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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
22/137

22:霖-17

 二人並んで、話をしつつ移動していると、誰からともなく視線が向けられているのを感じた。

 アズールが女性と二人で楽しそうに話をしている、ということも珍しいことなのだが、一緒にいるレイの容姿もそれなりに整っていたことから、いろいろな憶測が飛び交っているようだった。


 将軍が、あのような朗らかな状態で過ごす姿は、彼の部下から見ても非常に珍しいことであり、とても気になる事でもあった。

 それだけではなく、レイの態度も気になる事だった。

 大抵の貴族令嬢というのは、気位が高く我が儘であることも多く、稀にそうではない人もいるが、とても少ない。

 レイの場合、急にやって来たばかりの時から、兵士と一緒に野菜の皮剥きを始めたり、女性兵に混じって鍛錬に参加をしている姿を見せたのだ。


「しかし、いきなり来ても動じることなく溶け込むか。凄いな、レイ殿は」

「あぁ、そうだな。私も驚いているさ、あのヒトには」

「珍しく認めるのだな、アズール将軍ともあろう者が」

「認めるだろう、あの状態を見せられていれば。女性兵同士だけではなく、俺も部下にまで指摘が飛んできたのだからな」

「えっ?! アズールの部下って、男ばっかりだろうが」

「そうだが、関係ないようだ。レイ曰く、兄の方が強いということらしいぞ」

「なんだ、お前。いつから、彼女のことを『レイ』と呼ぶようになったんだよ」

「あぁ、班編制に組み込んでからすぐだから、意外とすぐからだぞ。当人からの要望でもあるし、余所余所しいのが嫌らしいな」

「お前はなぁ、親戚だから……しかし、何だ。気が付けば、好意的に受け入れられているから不思議だよ」

「確かに。普通のご令嬢とは、ひと味もふた味も違う。珍しく気兼ねなく付き合える異性ではある。レイの弟も知っているが、全く違う感じだったな。残る兄の存在も気になるが、一度は手合わせをしてみたいと思っている」


 このような評価を受けているなど、当のレイ本人は全く気にしておらず、本人のやりたいように動いているに過ぎなかった。



「今のところ、問題なく周辺地域の警戒も行えているが。どう思う?」

「それについては、少し気になる報告が上がって来ております」


 今朝方に戻って来た班の者から、少し離れた場所で洞窟のようなものを見つけた、という報告があった。

 風の流れを感じられたので、何処かにもう一カ所は風の出入り口があるのではないか、という見解を付けた後、その中へ少しだけ足を踏み入れたという。

 中から獣などの気配は感じられなかったが、あまり奥へ入って行くのは止めた。

 何かが起こってからでは遅いので、まずは報告を上げて指示を仰いでから動くことにした訳である。


「正しい判断だな。誰の班だ、それは」

「それがなぁ、判断を下したのは班長じゃなかったのが問題なんだ」

「イズル?」

「班長は、もう少し調べてから戻ろうと考えていたらしい。班員の一人、ルーイと言う男なんだが。そいつが、待ったを掛けたらしいんだよ」

「見所がありそうだな、そのルーイというヤツ」

「あぁ、まだ若いんだがな。風と水の属性持ちで、得物は弓らしいぞ」

「いいな。後衛でサブを任せられる可能性があるだろ、それなら」

「それから、笑い話だが……レイ殿と仲がいいらしい」

「そうか。ならば、更に期待出来そうだな」

「どういうことだ? おい、アズール。笑っていないで、俺にも分かるように説明しろ」


 レイの人を見る目は、アズールも驚かされた口だった。

 誰とでも、変な壁を作らずに話をして交友を続けながら、その裏で為人を分析していく。

 言葉にするのは簡単でも、それを実際に誰に気取られるでもなく遂行していくのは、なかなか並大抵のことではない。

 それだけに終わらず、彼女は等しく周りを見る事が出来る才がある。

 努力だけではどうにもならない才と言えばいいのだろうか、レイは上に立つだけの器量を備えている。


「レイ殿を班長にして、そのルーイと他に数名で組ませてみるか?」

「それもいいが、まずはその洞窟が気になる。調べてみる必要が有ると思わないか、イズルはどう思う?」

「同意見だ。俺が、駐留側に残ってやる」

「有り難いな。そんなに表に出ていたか?」

「あぁ、俺に行かせろってな。それで、レイ殿も一緒に連れて行くのか?」

「本人の意思を尊重しようと思う。本当は、レイをここに残していく方がいいのだろうが」



 それは、鍛錬を行っている時のことだった。

 レイに備わっていた力が顕現し、彼女がアズールの母ナターシャと同じ属性の力を行使出来ることが分かった。

 初めての事であったにも関わらず、慌てるでもなく冷静に対処して、何事もなかったように力を使いこなすにまで至ってしまったレイの様子を見た面々は、彼女に対してこう思った。

 やはり、ハーラ伯爵家の血筋は伊達ではなかったのだ、と。


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