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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
53/137

53:皇都アシル-8

 その頃、三人を別室に追い遣ってその場に残った面々は、今後の事を急速に決めてしまおうと話を詰め始めていた。


「時に尋ねるが、旧カルディナ自治領区の今はカーラル砂漠になっている場所は、現在どのような扱いになっておるのでしょうか」

「ナイゼル殿、それは何か理由があってのお尋ねと察しますが……実のところ現在、カーラル砂漠は曖昧な扱いになっているのですよ。アレイシア皇国とナレイティア共和国の国境をどの位置に構えるかで揉め続けている状況ですしね」

「そうです。おそらく近いうちに、もう一騒動ありそうですよ。トルーディア王国でももめ事が起きているようなので、兵の振り分けで頭を悩ませることになりそうですしね」

「では、ここでハッキリさせておく方がいいかのぅ。旧カルディナ自治領区の遺跡が、カーラル砂漠の中に残されているが、アレは神殿であった建造物の成れの果てでな」


 その神殿では、忘れ去られて久しい時の番人とも称されている『アザレス神』が奉られていたが、彼の土地が環境破壊によって砂の海に変貌を遂げた時に同じく存在を忘れ去られてしまっていた。

 しかし、アザレス神の力でこの世界を長らえさせるために執られた措置があって、それが元で、こちらとあちらの世界を股に掛けて人が行き来させられていたのだ。

 余剰エネルギーを人の身体という器に蓄えさせて、世界を越える事で更にエネルギーは失われていき、それで漸くこの世界の平穏が保たれ続けてきたのだった。

 それでも、一度は失われてしまったカルディナ自治領区の緑豊かな土地を蘇らせる事は叶わず、壊れてしまった循環システムを回復させる術もなく、長い時を使いながら最悪の事態を避けるためにだけ、彼の神に残された力は向けられ続けた。


「アリシア殿も、アザレス神の言葉を聞いて界を越えたらしい。同じように、今度は再びリンがこちらへ呼ばれ、リンの要請でライとレイもこちらへ召還された。それには訳があっての、リンには壊れてしまった循環システムを修復することが出来る力が備わっているのだと説明されたらしいんじゃ」

「それで、あれほどの力を持っている訳ですか。納得が言ったというか、あのような子供の身の上に宿るには、どうにも過ぎたる力としか思えないのが辛い処ですな」

「でも、それがあるから、リンのために、ライとレイが召還されたんじゃないのか?」

「そのようじゃ。それでなぁ、リンはあの砂漠を、旧カルディナ自治領区を蘇らせる計画を進行中での……それがある故に、先ほどの話に繋がる訳じゃ」

「「あぁ、成る程」」

「しかしながら、ナイゼル殿。自治領区があった頃には、国境線代わりの運河と川が存在しておりましたが、今はもうそれもない。運河や川の復旧など、土台無理な話でしょう」

「あの少年は、どう考えているのでしょうか。姉のレイとは、しばらく共に行動していましたが、彼女も希有な存在だと言えます。それでも、彼女ではなく弟の方が選ばれている理由も気になりますし、兄のライ殿からも強い力を感じました」

「出来ぬ事はないと思うぞ、リンならのぅ。明日にでも、大神殿の仕掛けを壊した後に出来上がった噴水を見てくるといい。その気になれば、あの子はカーラル砂漠を運河で囲い込むことも出来る程度の力はあるが、それだけではなく……」


 リンには、古からの沢山の種族が快く協力を申し出るという、どうやらそれらの類に好かれやすい体質が備わっているように思える、とナイゼルは続けた。

 そこまで聞くと、聞いた方は黙るしかなかった。

 自分達が、頭から無理だと思っていたことも、リンには無理ではないというのだから。

 それに、ナイゼルの言う通りであるならば、リンはこの屋敷で生活するのは一時的な期間だけになり、おそらくだが、リンがこの屋敷から去る時は兄のライと姉のレイも同じく出て行くことになるだろう。


「どうしましょうかね。反対する訳にもいかないでしょうし、そうなると自治領区が復活した暁には、その地を離れることはないでしょう。両親と兄に話を通しておきますか」

「それがいいだろう。ナターシャには、話す必要はないだろうが……自力で聞き出してしまうと思うからな」

「ダレン殿、儂は明日、出立しますからな。あとは、残る者達でなんとかしなされ」

「お手伝いいただけるのだとばかり……いや、甘えてばかりではいけませんな。しかと承知いたしました。して、いずれの手段で出立なさるご予定か」

「庭をお借りしてもよろしいならば、相棒を呼んで乗って移動するが……まぁ、来る時も外壁の少し向こうまでは、同じように背に乗って空からやって来たんだがのぅ」

「「えっ?!」」

「まぁ、よい。来た時同様に、街の外まで出てしまえば呼ぶのは問題ないからのぅ」

「その相棒とは、契約獣か何かでしょうか?」

「その様なモノだのぅ。お互い長く生きすぎておるで、好き勝手しておるが」

「「はぁ」」


 この日は、晩餐に間に合わせるようにナターシャも合流し、食事を楽しみながら過ごして終わったが、翌朝からが慌ただしくなってしまった。


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