18:霖-13
ハーラ伯爵家を訪れる事が決まった僕は、ナイゼル祖父ちゃんと共に突然やって来た二人の親戚が帰って行くのを見送ってから、ハーラ伯爵家のある場所や国民の登録制度などについて、まだまだ知らないことを少しずつ出発までに教えて貰うことになった。
伯爵家を継いだダレンが、今もまだ妻帯していないことで、彼の跡継ぎ問題を抱えたまま現在に至っていることも、この時に初めて知ったリンだった。
「もしも、そのまま子供がいないまま死んじゃった場合は、伯爵家ってどうなるの?」
「アズール殿が、養子となって伯爵家を継ぐ事になるだろうの。あの方は、すでに王位継承権を放棄して子爵を名乗っておるし、兄君がおられる。そちらは、第三皇子として王位継承権を持っておるが、母であるナターシャ殿は離宮暮らしを堪能しておるし、家族仲は非常によいのだが、独立して生計を立てておる」
「そうなんだ。凄いんだね、誰も彼もが。そう言えば、ダレンさんとナターシャさんが、ここから帰ってから気が付いたんだけど。あの二人って、僕の兄ちゃんと姉ちゃんに存在感とか雰囲気が似ていたみたい。一緒にいた時に、何となく全く気にならなかったんだ」
「ほぅ、そうなのか。では、兄がダレン殿、姉がナターシャ殿と似ておると言うことか」
あの勢いも、僕を構ってくれる様子も、似ていた。
だから、二人がいなくなって、僕は寂しいと感じてしまったから、何でかな、と考えたら、そういう結果に辿り着いたのだ。
一緒にいるのは、苦痛ではなくて楽しいと思えるから、多分だけれど、ハーラ伯爵家へ行っても一緒に生活するのが苦痛だと感じる事はないような気がする。
ただ、ここでのんびり暮らしているのと同じような暮らしが出来ないのは確かで、やはりそれだけは馴染めないかも知れない。
「僕、これから毎日少しずつ砂原へ散歩しに行ってもいいかなぁ」
「イシュルは、ナターシャ殿と共に帰って行ったが、瑠王は一緒にいるのだし。まぁ、いいだろう。しかし、何故そういうことをしようと思ったのかの?」
僕は、薬草園で出会った若葉色の小さい生きモノのことをナイゼルに説明した。
そうしたら、やっぱり僕が思っていた通り、あれは属性の小さき子と呼ばれている存在らしい。水の属性だと水妖とか水精とか水霊とか呼ばれるそうだ。
ちなみに、僕が出会った薬草園の子は、木の属性だったらしい。その友達は、風の属性だろうとのこと。
「つまり、木精と風精ってこと?」
「そうじゃな。瑠王にも属性はあるぞ、リンには見分けられるかのぅ」
「え?! そうなの? じゃあ、イシュルにも属性とかあるの?」
そう聞いたら、アレは鷹であるが、属性の力を備えておるから賢いのだ、と教えられた。
「うーん、そうすると。イシュルは、風の属性かなぁ。瑠王は、地の属性?」
「何故そう思った?」
「イシュルは、空を飛ぶから風と相性がいいような気がしただけ。瑠王は、砂原でも関係なく駆け回れるし、足場に左右されにくい動きをするからかなぁ……あ、それとあの子みたいに色が着いているのは分かるかも」
「ほぅ、どのような色か言うてみないさい」
「えっとね。イシュルは、ほとんど色が見えないけど、青っぽい緑の凄く薄い色が見えたよ。瑠王はねぇ、深い緑と茶色と少し紫っぽいけど濃い青で少し濁っている色が見えた。あ、そう言えば……ナターシャさんは、すっごく綺麗な紅が見えたなぁ」
「そうか、そうか。では、ダレン殿はどうだった?」
「ダレンさんは、藍色みたいな濃い青、かな? 少しだけ茶色も見えた気がする」
ナイゼルは、表情は変えないように気を付けていたが、かなり驚いていた。
リンが言ったように、それぞれの纏う色は間違っていなかった。
その色が、使える力の属性を示していることも説明し、ついでに属性を色で見分けられるのは、それぞれの力を判別出来るのは、とても珍しい力でもあるのだ、と伝えた。
その力を無意識に使えているリンについては、どう考えるべきなのか。
アザレア神の求める力の持ち主云々と、その事が某かの因果関係を含んでいるのだろうか。
屋敷に勤めている者から、リンについての報告もいくつか聞いている。
無闇な殺生を嫌う、誰にでも平等な態度で接する、とても元気な子供である、と。
近くに同年代の子供がいないので、友達を作る機会がないのは可哀想だが、大人達からの評価は悪くないものばかり。
買い物も出来る様になったが、無駄遣いをしない習慣が付いているらしいとも聞いている。
おそらくは、向こうの世界で共に暮らしていた年長者達の教育によるものだろう。
「では、ハーラ伯爵家に行くまでは、砂原へ毎日通うことを日課とするかの。遺跡までの往復が、瑠王と一緒に出来る様になれば問題なかろう」
「やったぁー! あ、それなら僕、これからすぐに地図を用意するよ」
毎日どこまで踏破したのか、それを記していこうというつもりであるのは、ナイゼルにも理解出来た。
しかし、驚いたことに、リンは言ったのだ。
散歩するついでに、毎日ここへ草を並べて歩くのだ、と。
他の植物よりも、その辺で勝手気ままに繁殖している雑草の方が、生命力が強いから根付く可能性だって高いし、と。
こうして、リンの無謀ではるが成功したら、とても評価出来る野望が始まりを告げることになった。