われ、礼を返した。

「それで、どんな夢を見たのか聞かないけれど、大丈夫なの?」

「はい。それよりも、これからどうしましょうか」

 このままここにいてもじり貧でしかなく、助けが来るのを待っているよりも、ここから助けを求めて移動する方がいいだろうということは、何となく分かっていた。

 しかし、馬もなく徒歩での移動ということになると、どうしても傭兵とアリシアの力量に差が大きく隔たりを作ってしまう。

「貴女一人ならば、ここから無事に生きて帰り着くことが出来ますか?」

「正直に言うわ。私ひとりなら、アリシア様と一緒にいるよりも可能性は高くなるけれど、必ず生きて帰り着けるとは断言出来ないでしょうね。馬でもあれば、その可能性も更に高くなるでしょうけれど……」

「馬は、逃げてしまいましたね。呼べば、あの馬は来てくれるでしょうか?」

「ここから、どの辺りまで離れてしまったかにも因るでしょうね。近くにいるなら、呼んでいることに気が付いて戻って来てくれる可能性もあるけれど、砂虫の脅威が続いているままであれば、それも無理ね」


 当然の現実を改めて言葉にしてしまうと、二人して笑い合った。

 やれる限りのことはやってから、それから次の手段を考えるしかなさそうだ、と。

 遺跡と砂漠の境界まで戻って、そこから周辺をゆっくりと凝視するように注意深く観察し、何かがいる気配を探った。

「馬を、呼んでみませんか? 駄目で元々です」

「そうね。アリシア様は、風の属性で力を行使出来るかしら。出来るのなら、声を遠くまで運んで貰えると助かるのだけれど」

「水と闇の他は、使えても弱い力しか無理です。一応、やってみますが、あまり期待はしないでくれますか」

「えぇ、それでいいわ。無理なら、そのまま言ってくれていいのよ」

「分かりました。多分ですが、少しは使えると思います。けれど、力を使いすぎた後なので、長い時間は無理です」

 アリシアは、すでに自らの分を越えた力を行使してしまったのだから、このままあと少しくらい上積みしても同じだと諦め混じりに考えていて、それならば自分は無理でもこの傭兵の女性だけでも助けたいと思っていた。

 馬が、私達の声に、気配に気付いて戻って来てくれることを願って、アリシアは風の力を手繰り寄せ、それへと声を乗せて再び送り出して拡散させた。

 しばらくの間、そのままじぃっと風の行方を追い掛けていたが、砂虫の気配は消えている。


「何か、遠くから近づいて来ます……あっ、う、馬ですっ!」

「本当なの?! 奇跡だわ」


 砂煙を上げて、一頭の馬が近づいて来た。

 やって来たのは、砂虫に殺されてしまった傭兵の男が乗っていた馬だった。

 アリシアは、馬の首を撫でてから抱き付いて、よくここへ戻ってくれたと感謝の気持ちを伝えた。

 そして、アリシアは馬を女傭兵に手渡し、ここから一人で生きて帰って下さいね、と言った。

「必ず、私が助けを連れて来る。だから、アリシア様も諦めないで!」

「ありがとうございます。しかし、私はこれから次の試練に向かわなくてはならないようなのです」

「次の試練? 何よ、それ」

「実は、夢でお告げがありました。使いすぎた力の代償を払わなくてはならないのだ、と。それが、どういう類の代償になるのか分からないので、私は恐ろしかった」

「あぁ……だから、あの時に夢を見て魘されていたのね」

「そうです。おそらく、ここでお別れになると思いますので、無事に生きて戻れたらお願い出来ませんか?」

「何?」

「私の事を、今お伝えしたことを、私の家族の誰かに伝えて頂きたいのです。よろしいでしょうか」

「分かったわ。必ず、アリシア様のご家族に伝える。だから、貴女もその試練に負けないで!」

「はい。少しでも早い方がいいと思いますから、今はまだ砂虫の気配も戻って来ていないし……行って下さい」


 アリシアは、その場から馬に乗った女傭兵を見送った。

 その姿が見えなくなるまで、ずっとその場で立ったまま見つめ続けていた。

「これで、私ひとりになってしまったわね。とりあえず、遺跡の所まで戻ることにしようかな」

 石の回廊は、どういうことかアリシアの足を止めることなく、その奥へと導き入れて行く。

 何か変だと気が付いた時に、アリシアは髪を留めていたリボンを近くの目立つ場所へ、目印の代わりになるかと括り付けた。

 背後から風の追い掛けてくる気配を感じて、くるりと振り返ったアリシアの視線の先にあったのは、今さっき歩いて入って来たのとは違う光景だった。

 暗闇、ではないけれど……入って来た入り口の明かりが見えない。つまり、出口は塞がれた、ということ?

 方向は間違っていないはず、一方向にしか道は続いていなかったのだから、この暗闇の向こうに入り口があったはずだ。

 アリシアは、暗闇の中に入り口がある筈だと信じて、その方向へ足を進める事にした。

 すでに、遺跡の中へ入ってから歩いた距離の倍近くを逆に辿って歩いている筈であるのに、まだ周囲の変化は見られない。

 それどころか、目印になるかと括り付けたリボンが視界に入って驚いた。

「どういうことなの? 私は、歩いているのに……歩いても歩いても進んでいないということなの?」


『汝に、代償を求める。これより、汝を世界の裏側へ送る。そこで、汝は生を終えよ』

『この世界のことは、子々孫々にまで伝え続けるといいだろう。いつの日か、汝に代わって、その者がこの世界へ戻る事もあろう』


 アリシアの視界の先に、明るい光が見えた。

 この光が、先ほど告知を受けた世界の裏側なのだろうか。

 アリシアは、その場で立ち止まり、深呼吸を一つ。

 そして、再び足を踏み出し、光のある方向へと向かって進み始めた。


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