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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
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65:皇都アシル-20

 今日中に終わらせる予定だった、城内の問題箇所は全て作業完了し、ついでにこの街の地下にあった全ての仕掛けも破壊したリンは、城の外へ出掛ける事にした。

 予定では、城の外で比較的近い場所にある仕掛けを一つ破壊する予定になっていた。


「ねぇ、このままナターシャさんだけ抜けて、次の場所に向かうんだよね?」

「その予定だが、何か問題でもあるのか」

「えっと、カラルも一緒で大丈夫なのかなぁって、何となく思ったんだよ。ずっとこの城の敷地内にいたから、柵とかないの?」

「まぁ、契約が切れた訳ではないからな。しかし、一緒に城の外に出ることを禁じられている訳でもないが、少しばかり面倒はないこともないな」

「じゃあ、契約が切れるまでは、ずっとそんな感じになるのかぁ……どうにか出来ないのかな、その契約って」

「この国の皇帝との間に交わされている契約だから、皇帝と新たな契約を結ぶか、契約解除をするしかないだろうね。父上次第じゃないかと思うけれど、母上と一緒に父上に会いに行かれますか?」

「ふむ。それもいいか……さっさと自由を手にすれば、この先は好き勝手に動くことも出来るということであるからな。では、我は皇帝に会うことにしよう。リンよ、作業が終わったらまた会おうぞ」

「はぁ〜い。じゃあ、ここから別行動だね。ササッと片付けて戻って来るよ」


 リンの傍らで、同行しているアレクとヒルダが笑っていた。

 何でもない事のように、気軽に片付けて戻って来るよ、と言ったリンの言動がそれを誘ったのだが、リンには理解出来ていないようだった。

 力の強さに驚いて、一見何でも出来る凄い子供のように感じられがちだが、こういう姿を目の当たりにすると、やはり子供だったのだなと安心出来る気がした。

 概ね、ハーラの人間は早熟なようで、それが良くも悪くも影響を及ぼしている部分があるのを知っているだけに、アレクは思った。

 少しでも長く、リンには子供として過ごせる時間を楽しんで満喫して欲しい、と。

 しかし、年長者の考えている事などお構いなしで、リンは、とにかくこの作業を早く終わらせてしまいたかった。

 終わったら、あの砂漠で留守を頼まれてくれた地の龍に会って、お礼をする。

 今は、ただそれだけを念頭に置いて、ひたすら前を向いて作業に当たっていた。

 そうなのだ……とにかく、結果的に目指す地点が確定しているので、それを目指すままに力を目一杯に使ってしまうことで、それがどういうことに繋がっていくのかを考えることにまで、この時のリンには考えられていなかった。

 つまり、目的地に到着してすぐに、今日はこれで終わりだしいいよね、とばかりに残る力をありったけ注いでしまった、という状況で引き起こされた現象は、悪いものではなかったのだ。

 悪くなければいいと言う問題ではなく、桁外れに規格外な範囲への影響が一度に広がってしまい、ライとレイの向かっていた場所で残っていた問題地点を含む、この街に手付かずで残されていた問題地点の全てにまで、その力が及んでいた。


 次の目的地に到着して、これから作業に掛かろうとしていたレイが、真っ先に異変に気づき、力の流出先を特定した結果、これはリンの仕業だと判明。

 即座に移動を決定し、作業完了した報告と共にリンを探し、見つけた先でライを待ってから、二人で相談の結果「自重しなさい、リン」というひと事を告げるだけで終わったのは、きっとこの場でそれ以上を口にしても、あまり意味がないことを分かっていたからだろう。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるではないけれど、リンは元から深く考えすぎない気質のようであり、その場その場で行き当たり的に対処する方がいいらしい、と兄と姉の見解は一致していた。

 それ故に、この場ではひと言、ガツンと言って終わり、ということになったのだ。


「しかし、本当に終わらせちゃったのね。王には、これから報告をするけれど、もうしばらくの間は、ハーラ家に滞在していること。分かった?」

「了解しました、ナターシャさん」

「兄上には、この場で会ったのだから、母の暮らしている離宮にいる弟妹にも会ってやって欲しい」

「そうだね。アズールの言うように、今まで会えなかった親戚の人と会えるのは、あの子達にとっても楽しみだろうし……時間があれば、私の家族にも紹介したいしね」

「堅苦しいのは勘弁だが、そうではないなら是非に」



 事後処理は、恙無く終わりそうだという報告を受ける頃には、そろそろこの街から出て行きたくなっていたリンだったが、今日は予てより約束していたアレクの家族と対面することになっていた。

 この約束が終われば、お願いしていた約束の領地を貰えることになっている。

 ついでに、アズールをレイの婚約者とする話も出ているが、当人達に否やもないらしく驚いた。

 一緒にいても、あまり気疲れしない相手というのは貴重なのだ、とお互いに個としての存在を尊重出来る相手同士だったらしく、それならばいいのではないか、という結論に達した結果であるらしい。

 それに、あの土地をアズールが預かっている関係もあり、持参金(?)ではないがレイを嫁に貰う代わりに贈呈する事も出来るとあり、一石二鳥だということもあるみたいだ。


「何となく、面白くないなぁ。レイ姉ちゃんが取られちゃうみたいで、ライ兄ちゃんも遠くに出掛けちゃうつもりみたいだし……せっかく、前みたいに一緒に暮らせると思って喜んでたのにさぁ」

「リンっ!! そんなこと言ってくれるなんて、私とても感激だわ。大丈夫よ、リン。兄さんは、残り半分の土地を手に入れる為に離れるけれど、私はリンと一緒にいるからね」

「そうだぞ、リン。俺が、残り半分の土地も手に入れてやるから、お前は安心して復興に向けて頑張ってくれよ。まぁ、やり過ぎないことだけが心配なんだが、レイも一緒にいてくれるから、無茶する前には止めてくれるだろうしな」

「う゛ぅ……でも、折角また一緒に暮らせると思ったのにぃー。この悔しさは、仕方がないから復興に力を使って発散させるしかないかぁ。はぁ、とりあえず住む場所を確保しないとね……まだ、何もないから、あの土地」


 そう、誰の目にも触れない地下で、こそこそと活動中ではあるのだが、そんなことは誰も知らないし、兄と姉はリンから話に聞いているだけで、そこに行って実際に自分の目で見てから判断しようと考えていた。

 何が何処まで進んでいて、実際に問題なく進められる状態になっているのか。

 カラルと仲良くなったリンは、カラルが地属性であることから、どうせ分かってしまうことなのだから、と現在進行形で進んでいる地下工事について打ち明けてあるらしい。

 それを初めて聞いた時のカラルは、面白そうだと言って必ず立ち寄るし、場合によっては我も協力するが、とも言った。

 しかし、リンから協力については、今現在も留守を預かって工事監督を請け負ってくれている頼もしい存在がいるから、あまり意欲的ではなかった。

 その態度に思うところがあったのか、カラルの方が気になって力を行使した結果、地下工事の監督者が誰か分かって大爆笑していた。


 カラル曰く、「あの頑固者が、よく協力してくれたモノだな」とのこと。

 リンとしては、別に頑固じゃなかったと返したのだが、それでも旧友に当たるらしい存在の元を訪ねることを告げたカラルに、そのまま住み着いてもいいよ、と答えていた。


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