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ダンジョンをクリアしたら卒業できる高校があるらしいですよ  作者: まさキチ
第零章 はじまり以前
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第一話 ヌマコー!?

第零章(第一話~第三話)は主人公が高校入学する以前の話です。

 

 各話の後書きにあらすじを書いてあります。

 早くダンジョンクエストの話が読みたい方、下らない話に興味が無い方は、

 そちらにさらっと目を通して、第一章の始まる第四話から読み始めることをお勧めいたします。


 さかのぼること一ヶ月。

 三月の初旬。

 中学を卒業したばかりの僕、広田浩一は一縷の望みを託しながら、ペラペラと資料をめくって調べてくれている担任を待っていた。


「うーん、今からでも間に合うところって言ったら北沼高校くらいだなあ……」


 だけど、担任が発したのは死刑宣告にも等しい非情な言葉だった――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 北沼高校。

 通称はヌマコー。

 偏差値は三〇に届くかどうか。

 県内一のバカ高校として、地元で知らない人はいない。

 

 その凄さを物語るエピソードは僕が耳にしただけでも、


「自分の名前を漢字で書ければ合格」

「いや、ヌマコー生に漢字は難しすぎる。ひらがなでもOKだ」

「そこら辺の幼稚園児のほうが賢い」

「通えば通うほどバカになる」

「ヌマコーにも一部優秀な生徒がいて、その生徒たちのための特別クラスでは足し算だけじゃなくて、引き算も教えてくれる」


 などなど。ろくなもんじゃない。


 しかも、バカなだけじゃなくて、生徒たちのガラの悪さでも有名だ。

 ヌマコーの最寄り駅前では、カラフルな頭をした多くのヌマコー生たちがタバコを吸い散らかしながらタムロしていて、通行人に熱い視線を送っているし、目が合ったら病院に送ってくれる。


 ちなみに、ヌマコーでは喫煙はお咎め無しだ。

 その程度で処分していたら生徒が誰もいなくなってしまう。

 「生徒たちがそこら辺に吸い殻を捨てるから」という理由で校内に灰皿が設置されているくらいだ。

 喫煙を見つけた教師も喫煙自体を咎めるんじゃなくて、「ちゃんと灰皿に吸い殻を捨てろよ」と注意する。

 それがヌマコー・クオリティーだ。


 そんなヌマコー生だから、喧嘩やカツアゲは日常茶飯事。

 高校生がなにか問題を起こしたら「どうせヌマコー生だろ」とみんなが口にする。

 善良な地元民ならみんな避けて通る。

 他校の不良も関わりたがらない。

 卒業生の主な就職先が任侠業界との噂。

 実際、ヌマコーの周辺だけ隣接区域に比べて地価が低くなっているらしい。

 ヌマコーどんだけだよ。


 でも、一応フォローしておくと、ヌマコーにだって良い所はあるんだ。

 ヌマコーは生徒たちの留学支援をしていて、多くの生徒が在学中に留学を経験するんだ。

 その留学先は入るのに厳しい審査が必要で、普通の人だったらなかなか入ることができない場所だ。

 もちろん、ヌマコー生の全員が留学できるわけじゃあない。

 留学できるのはヌマコーのなかでも比較的優秀な生徒たちだけだ。

 留学経験のある生徒はヌマコーではエリート扱いらしい。


 しかも、その留学先というのがヌマコーと違ってとても規則が厳しいところ。

 僕なんかだったらすぐに逃げ出したくなるようなところなんだけど、ほとんどのヌマコー生が期限いっぱいまでちゃんと逃げ出さずにいるらしい。

 その上、なかには気に入ったのか二度、三度と留学するとても優秀な生徒もいるらしい。

 

 ちなみに、その留学先は世間一般では鑑別所とか少年院とか呼ばれているところだ。


 うん、全然フォローになってないね……。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 この四月から、僕がヌマコー生!?

