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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
54/137

54:皇都アシル-9

 朝一から、この街の地図を広げて、問題の場所を的確に示し、そこへ書き込みを始めたリンとナイゼルに、ライとレイも自分達に出来る範囲で協力をしつつ、今後の話を少し絡めて行動を始めていた。


「俺は、傭兵ギルドに登録しているんだが、レイとリンはどうするのがいいだろうか」

「ギルドの登録は、国を跨いでも有効なのよねぇ。それなら、私もリンも登録はしておくべきでしょうけれど、どのギルドを選ぶかが問題ね。ナイゼルさん、その辺り無難な意見を教示していただけないかしら」

「そうじゃなぁ、商業ギルドは今後の生活で登録しておいて損はないだろうのぅ。その他なら、魔法系のギルドも大丈夫だろうが、総合ギルドで一括登録するという手段もあるから、それが一番だと思われるのぅ」

「「えっ、そんな手があったの(か)?」」

「あるにはあるが、登録が面倒でなぁ。頭数のあるところなら、個別のギルドに数名ずつを登録しておるだろう。その方が楽ではあるからなぁ……」

「でも、ナイゼル祖父ちゃんが言うからには、その一括登録をしていると何か特典があるって事じゃないの?」

「おぅ、よう気が付いたのぅ」


 ギルドに納める金銭が少なく済むのが一番の理由で、後はいくつも掛け持ちで依頼を受ける事が出来る辺りが、個別登録するよりもお得になる理由らしい。

 それを聞いたリンの場合は、兄と姉に判断を委ねることにした。

 リンが考えるよりも、その方がきっと良い結果に繋がると信じているからだが。

 それに、昨晩の落書きを交えた家族会議(?)でも、いろんな議題が持ち上がったばかりなのだから、そちらの方で、リンにしか出来ない事に力を傾けようと思っていた。



 時は、少し遡る。

 食事を挟んで、その前後の時間を久しぶりの家族水入らずで楽しく過ごす事が出来た面々だったが、リンからの話はこれからの生活を考える必要が出る話だった。

 カーラル砂漠の、在りし日の姿を復元させる目的で、今もリンの仕掛けた刻印魔法が稼働し続けているのだと知り、ライとレイは前向きに考えを纏め始めた。

 一緒に自治領区の復活をさせて、そこで自活出来るような街を作り上げるためには、何が必要不可欠になるのか、と。

 嘗ての境界線は、川と運河だったけれど、すでにその姿は失われている。

 ならば、作り直すか、全く別の手段を考えるか。


「ライ兄ちゃんとレイ姉ちゃんは、どう思う? この境界線に代わる何かを作る必要性があると思うんだ」

「そうだなぁ。境界線は、まぁ必要だろう。川を再構築するのは、出来たとしても悪手だろう。運河や水路なら、街中に張り巡らせてもいいと思うが……流れる先は、海しかないとしてだな。一カ所だけが、海と繋がっているというのは拙いだろう」

「それはそうね。外からも内からも便が良く、守りにも適している構造っていうとどうなるのかしら」

「海に面している場所があるから、港も作れると思うんだ。将来的には、貿易みたいな感じで、その港からも行き来が出来る様にしたいなぁ、とは思っているんだけどね。その前に、まずは、街を整備しないと駄目だと思うんだ」

「そこは、当然でしょ。地下で作業が進められるのなら、区画整理を終わらせてから地上に引き上げる方がいいのではないかしら。それに合わせて、境界問題を片付ける段取りにするのがいいと思うわ」

「うーん。海沿いに、港を作ってしまおうかなぁ。街を囲む運河タイプの堀でも作っちゃう? 外堀を大きな運河にして、水路で街に入れるルートと陸上からは、この街みたいに壁を潜って入れるルートを用意して……あとは、空からのルートもいるかな?」

