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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
72/137

72:カーラル砂漠-07

 一気に進むことも出来るけれど、慌てても仕方がないので、適度に寄り道をしながら進む一行は、この日の宿泊地について地図を見ながら相談していた。

 遠回りを選んで、南のザウス方面へ向かって、そこから砂漠沿いにエスト方面へ北上するか、一気にエスト方面へ突っ切るか。

 皇都アシルから南へ向かう街道を横目にしつつ、街道から離れすぎない程度の距離感を保ちながら移動してきたが、この先で街道が大きく二手に分かれる。

 それ故に、どちらへ向かうか考えることにした。


「もういっそのこと、街道から外れて中間地点を突っ切るか?」

「砂漠までの距離だけを考えれば、それが一番近いのだけれどね。この線上に進むとなると、問題が有る」

「そうね。街も村も、集落もないようだし、野宿の連続になるわよ」

「野宿って、別に魔物とかに襲われなかったら、それでも問題ないよ。僕、結界を張れるから、安全面は何とか出来るし」

「そういう事なら、少し森の中を通る感じで進もうか。食料事情も考えるとね、この辺りで狩りをするのも手だと思うんだよ。どうする?」

「それでいいわよ、別に野宿でも大丈夫だと思うしね。酷暑や極寒の中で野宿する訳じゃないし、兄さんもリンもいいわよね」

「いいぞー。リンも楽しみだろ、キャンプみたいなもんだからな」

「うん!」

「じゃあ、このルートだな。さて、この面子で通って、どういう状態になるかね」


 ルーイは、何となく何かが起こりそうな気がしていた。

 こういう時は、静観していた方が良いことが多く、今回も黙って鷹司兄姉弟に付き従って行く事に決めていた。

 少人数とは言え、滅多にいないレベルの魔法の使い手と、そこそこに武器の使える面子が揃っている。

 リン以外の三人が、武器も魔法も使えるのだ。

 しかし、武器の使えないリンが一人でも、大凡負けることはないだろう。

 魔法の使い手としては、超一流である上に、守護獣の瑠王が付き従っている。

 それに、リンの近くには、いつでも常時体制で属性の子等が纏わり付いているから、リンに何かあれば、すぐに反応するモノは多い。

 どういう訳か知らないが、リンという少年には、神子と同じような能力もあるようだと聞いている。

 忘れ去られて久しい神の頼み事を叶えるつもりで、それを自らの望む形へと繋げる努力をしているし、その兄と姉であるライとレイも、そんな弟のことを全面的にバックアップするつもりを隠そうともしていない。

 この三人の中に、自分の居場所が残されているのだろうか、とルーイは思い悩む。

 悩む程度には、この兄姉弟と過ごす時間が、何となく居心地良く感じている。

 ライは、本人の希望もあったし、友人感覚で呼び捨てにしているが、レイとリンにも同じ扱いをして欲しいと要求されていて、少し戸惑いはあるけれど、弟感覚という観点からか、リンのことは程なく呼べるようになるだろう。

 自分の事は、すでにルーイと呼び捨てにしているのだから、同じでいいと言われているが、レイのことは、もう少し時間が掛かりそうだ。

 つらつらとそんなことを考えながらも、馬の歩みを止めることもなく進み続け、街道の分岐点に差し掛かり、予定通りに街道沿いから外れていく進路へ突入していく。

 街道から離れて間もなく、森の端に差し掛かる辺りで、このまま森の中で野宿か、森に入ってすぐの浅い場所にするのか、という相談が始まった。

 言わずもがなで、ライは進めるだけ進んでしまい、暗くなって足元が怪しくなってから進行を止めるという方向へ、レイは慎重にある程度の場所まで進んで周りの状況が確認出来る時間を確保出来る辺りで進行を止める方向へ、それぞれに意見が分かれた。


「ルーイ兄ちゃんは、どう思う?」

「この森で魔物被害の話も聞かないし、水の確保さえ出来ていれば進めるだけ進んでもいいと思うよ」

「うーん、食料に出来そうな獣とかは?」

「生息しているから、本当に水だけだろうね」

「じゃあ、進めるだけ進んで野宿することにして、途中で食糧確保だけしてね。水は、僕が何とか出来ると思うから、そっちは気にしなくてもいいよ」

「あら、そうなの。そういうことなら、兄さんの意見で進みましょう」

「了解だ。とりあえず、食糧確保しつつ移動ってことなら、解体する時間はないが……」

「僕の空間収納に放り込んで移動して、野宿する場所が決まったら解体でいいよ。解体してすぐ食べられる物は食べてもいいけど、それ以外は解体が済んだらまた預かるから」

「つまり、明日以降の食料も確保してしまおうってことだね」

「リン、便利すぎる力だな。これは、誘拐されないように十分気を付けないとなぁ」

「そうね。基本、砂漠で復興作業中の間は、私が一緒にいるからいいけれど」

「そんなに心配しなくても大丈夫でしょ、瑠王がいるのだし。そうだろう、リン」

「その通り〜♪ 流石、ルーイ兄ちゃんだね」


 ならば良し、と森の中心部へ向けて進む一行。

 予定通り、道中で網に引っ掛かった食料を狩りながら進み、薄暗闇が空を覆い始めた辺りで、今夜の停泊地を探し始めた。

 少し拓けた場所があり、ここにしようと決めてからは、解体作業が始められ、火の用意が整うと、食事の支度も始められた。

 水は、リンの力で地下から水を誘引して小さな泉を出現させ、それを利用した。


「野宿とは思えない便利だな、リン。ライとレイさんも、手慣れているが……」

「ルーイ、そろそろ私も唯のレイで呼んでくれないかしら。リンのことは、もう呼んでいるのに、私だけまだなのは、少しばかり気に入らないわ」

「レイさん、それはもう少し時間が欲しいよ。鋭意努力中ってことで、ご勘弁願いたい」

「仕方がないさ。俺とリンは、ルーイと同じ男同士だし、今までだって女性に対して呼び捨てにする習慣もなかっただろうしな」

「……なるべく早くね。何だか一人だけ仲間はずれというか、距離を置かれているみたいに感じてしまって、それで少しね。ごめんなさい、もう少し待つわ」

「申し訳ない、レイ……っ、あー駄目だ! やっぱ、もうちょっと時間が必要です」

「大丈夫だって、ルーイ兄ちゃん。そのうち、ライ兄ちゃんと同じように呼べるようになるよ。はぁ、僕もうお腹いっぱいになっちゃった。先に寝るよ、おやすみなさ〜い」

「「「おやすみ」」」


 瑠王の身体を枕にして、毛布を被って横になると、リンはあっという間に眠っていた。

 やはり、元気に見えても疲れていたのだな、と眠るリンを見ながら思いつつ、優しい気持ちが湧き上がってくる三人だった。


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