116:分岐点-36
ノックの後、一応は返事を待ってから部屋の中へ進入したライに、何かあったのかと声を掛けて来たのは、王だった。
グダグダと能書きを並べるのは面倒だから、と率直に吐き出した言葉。
「そろそろ、貰うモノ貰って帰りたいんだが」というライに、王は今まさに結論が纏まったかのように、随分待たせてしまったようですまない、と口にした。
「それで? どうなったんですか」
「お前達の希望していた領地を、治めてもうら事になった」
「カーラル砂漠の辺り一帯の領地を治める領主になれ、ということか?」
「そうだ。ルーイとのことも認めた、希望する土地を治める事も出来るのだから、損などないだろう」
「この国からの割譲を望んでいたんだが、もしくは自治領として独立させて欲しかったというところまでが、俺達の希望であったんだがな。まぁ、いいだろう。ある程度の自治は認められていると聞いているし、この国では、領地毎に特色があるのも問題ないということだしな」
「あ、あぁ。その通りだ。国へ治める税を違えなければ、自治領と遜色ない領政が営める」
「ふうん。ならば、境界を壁で囲ってもいいよな」
「か、構わんだろう。その変わり、必要な経費などは、全て自らの懐で賄って貰う事になるがな」
「了解した。じゃあ、領地についての詳しい説明を、ルーイも交えて聞かせて貰おうか」
重鎮を交えて、確実な証拠になる書類も揃えさせて、ルーイとも合意の上で、ライはカーラル砂漠を含む国境地帯の領地を拝領した。
毎年、決められた額の税を納めること以外は、基本的に自治の形で領地を治める。
領地を囲む壁を作ることは、この場で国王を含め列席者にも同意させ、すでにレイが領主になっている皇国側の自治領区と、ライが拝領した領地の合併自治にも同意させた。
それぞれの国に、同額を納税すること、合併自治領の名称を『タカツカサ』に決めてある事も合意させることに成功した。
基本的に、ルーイは確認を促されたことの再確認をするくらいで、国王や重鎮との取り決めのほとんどは、ライが一任された形で進め、大凡で希望通りに近い形にて互いの承認できる形で終結を迎える事が出来た。
直ぐ隣から様子を見ていただけに終わったルーイは、ライの普段とは違う一面を見て驚いたのもあった。
やはり、あの二人の兄というのは、伊達ではなかったのだな、と感じた。
決まることさえ決まったら、他には用もないので、領地の引き渡しについての説明や書類に関係するあれこれを、一気に片付けてこの街から出ることにした。
「トレダの街より砂漠側の位置づけだし、何もない土地だったよな。サクッと境界の線引きを済ませて、その後から、ゆっくり内側の開拓をすすめるのでいいか」
「そうだな。役人に立ち合ってもらう必要が有るらしいけれど、境界の線引きさえ終われば、壁の内側で何をしようが自治の約束は取り付けたし、大丈夫なんじゃないか」
「なら、とっとと移動するか。リン達とも連絡を取りたいしなぁ」
『我も同行するぞ。群れと合流が出来そうであるし、我が事も再会したいのでな』
「お、そうだったな。俺の抱いている子狼の兄貴になるんだよな、あっちも子狼の姿をしていたが、成長が遅かったのか?」
『どういう具合か分からぬが、強い力の代償であると思われる。身体が大きくなれば、使える力も増える故、力の加減が出来る状態になってから、身体の成長が追い着いてくるのではないかと考えている。我もまた、同じような時を過ごしてきたから分かるのだがな』
「なるほど。身体がついていかないから、自動的に抑制が掛かるってことか。力が強い獣は、寿命も長いって聞いているけど、それも本当の話なのか?」
『本当だ。我も、かれこれ二、三百年の齢を重ねている。そろそろ、老いが目立ってきているが、まだしばらくは生き長らえるだろう』
「凄いな。こっちの世界で、平均寿命はどれくらいなんだ?」
「一般的な人族で、皇国なら百から百二十かな。この国だったら、もう少し短いと思うけれど、概ね百前後って感じだと思う。それがどうかしたのか?」
何でもないさ、と言ったライの表情は、何か考えていることがあるような雰囲気を感じった。
元から荷物もなかったが、食料や土産を少しばかり手に入れて、少しでも早くこの街から出て、自らの治めることになった領地へ向かうことにした。
帰りの道中は、何事も無いといいな、と口に出したのが拙かったのか。
何事もないままで、ライ達が領地へ辿り着くことは出来なかった。