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ダンジョンをクリアしたら卒業できる高校があるらしいですよ  作者: まさキチ
第零章 はじまり以前
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第三話 進藤殺す

 第三話も引き続き童貞力高めです。

 スク水に嫌悪感を抱く方は、後書きのあらすじだけ目を通すことをおすすめします。 



 帰宅後、疲れた僕はベッドに横たわって一休み。

 何はさておき、進路をどうするべきか真剣に考えなきゃ。


 まず、僕に与えられた選択肢を思いつくままに列挙してみる。

 ブレストってやつだね。

 と言っても、「Breast」じゃないよ、それだとおっぱいになっちゃうからね。

 略さず言うと、「ブレインストーミング」。


 ひとつひとつの選択肢の検討は保留しておいて、思いつくままにどんどん選択肢を挙げていく方法だ。

 この時、絶対ありえないような選択肢でもひとまず除外しないことが大事らしい。

 そうじゃないと、除外するラインをどこにするかって考えなきゃいけなくなってくるからね。

 それは取りあえず後回し。まずは、できるだけ多くの選択肢を挙げてみよう。

 とまあそんな感じの方法らしい。


 ブレストって本来は、集団でなにか考え事をする際に効果的な方法らしい。

 実際、友人たちとのディスカッションでも僕らはブレストを用いている。

 僕らのディスカッションは一流企業の販売戦略会議にも引けを取らない、熱の入った侃々諤々なものだ。

 喧々囂々じゃないよ。

 お互い相手に敬意を払いながら、言葉を武器にして互いの知恵を競い合う、あくまでも紳士的な営みだ。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「女性の水着でどれが一番か」

 たとえば、このように誰かポツリと呟く。

 この一言が口火となって僕たちの静かな闘いが始まる。


「スク水」

 

 それが自明な真理であるかのように岡本が強く断言する。

 スク水はスクール水着の略だ(みんな知っていると思うが一応念のため)。


「スク水、名札付きだ」


 一番槍の功を焦ったせいで画竜点睛を欠いた岡本の発言を村田が補う。


 スク水は学校の水泳の授業時に着用するものだ。

 それゆえ、スク水を着用するのは普通は小学生から高校生まで。

 (あえて成熟した女性に着せて、はちきれんばかりの肉感と羞恥に染まる表情を楽しむギャップ萌えもあるがそれはイレギュラーな用法だ。)

 そういうわけで、スク水好きを主張することは野球でいうところの「低めに狙いを絞ったバッティングスタイル」と公言することに他ならない。


 それに加えて名札。

 学校ではみんな同じ型のスク水を使うので、着替えの際に取り違えが起こりやすい。

 それを避けるために通常は名札を付ける。

 ただ、中高生にもなると自分の名前が仰々しく付いている水着は恥ずかしいので、名札を付けないか、付けたとしても小さなサイズであまり目立たないものだ。

 しかし、取り違えが起こりやすい小学生低学年くらいだと、前身の半分を覆うほどの大きな名札、しかも、平仮名で


「2の2 やまだ みゆ」


 とデカデカと書かれているものだ。


 わざわざ名札付きを主張するってことは、まあそういうことだ。

 これはもう、「低めしか打ちません、多少ボールでも全然おk、フォークボール打ちとかチョー得意です」って言っているようなものだ。

 さすが、ワンバウンドボールでも平気で打ちに行く村田ならではの発言だ。

 彼としては絶対に譲れないポイントだったんだろう。


「旧スクY型名札有タグ無」


 通人。

 どんな分野でも、最初はみんな同じに見えていたものが、熟練することによって普通の人が気付かない細かな違いが分かるようになる。

 そのような細部に拘り、至高を追求する、それが通人。


 「お前らと違って俺は違いの分かる男だ」とばかりに木下が高みからの発言。

 

 スク水と一括りで呼ぶが、実際その形状は多岐に渡る。

 スク水について議論が重ねられていくうちに、その形状を説明するための用語が定められ、用語はどんどん略されていく。

 木下の発言は、そうしたことを踏まえた上で、自分はスク水についてちゃんとした議論ができる教養を持っていますよ、とアピールするという効果も併せ持つ。

 要するに、「おめーらパンピーとはレベルがちげーんだよ」という主張だ。

 まあ、「重カラサワカラサワイザナミイザナミアラキデアラキデ 」と同じだと考えればいい。


 ちなみに、木下の発言は、


「僕は、スクール水着の中でも股間部に前垂れが付いている旧型スクール水着と呼ばれるもののうちでも背面形状がY字型のものが好きで、オプションとして名札が付いていてメーカータグは付いてないものが好ましいです」


