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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
15/137

15:霖-10

 瑠王の紹介は済んだので、まずはどこから説明するべきなのか。

 リンは、とりあえずアザレス神とのやりとりまでを話す前に、アザレス神について教えて欲しいと考えた。


「ナイゼル祖父ちゃん、説明の前に知りたいことがあるんだ」

「そうか。して、それは何じゃ」

「うん。アザレスっていう神様のことを教えて欲しいんだけど、僕が読んだ本の中では、名前だけしか登場していなかったから」

「アザレス神について説明するのはいいが、どういう経緯で知りたくなったのか。まずは、そこから教えてもらった方がよいであろうと思うぞ。さすれば、何を知りたいと思っているのか、それについてどう答えるべきなのかが分かるというもの」

「簡単な説明でもいい?」

「あぁ、構わんよ」


 ナイゼルの助言を受けて、リンは話し始めた。

 いつものように、一人で森を散策中に瑠王が姿を見せて近づいてきたから、最初は警戒していたのだが、悪さもしない様子だったので、ちょっとだけその見事な毛並みをもふってみよう、と構い始めたら、予想外に大人しく触らせてくれたこと。

 そのまま一緒に散策していたら、途中から背に乗せてくれたこと。

 背に乗せられたまま、しがみついているリンが連れられていったのは、砂原の中にあった遺跡で、そこに呼ばれたらしかったこと。


「つまり、そこで神様の声を聞いたって事になるのかなぁ」

「ふむ。アザレス神のお告げか……あの神は、時の砂の番人とも言われているが、大昔に砂原がまだ緑溢れる大地であった時、その辺り一帯を統べていた王であったとも言われておる」

「あ、そう言えば。僕に、この地を緑溢れる大地に回復させる力があるって言われた。それで、頑張って回復してくれるのなら、僕の兄さんと姉さんをこっちの世界に招いてくれる、とも言っていたよ」

「……これは困ったことになったの。神から請われて、こちらの世界へ招かれたとは」

「やっぱり、大事だったりする? 僕に、そんな力があるのかどうかも分からないのにねぇ」


 で、神様からお願いされて、出来るかどうか分からないけど頑張ってみる、ということになったら、瑠王を守護獣として付けてくれることになったのだ。

 壊れてしまった循環機能を回復させて、あの砂原に緑を取り戻すのが、神様から僕へ下された使命のようだよ、とナイゼルに説明すると、少し考えをまとめるように立ち上がって、茶を用意してくれた。

 ナイゼル祖父ちゃん曰く、神はいつも気紛れだ、ということらしいが、リンに力があるのは本当の事らしい。

 そして、アザレス神のことだけれど、あまり多くは知られていない神様なのだという。

 あの辺り一帯の場所が、力を世界に循環させて、多すぎる力を別の世界へ拡散させている役目を負っていると言われている。

 それが、その力を循環させる為の何かが失われて、大地が力を抱え込む術を失ってしまった。

 循環されなくなった力は、あの場所で蓄積されてしまい、多すぎる力が溢れて、いろいろなモノへ乱れが生じるようになってしまったのを、アザレス神が一方的に力を奮って解決させてしまった。

 その解決させた方法が、大きすぎる力を器に圧縮して閉じ込めて、別の世界へ送り込むことだったらしい。


「その器に使用されるのが、生き人だと言われておる。それ故、この世界では時折のように神隠しという現象が起きる。その逆に、力を減らしすぎてしまった時には、逆の現象が起きるとも言われておる。リンのように、こちらへ呼ばれる者がいたということじゃな」

