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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
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45:霖-40

 何となく水路を城の堀みたいに考えて、それを立体的にするとどうなるのかを考えていたら、またしても助けが入った。

 どういう構造に変えたいのかが決まったら、それを簡単に砂の上へ描いてみろ、と。

 描けと言われてすぐ出来るモノでもないのだが、イメージが伝わればいいか、と杖代わりに持っている棒の先で、ヒョロヒョロしながらも線を引き始めた。

 神殿の周りに水の堀を二重に張り巡らせて、そこから先へも中心から外へ向かうように緩やかな勾配を設置して、水を流していく。

 神殿のすぐ近くに、湧水池のような場所を設置して、そこから外へ向かうような形にしたいと思った。

 それを、地下と地上に二層構造で設置して、地上で使用された水を地下へ流して集積した後に、適切な浄化を済ませて川を経由して海へ流す。

 そんな風に出来たらいいな、と口で説明しながら描いた平面図に、地の龍が大体は理解出来たから、地下から助力してやろうと申し出てくれたのには驚いたけれど、とても助かるし、嬉しく思った。


「ここが砂漠になる前は、カルディナ自治領区だったのは分かったんだけど。その頃、この辺には川がなかったのかなぁ」

『あったな。カルディナ自治領区と他国との境にあって、北側を流れていたのは、川と言うよりも運河として、東西の海を繋ぐ役目をしていたのだが……』


 カルディナ自治領区が、砂漠に変貌を遂げた時と同じくして、運河も地面の変動で水が干上がって、運河としても使えない、唯の谷に変わってしまったのだという。

 一方で、南側を流れていた川は、北側と反対に地盤沈下で地下深くへ埋没するような形になってしまったらしい。

 もしもだが、在りし日の如くに緑や水の恩恵に預かりながら生活出来る環境が戻って来たら、国境はどうなるのだろうか。

 今は、カーラル砂漠としてアレイシア皇国とナレイティア共和国の国境線上に横たわる砂の海として認識されているだけに過ぎないのに、これが変わってしまったら、争いが起きる原因になるのではないか。


「国防の備えが必要かも……カーラル砂漠が、昔のカルディナ自治領区へ戻るには、今の国境線が邪魔になる……運河と川で境界が出来ていたんだし、それも戻せば使えるのかなぁ」

『無理であろう。再び使えるほどの状態で残っている訳ではないし、川は存在しない。運河を作るには、かなりの大規模的な土木工事が必要になるが……まだ、そちらの方が分はいいだろう』

「地下で作って、完成してから一気に地上へ引き上げるのが出来ればいいけど、無理なのかなぁ」

『リンの力が、どの程度の規模であるかに掛かっておるな』

「うーん。どうなんだろう。でも、出来ない事ではないのかぁ」


 砂漠の下に、固い土の層を作って、それをドーム状の屋根に見立てる。

 その中で、建造物の作成や調整を進める。

 国境線の問題を解決させるための手段を講じて、そっちの形が整ってから、地下の構造物が全て完成したら、一気にそれらを地上へ引き上げる。

 手段を口にするだけならば、こんなに簡単なのだけれど、実際にこれを行うには、とても大変な事だとしか言えないし、リン一人では無理だ。


「地下で、水路関係の構造物だけなら、作る事は出来るかなぁ。刻印、頑張って仕込んでいこう……そうだ、皇都でライ兄とレイ姉に相談しよう」

『……ならば、我は、地下で刻印が働いているのを監視しておくか』

「あ、暴走しないように見張っててくれるの? ありがとう!!」


 じゃあ、そういう方向で今から仕込みを開始するので、帰って来るまでよろしくお願いします、と言い募ってから行動を開始したリンだった。

 作業を始める時に、少し考えて、まずは神殿の遺跡へと足を踏み入れた。

 地下に埋もれていた部分を引き上げた加減で、内部の変化を確認していなかった事を思い出したからであるが、全容が見えた状態で考えると、どう考えても砂で埋まって隠されていたとしか思えない広さなのだ。

 通路があって、真っ直ぐに奥へ進むと、以前にアザレス神と会話した空間へ出た。

 礼拝所のようだな、と落ち着いて周りを眺めていたら、やはりあった。

 他の場所へ繋がる通路が左右に二つずつあり、扉などは存在していなかった。

 元から扉がなかったのか、長い年月の間に失われてしまったのか、それはこの際どちらでも構わなかった。


「この奥へ行ってみよう。大まかな造りだけでも把握しておかないと、後で困ると思うしね。地下に下りる階段とかもあるかなぁ」

『回廊が壊れていなければ、この神殿の地下には、湧水を汲み上げていた場所があったと思うぞ。我も全てを知っている訳ではないが、幼き頃にこの神殿を訪れたことがある』

「そうなの? 瑠王って、僕が思っているよりも、ずっと長く生きているんだねぇ」


 力が強いから寿命も長いし、上位の眷属として認められているのだ、と言われて、だから守護獣になれたのだ、とも諭されてしまった。

 成る程、そういう仕組みになっているのか、と肯きを返しながら、これからもよろしくお願いします、と改めて口にしたら、瑠王にもいつの間にか周囲に集っていた精霊や妖精からも笑われたリンだった。

 瑠王の案内に従って、下へ降りられそうな石段を安全性を確認しながら、ゆっくり進んだ先で、少し広い空間が確保されていた。

 どうやら、この場所で水が汲み上げられて、ここから水路を辿って外へと水を送り出していたらしいのが分かった。

 空間を維持している周囲の壁は、所々石壁が崩れて土壁になっているし、壁が砂状に崩れている部分も有る。


「まずは、この空間を補強してからかな」

『補強して、その後はどうするのだ?』

「とりあえず、水脈から水を引っ張ってくるつもりだよ。ここから外へ向かって延びている水路も補強して、水の流れを再現させてみる」

『では、我も協力しよう』


 龍と瑠王の協力を得て、壁と水路の補強及び再生を始めたリンは、同時進行で水を引き寄せる事も行っていた。

 上手く水が湧き出た時には、ホッとして喜びのあまり瑠王を抱き締めてしまった。

 水の流れも上手く誘導出来たので、水の属性を持っている妖精や精霊に尋ねてみた。


「ねぇ、この水って飲める?」と。

『大丈夫ぅ〜〜、私達もここに棲んでもいい?』と、逆に問い返されたので、好きにして構わないと答えたら、とても喜ばれた感じだった。

 早速とばかりに、出来たてホヤホヤの水路を流れる水に潜って戯れる水の一族。

 その姿を確認したら、思い出したように空腹を感じて、地上へ戻った。


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