 という意味だ。


「新スクU型無し有り」


 進藤のこの発言に、僕と木下は凍りつく。

 岡本や村田はポカンとしているが。

 通人であられる読者諸兄ならば、この発言の重要性にすぐ気づかれるであろう。


 先ほどの木下の発言によって、議論は専門的なレベルに達した。

 ここで半可通だったら、サイドラインがどうとか、パイピングがどうとか、知識をひけらかす類の発言をするのがせいぜいだ。

 対して、進藤はあえて、わが校を含め多くの学校で採用されているスタンダードなものを推した。


   『スク水は人に着られて初めてスク水となる』


 至言なり。

 スク水の形状についてあれこれ議論するようでは本末転倒だ。

 身近なクラスメートやあこがれの先輩、可愛い後輩たちが実際に身に着けているスク水こそ至高である。

 青い鳥は自分たちのもっとも手近なところにいる。


「白スク」


 進藤の発言に衝撃を受けた僕が苦し紛れに呟くが、奇を衒ったところで白い目で見られるだけだった。


 その後も様々な意見が出てくる。

 Aラインのワンピース、ボーダータンキニ、Tバック、Cストリングなどなど。

 パレオと麦わら帽子は外せないだとか、この前に市民プールで太田さんが着ていたやつだとか。

 中には、濡れTシャツや包帯といった、それ水着なの? っていうのも出てくるが、ブレストの段階では排除しない。

 絶対ありえないような選択肢でもひとまず除外しないことが大事だからね。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 ブレストはディスカッションの始め方として優れているのが分かってもらえたよね。

 それだけじゃなくて、ブレストは一人で考えるときにも十分役に立つよね。


 机に向かいノートを開いて、思いつくままに選択肢を書き留めていく。

 スマホやパソコンでもいいんだけど、こういう場合はアナログな手段の方が僕には向いている気がする。

 手書きの文字を見てる方がよりアイディアが湧いてくる気がするんだよね。

 

 まずは担任に言われた「ヌマコー」、「定時制・通信制高校」、「寮付きの高校」、「戸○ヨットスクール」だ。

 最後の戸○ヨットスクールに連想されて、そういえば他にもこういった学校というか施設みたいなのあったなあ、と思いつく。

 なんて言ったっけ?

 そうだ、「フリースクール」だ。

 それと忘れちゃいけないのが「女子校」だ。


 絶対ありえないような選択肢でもひとまず除外しないことが大事だからね。

 絶対ありえないような選択肢でもひとまず除外しないことが大事だからね。


大事なことなので二回言いました


 学校に通うとなると選択肢はこれくらいかなあ。

 進学以外だと、浪人、大学検定、就職、フリーター、ニート、自宅警備員、ヒモ、こんなもんか。

 落ち着いて考えてみると、色々選択肢があるんだなあ。

 少し楽観的になった。

 ひと通り選択肢が出尽くしたところで、次は絞り込みに入ろう。

 

 ところで、僕の人生設計の中で絶対に譲れないものがある。

 それは「大学進学」だ。


 大学生になって、親元を離れて一人暮らし、付き合っている同級生の彼女とそのうち同棲、そして、昼間から講義をサボって組んず解れつの爛れた日々を過ごすんだ。


 いや、別に専門学校生でも同棲は出来るんだろうけど、僕の中では大学生ってだけで淫靡さが二割増しなんだ。

 だから、絶対に大学には行くんだ。

 

 というわけで、大学進学を前提に考える。

 やっぱり、「寮付きの高校」の一択だよね、冷静に考えて。

 定時制・通信制高校や大学検定でも大学進学は可能だけど、やっぱりギャルゲーみたいな高校生活送りたいもんね(定時制・通信制高校や大検を舞台にしたギャルゲーがあったらごめんなさい)。

 まずは、「寮付きの高校」を調べてみて、ダメだったらその時考えよう。

 よし、腹は決まった。


 パソコンに向かって、ブラウザを開いてみる。

 気軽さでいったらスマホの方が上だけど、こういったじっくりとした調べ物する場合にはパソコンのほうが向いているよね。

 手始めに「高校」と「寮」で調べてみると、検索結果の一番最初にウィ○ペディアの「寮がある日本の中学校・高等学校の一覧」のページがヒットした。

 さすがグー○ル先生。


 早速開いてみると、寮がある高校は全国で四百校以上もあることが分かった。

 結構いっぱいあることに驚いた。

 これだけあれば今からでも間に合うのが何校かあるんじゃないかな。

 楽観的な気持ちになれた。

 よし、これをかたっぱしから調べていくか。




 ――三時間後。


「……マジかよ」

 真っ白になった僕。


 ウィ○ペディアの一覧に載っていた学校を全部あたってみたが、今からでも間に合うところはひとつもなかった。

 不本意ながら男子校も見てみたがダメだった。


「いや、いくらウ○キペディアと言えど、完璧とは限らない。一覧から漏れている学校があるかもしれない」


 気を取り直して、「高校」、「共学」、「寮」、「募集」、「入試」などの単語を組み合わせて検索してみる。

 しかし、当然のことだけど、調べても調べても出てくるのはさっきの一覧に載っていた学校ばかり。




 ――さらに二時間後。

 

 眼は充血して、肩は凝っている。

 長時間パソコンに向かった後の特有の疲れで頭もぼうっとしてきた。 

 出てくる検索結果は同じようなものばかり。半分以上惰性で画面をスクロールさせ続けていた。

 半ば諦めかけていたそんな時に、友人の進藤から一通のメール。

 友人たちには現状を伝えておいたから、藁にもすがる思いでメールを開いてみる。


『お前向けの良い学校見つけたぞ(笑)』


 という短いメッセージと見慣れぬURL。

 (笑)が激しく気になったが、取りあえずリンク先を開いてみる。


『来たれ勇者! ダンジョン学園高等学校、二〇三〇年度新入生募集中』


 新作ゲームかよ!!!