「じゃあ、祖母ちゃんや僕以外にもいたってこと?」

「あぁ、その通り。しかし、リンの兄と姉の行方は探すことにして……ここからは別の話になるが」


 今度は、ナイゼルからリンへ話があった。

 イシュルが届けたアズールからの手紙にあった、アズールの母と伯父のハーラ伯爵についての話だった。

 同じ血族の者に対する執着は、権力への執着にもにている部分が合って、この世界の中心に近い権力の強い場所では、それらの現象が顕著に見られるという。

 そんな中にあって、ハーラ伯爵家とその一族郎党は、少しばかり変わっているのだという。

 権力には拘っておらず、家族という括りには、非常に強い執着心を持っている一族であるらしく、アリシアの消息が不明になった当初などは、本当にいろんな伝手を使って彼女を捜索したらしい。


「ということは、僕がここにいることを知った二人が来るかも知れない、ということ?」

「まず、間違いなく来るだろうて。それも、何の先触れもなく単独で強襲してくる勢いだろうな」

「えっと、それって……いろいろと拙くないの? 祖母ちゃんのお姉さんって、確か……」

「うむ。ナターシャ殿は、皇妃であるな。後宮になど籠もるのは嫌だ、と離宮で気楽に過ごしておられるが」

「それでも、ちょっと行ってきます。じゃあ、という感じで身軽に動ける身分じゃないよねぇ」

「普通ならば、後宮から出て離宮で暮らす皇妃も珍しいが。ナターシャ殿は、それを皇帝に認めさせる代わりに皇妃でいてあげることになっているのよ、と言っておられたが……まぁ、それでも気軽に出掛けられる身分ではないな」

「でも、来ちゃう訳なんだ」

「その通り。同様に、伯爵家を継いだ長男のダレン殿も、まぁ大なり小なりの違いはあるが似たような気質での。亡くなられた次男のバレル殿が一番、その辺りには気を配っておられたお方でもあった」

「あははは……何か、物凄く近親感を感じるなぁ」


 リンの言葉に、今度はナイゼルが疑問を持ったらしいので、それを解決する為に口を開いた。

 僕の兄と姉も同じように、僕をとても大事にしてくれているから、と。


「アリシア殿は、どうであった?」

「祖母ちゃんも同じだったかも知れないけど、ライ兄ちゃんとレイ姉ちゃんの方が顕著でした……はい」

「うーむ。やはり、血筋かのぅ……ハーラの」


 まさかそんな繋がりがと思うけれど、何だか他人事では済まなくなってきていることは、ヒシヒシと感じられる気になっていた。

 これは、僕ものんびりしていられないなぁ、とナイゼル祖父ちゃんから力の使い方をしっかり教えてもらう覚悟が出来た。


「どちらにしても、来てしまえばどうしようもないのでな。その前に、リンの兄と姉を探すかのぅ」

「あ、でも、まだこっちに来ていないかも知れないし。それは、どうやったら分かるかなぁ」

「それもそうじゃな。瑠王であったか、その狼」

「うん。あっ、瑠王だったら分かるのかな?」


 リンは、瑠王の毛並みを手で梳きながら、瑠王に尋ねてみた。

 縦に一回、肯定の意味で首を振った瑠王の姿に、お前は本当に賢いなぁと抱き付いているリンに、ナイゼルは笑うばかりだった。

 ただ、イシュルがそれに口を挟むように、間へ入り込んでくるのは微妙な感じだった。

「えっと、ひょっとして……イシュルにも分かったりするのか?」

「いや、それはなかろう」

 ナイゼルの答えに、イシュルは無視を決め込み、リンの問いに肯定を意味してか首を縦に振って見せた。

 その姿には、リンよりもナイゼルの方が驚いているようだった。


「じゃあ、瑠王とイシュルに聞くけど。僕の兄と姉は、アザレス神がこっちの世界へ呼んでくれている?」

 一頭と一羽は、揃って首を横に振って見せた。

 どうやら、まだ二人はこちらへ渡っていないらしいが、この光景にリンよりもナイゼルの方が驚いているようだった。

 祖母ちゃんの兄と姉に会うまでに、僕の兄と姉はこっちの世界へ来られるのだろうか。

 まだ少し猶予はありそうだし、とりあえず僕には力を使いこなせるようになりましょう、という一大目標が掲げられることになってしまった。


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