69:カーラル砂漠-04
レイとルーイが後を追い掛けてくるのを確認しながら、リンに問題の現場を確認出来るか尋ねたライは、前方を見据えながら速度を上げた。
その背に、二人の人を乗せて素晴らしい走りを見せた馬に、ライとリンの気持ちも上向き加減だった。
「あっ、見えたよ! えっと……とりあえず、防御用の障壁みたいなのが見えるけど、壊されて次が間に合ってないみたいかなぁ……多分だけど、近くに怪我をしている人も見えるよ」
「オーケー。敵は、見える範囲にいるだけなら、三匹の砂虫だな」
「うん。他には、今のところいないみたい」
「それなら、レイとルーイがいなくても何とかなりそうだな。こっちが終わらせる間に、二人には怪我人の救助と状況確認をして貰うか」
それじゃ、まぁそんな感じで行きますか、と言わぬばかりに、せーの、でそれぞれの負うべき役目を担った。
リンは、間に合っていない防護壁を更に強固な物にグレードアップさせて展開し、ライは、その周りで襲い掛かっている砂虫に向かい、少しばかり反則的な速さで衝撃波をぶっ放した。
ライの放った衝撃波の影響で、三匹の砂虫は弾かれて引っ繰り返り、砂の上で目を回していたし、自分達以外の誰かが介入してきたことを知った壁の中に守られた面々は、漸くホッと一息吐いていた。
そこへ姿を見せた一頭と二人に、一同は不可思議な表情を浮かべていた。
先程からの出来事から、この状態に介入してきたのが複数人であることは認識出来ていたが、まさかこのような若い青年と子供の二人だけだとは思っていなかったのだ。
年齢に関係なく、魔法の使い手が強力な力を発揮することは知っていたが、そういう例は稀で、大抵は年齢と共に力の使い方に慣れて、巧妙にワザを繰り出す事の方が多い。
それを知っていただけに、良くも悪くも驚かされた訳である。
ライと一緒に馬から下りて、リンは瑠王と一緒に驚いている面々に言葉を掛けた。
「とりあえず、壁の中は安全だから」と。
その様子を視界の端に入れて、ライの方は、まだ転がったままで復活を果たしていない砂虫の方へ注意を向けた。
三匹いるが、そのうちの一匹が復活しそうな兆しを見せたので、これはさっさと片付けた方が良さそうだな、と風の刃を向ける。
あっという間に、ざっくりと分断された砂虫は、そのまま体液を垂れ流しながら息絶えたが、その衝撃が切欠になって、残る二匹も気絶状態から復活したようだった。
それでもまだ引っ繰り返った状態を元に戻そうと藻掻いている最中だったので、その隙を逃さず、先ほどと同じく真っ二つにぶった切った。
「あっ、終わった! ライ兄ちゃん、お疲れさまぁ。レイ姉ちゃんとルーイ兄ちゃん、あそこに見えてきたよ〜」
「お、そっちもご苦労さん。リン、大丈夫か? 疲れてないか?」
「大丈夫だよ、これくらいなら、全然平気だよ」
「なら、いいさ。おーい、二人とも片付いたぞー。で、こんな場所で何だが、治療が必要なヤツがいるなら、妹に頼んでやるが、どうだなんだ?」
「それは……助かるが、本当にそこまで甘えていいのか……」
「いいから、言っている。それに、ここはまだ砂漠じゃないだろ。どうしてこんな事態になったのかを、それを教えて欲しいんだが」
「…っ!! そ、そうだな……」
という訳で、あっちにいる二人の治療を頼む、と追い着いてきたレイに頼んだライ。
ルーイとライの二人で事情聴取をし、残ったリンは何をしていたか。
「退治した砂虫って、この後どうすればいいのかなぁ。瑠王は、砂虫の処理方法を知っている?」
『勿論だ。あれは、意外に食材として用いられる事もあるが、滅多に出回らない。それ故に高級食材としても取引されている。しかし、鮮度が大事だから難しいらしい』
「えっ、そうなの。じゃあ、時間を停止した空間に放り込んで運べば……」
『大丈夫だな。そうか、リンは使えたのだったな……空間魔法も時魔法も……ならば、何の問題もないだろう』
「じゃあ、やっちゃおう!」
直接その物に触れていないと、任意の空間に収納することが出来ないのが現状ではあるが、この魔法が使い慣れて習熟度を増してくると、触れていなくとも収納出来るようになると知っているだけに、リンとしては使う機会を窺っていたとも言える。
都合、綺麗に真っ二つになっている砂虫であった物は、全部で六つの物としてリンの触れた分から順に、その場から姿を消していった。
視界に入らなくなったことで、ヨシと小さくガッツポーズを決めたリンは、瑠王にも確認して貰ってから、怪我人の治療をしているレイの方へ足を向けた。