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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
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13:霖-08

 強く願うだけでは、まだ何かが足りないのだろう。

 二人が願う、弟のいる祖母の故郷へ向かうには、この他に何が必要なのだろうか。


 何処に行けば、この気持ちを抑えられるのか。

 そんなことは分かりきっているけれど、末弟の霖の姿を見つける事は出来ていない。

 というか、彼がいる世界にさえも辿り着けていない現状で、どうすればそこに辿り着けるのかも分からないままだった。


「どうするかな。有子祖母ちゃんの墓参りでも行くか?」

「兄さん……確かにそれくらいしか、接点はないかぁ。あー、こうしている間にも霖の事が気になって仕方ないわ」

「それは、俺も同じだよ。霖は、まぁ……アイツは意志の疎通面で困ることはないだろうが、その他がなぁ」


 弟の心配をしながら向かったのは、祖母の遺骨を埋葬した墓で、ここくらいしか縋る場所に心当たりがなかった。

 墓の前で、祖母に願ってみる。

 それだけで願いが叶うなら、本当にお手軽だと言えるだろう。

 駄目もとなのだから、出来る事から順番に消去法で試していくしか仕方がない。


 平日の午前中から、山を切り拓いて造成された墓地へ向かう二人は、いつ何があってもいいように動きやすい活動的な服装を選んでいた。

 どこでどう繋がるか分からない限り、どのようなタイミングで向こうの世界へ行けるのかも分からないのだ。

 準備万端で毎日を過ごすしか、リスクを減らすのは、それくらいしか不可能だろう。



     *



「なぁ、瑠王。僕の兄と姉が、僕を追い掛けて来ると思うんだ。どうすれば、二人と早く再会出来るかな?」

『その様な心配は無用だ。我の力で、そなたの兄と姉を呼び寄せよう』

「……えっと、誰? ここには今、僕と瑠王しかしないけど、瑠王じゃないよね」

『ふむ。そこの獣は、我の配下に属するモノであるな。そなたを、ここへ連れて来るように命じてあった』

「瑠王のご主人様ってことでいいのかな? それで、僕にどんな用が有ったのでしょうか?」


 瑠王の背に乗って、砂原を走破して辿り着いた遺跡。

 そこは、僕がこの世界へ足を踏み入れた時に出て来た石造りの構造物と似ている感じを受けた。

 そうなると、今までに蓄積した少ない情報の中にあった遺跡というモノに当て嵌まるのだろうということだけは理解した。

 しかし、瑠王のご主人様って、誰なのだろうか。

 祖母ちゃんを、この世界から向こうの世界へ渡らせた神様(?)みたいな存在と同じなのだろうか。


『まぁ、尤もな質問ではあるか。我は、この世界で『アザレス』と称されておる。時の砂を統べる役目を負うモノだ』

「それって、神様、の名前じゃなかったっけ? ってことは、瑠王の主が神様なのか……」

『動じぬのだな、ソナタは。さすがは、あの娘の血筋ということか。まぁよい』

「あの娘って、祖母ちゃんのこと?」

『そうでもあるが、それよりも遡る血筋でもある』

「それが、僕をここに連れて来た事と関係があるんだね?」


 直感的に、この神様は大丈夫だ、と思ってしまった。

 だから、僕は大人しく話を聞いてみようと思って、神様に話の先を促した。


「要するに、壊れてしまった循環機能を回復させたいから、その為に必要な力を持った人が生まれるのを待っていた。それが、どういう訳か向こうの世界で生まれた僕だった、ということで合っている?」

『間違ってはいない。だが、随分と簡単に述べてくれたものよな』

「だって、簡単に言おうが、複雑に言おうが一緒でしょ。それで、僕にどうしろって言うのさ」

『この遺跡の周りに広がっている砂原を、在りし日の緑豊かな大地へと戻したい。その為の循環機能が回復すれば、砂原で生きている生態系の異常な進化も変化する』


 循環機能の回復。それが、僕に課せられた使命ということか。

 しかし、神様は勝手だ。


「どうすれば、その循環機能っていうモノが回復するの? それから、僕には拒否権もないの?」

『……何を望むのか、リン=ハーラよ。拒否権を認める訳にはいかぬのだ、それ相応の望みは叶えよう』

「えぇー、拒否不可なの? じゃあさ、その循環機能を回復させる力ってヤツは、僕にしかない力だって事なの?」

『ソナタ意外にも同じ力は存在しているが、それぞれの持つ力の容量が絶対的に不足しておるのだ。それ故に、機能回復させる規模が小さすぎてな。単純な話だ、役者不足というヤツよ』

「……うえっ、じゃあ僕が、その力を使いこなせるようにならないと駄目って事じゃないか」

『その通りだ。しかし、力自体はすでに目覚め始めておるようだから、それほど心配せずとも良いだろう』

「あ、だったらさ。僕だけじゃなくて、僕の兄さんや姉さんにも同じ力があるのかな?」

『力の属性が、おそらく異なっているだろう。しかし、その二人が近くにあることをソナタが望むなら、我の力で二人をこちらへ引き寄せる事は出来るぞ』

「えっ、本当?! それって、今はまだ二人ともあっちの世界にいるってことだよね」

『そ、その通りだ。では、二人をこちらの世界へ招くことを代償として、ソナタに承諾を願っても構わないのだな』

「仕方がないね。僕にしか出来ないなら、やれるだけのことはするさ。絶対に出来るとは言えないけれど、努力はする」


 何だか、成り行きで承諾してしまったけれど、良かったのだろうか。

 帰ったら、ナイゼル祖父ちゃんにも聞いてみよう。

 アザレスというこの神様曰く、僕の兄さんと姉さんをこちらの世界へ招くことが出来るけれど、場所までは確定出来ないらしい。

 なるべく近い場所に招く努力はしてくれるらしいけれど、あとは地道に探すしかないということだ。


「こうなってくると、祖母ちゃんに感謝だな。このペンダントがあれば、ナイゼル祖父ちゃんもこっちの世界にいる二人の場所を探すことは可能だって言っていたし……はぁ、頑張ろう」



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