32:霖-27
依頼主との挨拶も無事に終わり、明日の出発までの時間をそれぞれにゆったりと過ごす事になった。
聞けば、傭兵ギルトから皇都にあるギルド本部を経由しての連絡も、各所にあるギルド支部への連絡も出来る仕組みになっているというので、少し考えた結果、無駄になるかも知れないけれど使ってみることにした。
皇都のハーラ伯爵家へ、ウォルの街から隊商の護衛任務をしながら向かうこと。
それから、五体満足で元気にしていること。
皇都に到着したら、その足で伯爵家に向かうので、受け入れて貰いたいこと。
それらを綴った手紙を、ギルド経由で届けて貰う依頼を出した。
「それでは、ライ=タカツカサ=ハーラ様よりの依頼。確かに承りました。途中、どこかでギルド支部へお寄り頂けた際に、依頼の経過を尋ねて頂くことは可能です。どうぞ、お気軽にご利用下さい」
「それは、ありがたいね。じゃあ、依頼報酬を預けますので、よろしくお願いします」
「はい。確かに、お預かりしました」
ギルドから出ると、フレアが一緒に食事をしようと誘ってくれたので、快く承諾した。
道中いろいろと、こちらの世界でのことを教えて貰う必要性も考慮して、自分の身の上をこの時点で明かしておくべきか。
案内された食堂は、人の出入りも多く雑多な感じと賑わっている感じが、いい具合に同居した心地好い空間だった。
「ここなら、少しばかり話をしていても、誰も気にとめるものはいない。何か、ライが話したそうにしていたからな」
「お見通しだったか。あぁ、ちょっとばかり内緒話がしたかった。メニューはお任せしてもいいか?」
「いいよ。好き嫌いは?」
「よほどのゲテモノじゃない限り、多分だが大丈夫だと思う」
「分かった。では、先に注文だけ済ませてしまおう。食事が運ばれてくるまでに、話を聞くということでいいか?」
「十分だ。食べながらも、延長したら続けて話すけど……マナー違反になるか?」
「全く問題ない」
ライは、今までにも話をしたことがあるように、自分には妹と弟がいることから話を始めた。
祖母の実家が、皇都のハーラ伯爵家であったことを話したら、不思議そうな表情を見せたフレア。
ひょっとしたら、祖母の行方知れずについては、自分達が思っているよりも沢山の人が知っている事実なのかも知れない。
「祖母は、弟と沢山の時間を過ごしている間に、いろんなことを教えてくれたらしい。細々としたことは、俺と妹にも知らされていないと思うが、大まかなことは聞いて知っているな。例えば……」
祖母の育った世界と、俺達が育ってきた世界が異なっていること。
神の意志で、両世界を股に掛けて続いている血脈が、自分達の実家であること。
そして、親戚の血筋も同じように、両世界との繋がりがあるらしいこと。
「タカツカサと言うのは、俺達兄弟の姓だ。この世界ではない、向こう側の世界の人間として、俺達は育ってきたんだ」
「そ、それは、私のような者が聞いていい話なのか? とても重要な話だろう」
「どうなんだろうね。実際のところは、祖母も俺達がこちらの世界へ召還される可能性を考慮に入れていたから、俺達はこちらの世界の言葉を不自由なく読み書き出来るのだろうね」
「そのことを、ハーラ伯爵はご存じなのか?」
「今は知っていると思うよ、俺達よりも先に来た弟経由でね。妹は、レイ。弟は、リン。二人とも、芯が強いから、ちょっとやそっとのことでは、挫けて自棄になることもないよ」
「そうなのか。では、ハーラ伯爵家で合流するまで、妹と弟にも会えないのか」
「そういうことになるかな。元気ではいるみたいだし、大丈夫だと思うよ。弟は、身元のしっかりした人に保護されているようだし、妹は……レイは、俺よりもしっかりしているからね」
自分の身は自分で守れる、と言い切ったライに、会えたらきっとフレアとは仲良くなれるんじゃないかな、と言われて、機会があれば紹介してくれと言った。
そして、フレアは少し悩んだ末に、ここまでのことを聞いたからには、自分の事も少し話しておこうという気になった。
「ライには、教えるが……私の実家も皇都にあるのよ。公爵家の三女なの、私。当主は、北の所領であるノルンにいて、次期当主が皇都の屋敷に詰めているの。今は、一番上の姉が、次期当主候補として屋敷にいるわ」
「何か仕来りでもあるのか? 所領と皇都の屋敷を自力で行き来するなんて、フレアの身分から考えたら不思議な話だろ」
「おっしゃる通りよ。何て言うのかしら、そうね……お試し期間みたいなものかしらね。ノルンの実家から最低限の生活が出来る金銭と装備を渡されて、三年の月日を過ごす。その間に、必ず一度は皇都の屋敷にも滞在する事が義務づけられている訳」
「そうか。それで、皇都に行く事にした訳か。ちなみに、フレアは何年くらいになるの?」
「私は、ちょっと変わり者でね。当主に勧められる前から、ノルンでも傭兵ギルドに登録して依頼を受けたりしていたの。だから、今で七年くらいになるかしら……ノルンからウォルに渡って、それからだと五年かな」
「腕は確かってことだ、それなら」
「ふふっ、嬉しい事を言ってくれるのね。まぁ、中堅クラスでやっていられるくらいには、剣も弓も使えるかしらね。去年辺りから、いい加減に皇都へ顔を出せ、と言われ始めてしまってね」
「なるほど、ちょうどいい機会でもあったのか。俺の事は、まぁついでみたいなものか」
ついでというには、少し贅沢な連れだわ、とライに向かって言うフレア。
自覚はないが、フレアから言われた。
「ライって、属性の力を行使出来るでしょ」と。