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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
19/137

19:霖-14

 翌朝から元気に、瑠王と共に食料を持って出掛けたリンは、森と砂原の境界線まで到着した後、徐に草抜きを始めた。

 抜いた草を、境界線のすぐ際であり砂原の範囲でもある場所へ移植して、それを続けながら瑠王に連れて行って貰った遺跡の方向へ向かって進行を続ける。

 楽しそうに、それらの行動を続けているリンを、周囲を通っていく風が興味深げに観察しながら、リンに好意的な態度を見せていたのは、気温の上昇を和らげるように風を送っていたことからも察することが出来るだろう。

 当人のリンは、そんなことに気付いていなかったが、風があることはとても助かっているし、ひょっとしたら風精が見えるかな、と休憩している時に眺めたりしていた。


「何となく、物凄く沢山いるような気がしてきたけど……色が薄いし、小さいように感じるから、力が強くないのかなぁ?」

『見えるのね? アナタ、とても強いから』

『それに、面白いことをしている』

「あ、見えた。こんにちは、風霊さん、風精さん……で、合っているのかな? 僕は、リンだよ」

『合っているよ。こんにちは、リン』

『リン、こんにちは。他の子達も、この近くにいるよ』

「他の子? それって、風霊じゃないってこと?」

『そう。私達の友達だけど、大昔にここから移動した友達』


 リンは、自分の周りをぐるりと見回したが、それらしき存在にまだ気がつけないままだった。

 砂原から移動した、ということは森にいるのだろうか。

 自分が移植した草の道を、逆に辿って森を眺める。


「あ、いたっ! 地霊さん、地精さん? まぁ、どっちでもいいや…それから、木と水も?」

『小さくて、力が弱い子達は、霊。もう少し大きくて、力が強くなると、精になるの』

『そうよ。もっと強く大きくなると、妖になるの』

「えっ、そうなんだ。じゃあ、僕とこうしておしゃべり出来るのは、風精さん。その周りで、楽しそうに飛び回っているのは、風霊さん、ということ?」

『当たりー。リンは、面白いよー』

『面白いよー。だから、見ているの』

「そ、そうなんだ。まぁいいけど、この草って根付いてくれるかなぁ?」

『分からない。でも、そうなって欲しいのー』

『なって欲しいのー』

「じゃあ、協力してくれる? 僕だけの力じゃ、きっと無理だし。少しずつ森から、あっちの遺跡まで、この草の道を伸ばしていきたいんだ……多分、とても時間が掛かると思うけどね」

『何をしたらいいのー』

『したらいいのー』


 何だか、とても協力的な仲間を沢山、自分の味方に出来た気がしたリンだった。

 こうして、自分の手助けをしてくれる仲間が増えたら、きっとリンの目指す緑の道は作れそうな気がする。



     *



 あれから何回目の訪れになるのか、と思いつつも祖父母の墓参をしていた二人は、今も残されている霖と祖父母が共に生活していた屋敷へ足を向けていた。

 祖母が、この屋敷の庭で霖と一緒に過ごしていた場所があったことを思い出したからだった。


『この場所は、とても安定しているのよ。木々の気配が穏やかで、周りもその影響で落ち着いているように感じられるの』

 そう言っていた祖母の言葉に応じるように、何も分からない霖は「僕もこの場所が好き−!」と言っていた。

 どうやら二人にとって、あの場所はお気に入りの場所だったらしい。

 あんまりにも、その場所を好む二人のために、祖父が四阿を設えさせたほどだった。

 まだあの場所は、あの頃のまま残されているのだろうか。


 頼と麗は、そろそろ限界に来ていることを自覚していた。

 守るべき存在の不在に、二人を精神的に追い詰めていることは確かだった。

 とにかく、少しでも近くへ、あの弟がいる場所へ足を下ろしたかった。


「御祖母様、お願いします。どうぞ私達を、霖のいる場所へお導き下さい」


 二人が求める場所は、当時のまま残されていた。

 それ故に、つい弱音が口から溢れ出た。

 神様、仏様、お祖父様、御祖母様、父様、母様、誰でもいい。

 私達をあの子の、霖の元へお導き下さい、と。


『その願い、叶えよう』

 四阿の奥から、薄闇が広がって、その向こうから乾いた風が押し出されてくるように感じられた。

『この闇を越えよ。さすれば、汝らの望む場所へ届くことであろう』


 二人は、お互いの顔を見合わせて一つ肯き、覚悟を決めた。

 この声の導きに従ってみよう、と。

 どうせこのまま時間を過ごしていても、今と同じような状態から抜け出せないのなら、変化を受け入れよう、と。


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