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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
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16:霖-11

 ナイゼルの部屋から出て、瑠王とイシュルと一緒に再び外へ出たリン。

 今度は、すぐ傍の畑へと足を伸ばしていた。

 畑の一角にある、薬草が集められている区画に足を向けたリンは、少しずつそこに植わっている薬草を確認していた。

 本で見て覚えた通りに、これがそうだ、と分かる物もあったし、本で見た記憶のない薬草もあった。


「これ、なんだろう?」

『それは、毒にもなるが、量を正しく間違えることなく施せば薬にも為る物よ』

「……あのぅ、誰?」

『私は、この薬草園に棲んでいる小さき者よ。アナタは? 少し前から、ここへ時々のように姿を見せるようになったわよね』

「妖精とか精霊みたいな感じなのかな? 僕は、リンだよ。よろしく」

『ふふっ、リンは面白いわね。私の声が聞こえたり、私の姿も見えているのかしら?』

「最初は見えなかったけど、今は見えているよ。若葉色の光が周りを守っているみたいで、綺麗だね」

『ありがとう。本当に、リンは面白いわ。きっと、とても強い力の持ち主なのよね』

「どうかな。僕は、まだまだ力を使う練習中だから……何が出来て、何が出来ないのかも分からない初心者だよ」


 そうなのだ、ナイゼルから言われるままに続けている訓練は、かなり曖昧な説明で理解に苦しんでいる。

 だから、ついつい逃げ出してしまう。

 けれども、逃げ出したから出会えた相手もいる……神様との出会いは、正しくその最たるものだ。


 昔に、有子祖母ちゃんから聞かされていた話を思い出す。

 こちらの世界で過ごしていた頃の、有子祖母ちゃんがアリシア=ハーラとして過ごしていた頃の話だ。

 癒やすことに長けている闇と水の属性に、特に秀でていたアリシアだったけれど、力の操作というものには無頓着であったことや、その代わりに属性の子等が助けてくれる事も多かったことなど、何となく祖母ちゃんらしいや、と思わされるような内容も沢山の話の中で聞かされて育ってきた。

 僕は、幼い頃から病気がちで、祖父ちゃんと祖母ちゃんと一緒に田舎暮らしを満喫して育った。

 祖母ちゃんが一緒にいる生活の方が、どういう訳か僕の身体に良い影響を与えてくれるから、両親もなるべく頻繁に会いに来てくれたけれど、とにかく僕は祖母ちゃんに懐きまくって幼少時を過ごした。

 兄ちゃんと姉ちゃんが、祖父ちゃんと祖母ちゃんに張り合って僕を取り合うくらい、この四人にはとても大切にしてもらった。

 そんな生活も、祖父ちゃんが亡くなってから数年後には終わりを告げることになった。

 祖母ちゃんが亡くなり、僕も少しは丈夫になったから、と本来の家族が暮らす場所へ生活の基盤を移すことになったからだ。


 僕が実家へ戻り、数年後には兄ちゃんも姉ちゃんも社会人になって、その後に両親は事故死。

 結局、僕は両親と共に過ごした時間は短い。

 その分もあってか、兄ちゃんと姉ちゃんからの僕に対する干渉は大きくて、過剰に守られすぎていると言い切れるような日々を過ごす事になっていた。

 しかし、そんな生活をしていても、僕は兄ちゃんと姉ちゃんの存在を鬱陶しいと思うことはなかった。

 これについては、自分でもどうしてなのか分からないし、友人達からも不思議がられていた。


「いつもあの調子だったからなぁ……久しぶりに長期で離れていると、何となく物足りなさを感じるかも」

『何だか訳ありみたいね、リン』

「うーん、多分もうすぐだけれど、僕の兄ちゃんと姉ちゃんが来る予定なんだ。どこに出没することになるのか分からないから、探さないと駄目なんだ」

『なぁんだ、そんなことか。私のお友達に頼んであげるわ。皆、とてもいい子達だし……行動範囲も広いから大丈夫よ』

「ありがとう。じゃあ、僕は君と君のお友達にどんなお礼をすればいいかなぁ……僕に出来る範囲で、何か考えておいてよ」

『お礼なんて要らないわよ。だって、リンはもう私とお友達でしょ。これからも、こうして時々お話が出来ればいいわ』

「分かったよ。他のお友達は?」

『そうね、リンの力がもっと自由に使えるようになったら紹介するわ。今はまだ、見えないし、感じ取れないと思うから』

「そうなんだ。残念だけれど、僕が頑張って早く力を自由に使えるようになればいいって事なら、とにかく頑張るよ!」


 頑張れ、頑張れ、と応援されて気を良くしたリンだった。

 薬草園を一巡りして、イシュルと瑠王と一緒にナイゼルの家に戻ったリンは、何かが変だと気付いた。

 何か、僕が出掛ける前までとは、違う。

 ひょっとして、ナイゼル祖父ちゃんに何かあったのではないか、と急に心配になってナイゼルの部屋に続くドアを叩く。


「ナイゼル祖父ちゃん! 僕、リンだけど……何か、あった?!」

「大丈夫じゃよ、リンが心配するようなことはないからの。客人が来ておるだけで……」


 ドアを開けて出迎えてくれたナイゼルの背後から、ナイゼルの身体を押し退けるようにしてリンの前に現れたの人は、そのままの勢いでリンを抱き締める。


「アナタが、リンなのね! アリシアの孫ですって?! よく顔を見せて欲しいわ」

「へっ?! えっ、な、何? な、ナイゼル祖父ちゃんっ!! ど、どういうこと〜」

「ナターシャ殿じゃ。アリシア殿の姉君だから、リンの親戚になるかのぅ」

「あぁ、私としたことが。ごめんなさいね、嬉しさのあまり名乗るのも忘れていたわ。ナターシャよ」

「リンです。えっと、アリシア=ハーラの孫になります。これ、祖母ちゃんから貰った物なんだけど、身分証明になりますか」


 祖母ちゃんの形見のペンダントを手に乗せて見せると、ナターシャと名乗った女性は涙ながらに肯いて、私が妹に贈った物だから十分に証明になるわ、と言ってくれた。

 祖母ちゃんの姉だと知っても、見た目も若いし、何だか変な感じだった。

 それをそのまま口にしたら、更にギュッと抱き締められて困った。

 結局、このまま今日はこの家に泊まっていくというので、一緒に晩ご飯を食べたのだけれど、その時にリンが体験したこれまでのことを、洗い浚い語らされることになって大変だった。

 その代わり、ライ兄ちゃんとレイ姉ちゃんを探すことを手伝ってくれることになったのは、これはとても嬉しい事だったかも。


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