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砂の雫から出来た国へ  作者: 小野 茜
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10:霖-05

 外から近づいてくる羽ばたきの音が聞こえて、やがて影が地面に映ったかと思えば、それは屋敷の窓から中へ入って来た。


「やはり、イシュルだったな。しかし、よく気が付いたな。リンは、アリシア殿のように力が使えるのかね」

「僕のいた世界は、力を使えない仕組みになっていたみたいだよ。祖母ちゃんが、そう言っていたから、多分そうなんだと思う。だから、僕がその力っていうモノを理解出来ていないんだよ」

「つまり、分からないということか」

「その通りだよ。でも、こっちの世界の方が僕の身体には優しいみたいなのは、何となく感じ取れるかな」


 冷静に考えてみると、あの砂漠でよく脱水症状を起こさずに生きていたよな。

 いくら、リンが倒れてすぐにアズールが助け出したと聞かされても、それまでにもあの炎天下の砂の上を歩いていたのだ。

 何かの力で、こちらの世界に来てから護られているのだろうか。

 例えば、祖母ちゃんを向こうの世界へ送った神様みたいな存在とかが、今度は作用反作用のように僕をこちらへ引っ張り込んで、その迷惑料代わりに、少しだけ手助けしてくれているとか……こんな風に考えるのは、やっぱり甘いだろうか。

 しかしながら、いきなりこちらの世界へやって来たリンだが、きっと向こうの世界に残っている兄と姉は心配しているだろう。


「ナイゼル祖父ちゃん、兄と姉に僕の無事を知らせる方法ってないのかな?」

「ふむ。この世界で、鷹は神の使いと言われておる。鷹に、ここにいるイシュルに頼んでみるくらいだろうな。それに、ひょっとしたら、リンだけではなく兄と姉も同じように、こちらの世界へ引き込まれている可能性もあるだろう」

「うーん、そうなのかなぁ。それならそれで、どうやって連絡をとればいいんだろう」

「ハーラ伯爵家に、少々ばかり繋ぎを取るとするか。リンの兄と姉も、アリシア殿のご実家については知っておるのだろう」

「知っているよ。僕より先に生まれた二人も、祖母ちゃんからこの世界の事は聞かされて育っているから大丈夫。言葉も、一応は教えて貰っているから……僕みたいに、祖母ちゃんとこっちの言葉で会話をして過ごす事はなかったから、覚えているかどうかまでは分からないけど」

「大丈夫だろう。あぁ、そうじゃ……リンを助けてここへ連れて来たアズールだが、アレもハーラの血筋だ。アリシア殿の甥御になる」

「えぇ?! じゃあ、僕は小父さんに助けられたって事になるの?」

「どうやら、こちらの世界とリンの育った世界では、時間の流れる速さが違うようじゃな」

「そうなのかも……あ、じゃあ……祖母ちゃんの家族が誰か、今でも生きているのか?」

「おぉ、生きておるぞ。アリシア殿の姉は、後宮から退いて離宮で暮らしておる。アズールは、アリシア殿の姉ナターシャが産んだ次男で、皇族の一端にぶら下がっておる。一応は、貴族でもあるな」

「凄いね、会ってみたいなぁ」


 ナイゼルとリンが話をしていると、近くの止まり木で大人しくしていたイシュルが羽ばたいて近寄ってきた。

 リンの肩にでも止まろうと思っていたのか、すっと近寄って来たけれど、リンの肩に爪を立てることを躊躇ったようであった。

 ナイゼルは、それに気が付いて厚手の布をリンに手渡した。

 渡された布を腕に掛けて、そのまま腕を床と並行になるように伸ばしているように言われ、ナイゼルの言う通りにリンが布を腕に掛けて、そのまま腕を伸ばした、我が意を得たりとばかりにイシュルがそこへ嬉しそうにやって来て止まった。