「普通の人族だけが住む、そんな街にしないつもりなんだろう。なら、考えるべきだろうな。飛行場やヘリポートのイメージでいいんじゃないか?」

「やっぱりさぁ、商業区とか工業区とかって分けた方がいい感じ? この街しか、こっちの世界に来てからは、どこも知らないから……」

「それはなぁ、俺やレイも知らん。この家の人や、俺とレイの知人に聞くより他はないだろうが……どこまでを話に織り交ぜるかが問題でもあるな」


 そんな話をして、結局そのままリンに用意された部屋で夜を明かした三人は、朝早くから昨晩の続きについて再検討を始めていた。

 朝食の用意が出来た、と声が掛かるまで続いた家族会議も、大枠的なところだけをざっくりと決めるだけに留まり、続きはまた今晩にしようということになった。

 そして、朝食の席で話題に上がったのは、この街のあちこちで深刻な問題になりつつある事象についてだった。



 ナイゼルからは、昼を目処にこの街から出立することを告げられ、それならば時間までは一緒に問題の場所を潰す方に手を貸してくれるよう頼んだ。

 移動時間を含め、2〜3カ所が限度であることも考えて、難易度の高そうな場所を引き受けて貰うことに決まり、昨晩のうちにリンが書き込みをした地図へ担当を記した。


「リンは、この街の問題箇所が分かるのか。この場所にいても、かなり広範囲にまで問題箇所が書き込んであるが」

「ダレン伯父さん、これが全部って訳じゃないからね。僕が気付いた分だけだし、精霊達が教えてくれた限りでは、これ以外にも小さい規模の問題箇所はあるみたいだから」

「ふむ。ダレン伯父さんか……いい響きだな」

「私も同じように呼んでいるんですがね、常から」

「アズールから呼ばれているのとは、また少し違う感じなんだよ。何故か分からんが」

「そういうものですか? まぁいいでしょう。それよりも、母が手伝ってくれるらしいので、皇族施設近辺は頼めると思いますが……魔法関係が行使出来ない私には、この仕事が遂行不可ですし、身辺警護と道案内くらいの協力しか出来ませんよ」

「それでもいいと思うわよ。ライ兄さんも私も、リンだって、この街は不案内ですからね」

「その通りだな。アズールには、レイとリンの道案内を頼みたい。俺は、この街へ来る時に一緒だった、フレアという知人と相談してから動く予定にしたいんだが」

「いいよ、それで。僕は、昼までならナイゼル祖父ちゃんと一緒でもいいけど、その後は一人じゃ迷子になりはしないだろうけど、この街に不案内なことは間違いないからさぁ」

「私も、それでいいわよ。ついでだし、アズールからルーイ達にも協力要請することは出来ないかしら」

「無論、それについては問題ない。私の権限が及ぶ隊には、協力要請するつもりでいるから、いくつかの班に分かれて行動する事でいいのではないかと思う」

「じゃあ、そういう流れで始めましょう。俺も、ダレン伯父さんと呼んでいいんでしょうか?」

「おぉ、構わんとも。ライもレイも、リンと同じように呼んでくれ」

「分かりました、ダレン伯父さん。すると、アズールのお母様は、ナターシャ伯母さんでいいのかしら」

「普通に、ナターシャさんでもいいわよ。おはよう、ダレン兄様。早速、私もこちらへ飛んできたわ♪」

「早かったな、ナターシャ。来て早々に、お前は……まぁいい。城や皇族の出入りする施設関係を中心に頼むぞ」

「了解よ。勿論だけど、私ひとりじゃないわよね」


 いきなりやって来たナターシャは、リンを見つけてすぐに抱き寄せて頭を撫でる行動をしながら、これらの発言をしていた。

 最後の言葉と視線を振られた、彼女の息子のアズールは、呆れ半分の表情を隠すことなく見せながら、ダレン伯父さんと一緒にお願いしますと言った。

 おそらく、ナターシャからはメンバー交代を申し出るだろうと予想しての発言であったが、それを違えることはなかった。


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