 担任の言葉に眼の前が真っ暗になった――。


 このような状況に陥ってしまったのには悲しい理由がある。


 いくら僕がアホでも、さすがに人生の一大事である高校受験の日程を忘れていて今日に至ったというわけじゃあない。

 県内でもトップクラスの進学校である県立南沢高校(略してサワコー、け○おん!に出てくる先生の名前みたいで僕はこの呼び方を気に入っている)を目指して、受験対策なら夏頃からバッチリ準備してきた。

 南沢高校を目指したのは偏差値が高いからとか、家から近いから通うのが楽とか、そんなありきたりのくだらない理由じゃない。


 わが中学が誇るみんなのアイドル、瀬能沙美せのうさみさんが南沢高校を志望しているからだ。

 瀬能さんと一緒の高校生活を送るために南沢高校を受けることに決めたんだ。

 瀬能さんは実際にアイドルとしてスカウトされたこともあるし(その際はちゃんとお断りしました)、そこら辺の一山幾らのアイドルなんかよりよっぽどカワイイ。




 瀬能さんの志望校を知った七月のその日から、僕は猛勉強を始めた。

 それまでロクに勉強なんかしてなかったから、僕の成績はそれは酷いもので、模試ではぶっちぎりのE判定。それに毎日机に向かうのはとても辛かった。


 それでも、僕は瀬能さんと一緒の高校生活を夢見て、一生懸命頑張った。

 人生で初めて本気出した気がする。

 あ、幼稚園児の頃、近所のバカでかいブルドッグに追いかけまわされた時に本気で逃げたのを思い出したけど、それはノーカウントで。


 そんな僕の本気を周囲の人達は誰も信じやしなかった。


 担任(ついさっき僕に死刑宣告を告げた当人だ)に志望校のことを伝えても、冗談だと思ってまったく取り合ってくれなかった。

 それどころか、「いつもフザケているんだから志望校くらいまじめに選べ」と怒りだす始末だ。

 それでも僕が本気であることを繰り返し伝えると、「絶対に無理だからやめとけ」とか、「お前を南沢高校の合格させるくらいなら、チンパンジーに因数分解を教える方が簡単だ」とか、挙句の果てには、「オレは知らんぞ。勝手にしろ」とソッコーで匙を投げられた。


 両親たちでさえ、帰宅するなり机に向かいだす僕を見て病院に連れて行こうとするし、おばあちゃんなんか仏壇に向かって念仏を唱えだすくらいだ。

 友人たちも自分たちと同じアホの子の一人である僕が南沢高校に合格するだなんて、これっぽっちも思っていない。


「もし合格できたら逆立ちして鼻からスパゲッティ食べてやるよ」

「じゃあオレは目でピーナッツを噛んでやるよ」


 酷い言い様だった。


 でも、僕は周囲の否定的な意見を無視して日々精進し、南沢高校合格への道のりを一歩一歩進んでいった。


 そして、秋が過ぎ、冬になり――。




 入試直前の模試ではバッチリA判定を叩きだした。


「すまん、正直お前はただのアホだと思っていた。やればできるんだなあ」


 担任は初めて僕を見直した。


 よし、後は試験に合格するだけだ。

 今の実力を出し切ればなんの問題もないはずだ。

 そして、合格発表では、瀬能さんと二人で喜びを分かち合おう。

 その時なら、ドサクサに紛れて手を取り合って喜んでも平気なはずだ。

 本当は抱き合って喜びを噛みしめたいところだけど、さすがにそれはまだ早すぎる。

 物事は順番が肝心だ。

 

