66:カーラル砂漠-01
アレクの家族が暮らしている住まいは、城の一角にあった。
この先は、腹違いの弟に位を譲って、自分は普通に城勤めする官位に就いて、この国と関わっていこうと、その様に考えていた。
しかし、一時的に父と弟の間を埋める為の措置として、皇帝位に就かなくてはならない可能性もあることは理解している。
それもあって、色々なことを考えるようにしていたけれど、リンとその兄のライ、姉のレイの三人に会って、良くも悪くも沢山の気鬱を引っ繰り返された気分がした。
「母から聞いたが、ハーラ家は代々、ほとんどが女系の血族が一族の血を残して続いている家系だと。君達のいた世界でも、それは同じだったのだろうか?」
「あぁ、そのことか。そうらしい話は聞いた事があるんだが、実際のところ半々だな。若干、女系よりではあるが……ちなみに、ここにいる三人で言えば、俺は種なしだからアウトだし、リンもおそらく何らかの弊害がありそうだから、レイが子供を産むしか血は残せないだろうな」
「そうか。しかし、ライ……種なし、と言ったが」
ライが子供の頃、高熱に見舞われる病の影響で、生殖機能に後遺症が出た事が原因であり、行為自体は可能であるが、所謂アレだ、無精子という結果が出たのだ。
それもあってか、元からのものか。
ある意味で、リン以上にライは破天荒な部分があった。
そう……相手構わず、というヤツだ。
「子供は好きなんだが、こればっかりはなぁ……反動で、年が離れている弟のリンを我が子のように感じながら可愛がっている部分はある。落ち着いたら、養子でも迎えて子育てしてもいいと思っているが、その前に本拠地を手に入れる必要が有るだろ」
「まぁ、何というか。いろいろと考えている訳なんだな、ライも」
「好き勝手している部分が多いぞ、俺は。とりあえず、オンとオフの切り替えはしているから、ダラダラしっぱなしという事にはなっていないはずだがな」
「そうだろうね。フレア嬢が、ライのことを慕っている様子を見れば分かるよ」
「それは、どうも」
話のついでとばかりに、ハーラ家の領地はどうなっているのかを聞いて驚いた。
この時は、レイも一緒にライと話に混ざっていたので、二人して同じように驚くことになったのだが、ハーラ家は領地を分家に全て分け与えているため、本家は領地を保有することなく、各人の働きによって稼ぎ出した収入で生活を賄っているというのだ。
では、使用人の給金はどうしているのかと聞けば、外部からの人員は排除していることもあって、使用人として働いているのは、分家の人達ばかりで、彼等の給金は分家の負担となっているのだとか。
ぶっちゃけ、ハーラ家では使用人制度も廃止しようとした時期があったらしい。
しかし、さすがに伯爵家で使用人を雇う余裕もないのか、と思われるような真似は止めてくれと分家から申し立てられ、現在の状況に落ち着いたらしい。
「何か、いいなぁ。ハーラ家のそんな有り様が素晴らしいわ、本当に俺向きだ」
「本当にね。兄さんが、間違いなくハーラ家の血を引いているって感じるわ。私やリンも大概だけれど、やはり兄さんが一番、いろいろと突き抜けてしまっているから」
「褒めても何も出ないぞ、レイ」
「褒めたつもりなんて、全くないし。でも、まずはこの後に拠点に移動して、兄さんはルーイ達とナレイティア共和国に向かうということだったわね」
「そうだが、何かあるのか?」
「あまり、羽目を外しすぎないようにね。一応は、同行者がルーイ達だから大丈夫だと思うけれど、彼もノリがいいから心配ではあるのよね」
実際には、この時点ですでに顔合わせは済んでおり、ライとルーイ達との旅程も大凡ではあるが、こんな感じだろう程度には決まっていた。
しかしながら、そのことにはライからもルーイ達からも報告は上げていなかった。
どこから、どういう風に、その情報がもれるとも限らないので、念には念を入れた結果だけとも言い難いのだが、問題はないだろうということで済んでしまっていた。
何となく、リンから感覚的に出た言葉が、とても気になっているのは、レイが心配性であるからという訳でもないのだろう。