 進藤のやつ、いくらなんでも悪ノリしすぎだろ。

 いつかぜってー殺す。

 ていうか、今から殺りに行くぞ。

 そう思って修学旅行の時に買った木刀とヌンチャクを両手に部屋を飛び出したかけたけど、考え直してこのサイトをよく見てみることにした。

 サイトを熟読して怒りゲージMAXにしてから殺りに行った方が良いからね。


 開いたサイトはゲームの公式サイトによくある作りをしていた。

 最初にでかでかとしたフォントで


『来たれ勇者! ダンジョン学園高等学校、二〇三〇年度新入生募集中』


 のコピー。


 その下にはファンタージー風の町並みやダンジョンやモンスターの画像。


 一番下には、「学校紹介」、「教育内容」、「学校生活」、「入試について」などなど、普通の学校サイトにあるべきページヘのリンクが貼られている。

 上の画像とはまったく似つかわしくないけど。

 うん、やっぱり進藤殺す。


 高校生が主人公のMMORPGのベータテスターでも募集してるんだろうな。

 誰でもそう思うだろう。

 マジで進藤殺す。


 現実風の高校とファンタジー世界を組み合わせるとか、ありきたり過ぎるだろ。

 しかも、「学校紹介」とか「教育内容」とか、実際の学校のサイトみたいなサイト構成してるの確実にスベってるだろ。

 つーか進藤ぜってー殺す。




 サイトをひと通り見てみた。


 ゲームじゃなくて実在する高校だった。

 日本始まりすぎだろ。

 そして、進藤すまんかった。


 得られた情報を要約してみる。


「ダンジョン学園高校は某県の山奥にある全寮制の私立の共学高校」

「来年度からの新設校」

「母体は誰もが知ってる国内の大手IT企業であるマンテンソフト」

「マンテンソフトの人材育成も兼ねたテストケースの学校で優秀な生徒はマンテンソフトに就職できる」

「学費は格安で、寮費込みでも公立高校より安い」

「英語や数学などの通常の授業もあるが、カリキュラムのメインはフルダイブ型のVRマシン(マンテンソフトで開発中の独自のマシン)を用いたもの」

「そのカリキュラムではネトゲでよくあるようなファンタジー世界でダンジョンを攻略する」

「ダンジョン制覇が卒業要件」


 ……よく認可したな文科省。

 いくら「多様な学校教育」を目指して、数年前に学校教育法が改正されて教育内容への規制が緩くなったとはいえ、さすがにフリーダム過ぎるよね。


 しかもこの学校名。

 ダンジョン学園高校って。

 高校野球とかの組み合わせ表でひと目で見つけられて便利ですね。

 ってそれくらいしか良い所ないだろ。

 僕が面接官だったら、「ダンジョン学園高校卒業です」とか言う奴がいたら確実に落とす。たとえコンビニバイトの面接でも無条件で不採用だ。


 文科省も予算削減のために企業が学校経営に参加することを推奨してるし、天下のマンテンソフトだから許されたのかなあ。


 いずれにしろ、非情にかっ飛んだ学校であるのは間違いないわけで、しかも新設校ということもあって、


『好評につき、まだまだ新入生募集中!!』


 らしかった。しかも、


『締切は3月末。これが最後のチャンス。絶対に逃すな!!!!』


 とのことらしい。


 やっぱり生徒が集まらなかったのね……。


 でも、僕はこの学校が気に入った。

 もともとゲームは好きな方だし、取り立てて勉強が好きなわけじゃない。

 受験勉強を頑張れたのは瀬能さんのためだ。

 よし、これもなにかの縁だ。

 ヌマコー送りの一億倍マシだ。

 美少女ゲーマーとの出会いに胸を膨らませながら、僕は入学応募の申し込みフォームをクリックした。



第三話あらすじ


 全寮制の学校をネットで探すも、今からでも間に合うところは見つからなかった。

 諦めかけた頃に友人から『ダンジョン学園高校』を教えてもらい、入学を決意した。


【補足1】


 すみません、本当は駆け出しで素人でニュービーです。

 スク水について間違った記述があるかもしれないので、前もってお詫びしておきます。ごめんなさい。


【補足2】


 『ANGEL TYPE』という定時制高校が舞台のエロゲがあります。

 『通信制高校に入ったらギャルゲーみたいでワロタwwwww』という2ちゃんねるのスレッドもあります。

 ご参考までに。

 


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