 布の上からでも、グッと掴まれるように立てられた爪の威力を感じて、リンは鷹が猛禽類だったなと思い出していた。


「う、思っていたよりも重いかも……でも、格好いいなぁ」

「ほほっ、イシュルがこれほど大人しいのも珍しい。コヤツは、なかなか気位が高いヤツでな。自分が認めた相手以外の身体には止まることなどせんのだが、リンはどうやら気に入られたようじゃな」

「そうなの? 嬉しいかも知れない、それは……イシュル、よろしく。僕は、リンだよ。えっと、リン=タカツカサ。こっちだと、リン=ハーラの名前を名乗った方がいいのかな?」

「おぉ、そうじゃったな。アリシア殿の孫ならば、ハーラを名乗っても問題はないであろうよ。おそらくは、その方が通りもよいであろうしな。兄と姉の行方を探すにも、ハーラを名乗っておく方が都合が良かろうて」

「それなら、僕は今日から、リン=ハーラと名乗ることにします」


 イシュルと戯れながら楽しんでいるリンの様子を眺めながら、ナイゼルはイシュルが運んできた手紙へ目を通し、返事ともう一通、別の相手への手紙を書いていた。

 手紙を書き終えたナイゼルの手から、イシュルの足へと、その手紙は受け渡された。

 一声だけ低い声で鳴いたイシュルから、頭を擦り付けられるようにされたリンは、あぁもう行ってしまうのか、と別れの挨拶であることを感じ取っていた。

 ナイゼルから、では頼んだぞ、と声を掛けられて、イシュルは再び外へ飛び出していった。

 その姿を見送ってから、ナイゼルに笑われたリンだった。

「随分と懐いていたが、それほど寂しいか……では、この近くにいる鷹でも見つけて仲良くなったらよかろう。リンなら、それも出来そうな気がするしのぅ」

「えっ、この近くにも鷹がいるの?」

「いるぞ。イシュルの親も、元々はこの近くで保護された鷹だった筈だ」


 それよりも、とナイゼルは先ほどイシュルへ託した手紙について、それが誰宛でどんな内容であったのかをリンに教え始めた。

 まずは、イシュルが運んできた手紙をリンの前で広げて見せ、これが読めるかと尋ねる。


「大丈夫だよ、ちゃんと読めるから。これは、僕を助けてくれたアズールさんからの手紙だ」

「その通りだが、書かれていることの意味も理解出来ているか……リンよ、アズールは元神子候補だった。彼は、今でも気紛れな神から告知を受け取ることがあるのだよ」

「つまり、砂漠に誰かが落ちてくることを告知されて、それを確認しに来たら僕がいた、ということでいいのかな」

「彼に知らされる内容というのは、いつもとても曖昧であったり、中途半端であったりするらしい。それが、此度に限っては砂漠へ落ちてくる者を助けよ、と具体的な指示が下った。いつにないことで、アズールも困ったらしい」

「でも、僕を助けてくれた。ナイゼル祖父ちゃんに託して、僕が困らないようにしてくれた」


 リンの真っ直ぐな気性も、理解度の高さも、ナイゼルはとても心地好く感じていた。

 それ故に、リンが心配している兄や姉の行方を探すことにも心を砕こうという気になったし、それを手紙にしたためたのだ。

 ナイゼルは、リンの素性を気にしていたアズールのことも、そのままにリンへ伝えた。


「ここで生きていく術を教えてよ、ナイゼル祖父ちゃん。そうしたら、アズールさんがここへ来られなくても、僕から会いに行く事が出来るのでしょう?」

「分かったらしいの、リンは聡い子供だ。アズールには、リンの素性を記した手紙をイシュルが届けてくれる。もう一つの手紙は、まだこちらへ渡ってきているかどうかも知れない、リンの兄と姉の捜索と救助を依頼した物で……これは、アリシア殿の兄である現在のハーラ伯爵へ届けるように、とアズールへ頼んでおいた」

「えっと、じゃあ……僕はどうしたらいいの?」

「生きていく術を、この儂から学ぶのではないのか。儂の知る事を望むだけ教えよう程に、まずはその力を解き放つとしようかの」


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