 抱きつくより前にやらなきゃいけないことがある。

 そう、告白だ。

 卒業式の日に、人気のない校舎裏で瀬能さんに告白しよう――。




「ごめんね、急にこんなところに呼びだしちゃって」

「ううん。全然平気だよ」

「四月から一緒の高校だね」

「びっくりだよ。広田くん、成績良くなかったでしょ」

「うん、まあ。あの頃は酷かった」

「頑張ったんだね。一生懸命勉強してる姿、カッコ良かったよ」

「頑張れたのは瀬能さんのおかげだよ」

「えっ!?」

「僕は瀬能さんと一緒の高校に行きたかったから頑張れたんだ」

「広田くん……」

「好きです。僕とつきあって下さい」

 しばしの間の後、恥ずかしそうに赤い顔でコクリと頷く彼女。

 そうして二人は恋人同士の関係になり一緒に南沢高校に進学する、はずだったんだけど……。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 南沢高校の受験日の前日。

 夕食を終え、明日の準備の最終確認だ。


 受験票、筆記用具、時計、ハンカチ、ティッシュ、カイロ、上履き、参考書、お守り、それと瀬能さんのスナップ写真。

 どれも忘れちゃいけない大切なものだ。

 特に、一番最後のやつ。

 

 備えは万全だ。

 勉強は嫌になるほどやって来た。

 明日の持ち物も完璧だ。

 夕方のうちにスパゲッティとピーナッツも近所のスーパーでちゃんと購入済みだ。


 少し身体が重たい気がしたけど、緊張しているせいだろうと思ってあまり気にしなかった。

 その日は余裕を持っていつもより少し早めにベッドに向かうことにした。

 瀬能さんと一緒に南沢高校に通学している自分の姿をベッドの中で想像していると眠気はすぐにやって来た。




 そして、試験当日、悲劇は起こった。

 セットしておいたアラームで目を覚ましたけど、身体を起こすのが困難なほどしんどかった。

 全身が燃えるように熱く、頭がぼうっとする。

 熱を計ると三十九度を超えていた。


「……最悪だ」


 よりによって、こんな大事な日に……。


 解熱剤を飲んでなんとか試験会場に向かったものの、全然頭が回らず最後まで席に着いているだけで精一杯だった。


 もちろん結果は不合格。


 しかも無理がたたったせいか、肺炎になるほど病状は悪化してしまい急遽入院。

 二週間も寝込む羽目になってしまった。


 併願していた二つの私立高校も受験できなかった。

 三日前にあった卒業式にも出席できなかった。

 瀬能さんに告白することもできなかった。

 瀬能さんが無事に南沢高校に合格したことを友人から知らされた。


 僕の友人たちはやっぱりロクでもない奴らで、


「残念だったな。せっかく逆立ちして鼻からスパゲッティ食べる練習してたのに。無駄になっちゃったわ」

「こんなことがあっても、お前はオレの最高の友達だ。それを忘れるな。いやー、最後の最後で人生賭けた捨て身ギャグとか、中学生活で一番笑ったわ。やっぱおまえサイコーだわ」

「来年オレの高校に来いよ。ジュース買いに行かせてやるから。よっ、後輩君」

「中卒で働くってのもアリじゃねえ? ほら、納税とかカッコいいし」

「卒業式で校長の長話聞かなくて済んで良かったな。あのハゲ最後までツマンネー話しかしなかったぞ」

「元気になったら遊びに行こうぜ。四月から俺ら忙しくなるから、遊ぶなら今のうちだぜ」


 素直に慰めたり励ましたり、そんな気は毛頭ないようだ。


 でも、そのおかげでショックから立ち直ることができた。

 奴らがネタにしてくれたから、ただの笑い話にすることができた。

 当初は立ち直れないくらい落ち込んだけど、悩んでいる自分がバカらしくなって、なんとか前向きに考えられるようになった。


第一話 あらすじ


 中三の夏、僕、広田浩一はあこがれの瀬能沙美さんと同じ南沢高校へ進学するために猛勉強を始めた。

 その甲斐あって学力は十分についたが、入試当日に体調を壊し受験に失敗。

 進路相談のために担任に泣きついたところ、「県内一のバカ高校しか残ってねーから」と言われる。


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