(13) 逃げてばかりもいられない?
ごめんなさい。何か月ぶりかの更新です。
これだけ間が空いてしまうと、もう読んでくださる方もいないでしょうね。
ですが、未完のまま放り出すのはいけないと思うので、時間と体調の許す限り、こつこつと書き進めます。……という独り言です。
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戦闘シーンは苦手だ。
いや。戦闘自体もそれほど得意じゃないけど。
カミはそんな苦い思いを噛みしめながら、ミコトと並んで表通りを駆け抜けた。
戦闘シーンの状況を整理するために、心の中での独白を自動筆記するシステムコンソールのオプションスイッチはオンにしてはある。でも、そんな散文的なテキストが、膨大に蓄積されていったものなんて、何の役に立つだろうか?
だから多くのプレイヤーは、今後の戦闘に生かすための分析用として、戦闘シーンの要点をコンパクトにまとめ、それを自分の「Face Blog ER」のスペース・ラインにアップロードしているようだ。
カミもその方が良いとわかっているのだけれど、でも、どうしても上手く詳細を記述することができない。結果、どうしてもカミの戦闘記録は映像情報だけに偏ってしまうことになる。
映像情報は、客観的な記録としての価値はあるが、戦闘相手との心理的な駆け引きや、直接の肌でしか感じられない各攻撃の脅威度のような映像からは得られない情報は、やはり自分でテキスト化してデータベースに蓄積しなければ使い物にはならないのだ。
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隣で一緒に戦うミコトに、カミは以前、そんな思いの愚痴をこぼしたことがある。
ミコトは一言。「何月何日何時頃、わーって来たのを、エイってやっつけた……って書くだけじゃんよ?」と、不思議そうな顔で首を傾げただけだった。
本当にミコトの戦闘レポートがそんな単純なものなのか……恥ずかしいから互いの「Face Blog ER」は極力みないようにしているので……定かではないけど、冗談なのか本気なのか判別がつかない表情で即答されてしまったので、聞き返すことができなかった。ミコトの性格からすれば、あんなこと言っておきながら、きっと自分の戦闘レポートは緻密かつ精細に記述しているような気がする。
何故なら、ミコトは同じ失敗を決して繰り返さないから。
そんなことが可能なのは、過去の戦闘レポートを元にして、常により正しい行動選択をしているとしか思えないのだ。
そんな無意味な思考を繰り返し思い浮かべながら、カミは右から襲いかかって来た両手剣使いのエルフ族PCの重い一撃を、防御力満点の高価なシールドで防ぐと同時に、こちらは逆に殺傷力が著しく低い打突杖をそのシールドの脇から突き出して、がら空きの鳩尾をしたたかに打ち付けた。
逃げ回るだけでは、もう限界だった。
血反吐を吐きながらのたうち回る両手剣使い。防具の上からだったが、カミの打突杖には魔力が付されている。
殺傷力は押さえてあるが、その衝撃は普通の防具屋で買えるような通常アイテムでは防ぐことが出来ず、内部に浸透する効果をもった非常に高価な打突杖だ。
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そして……このデスシムという悪趣味なゲームは、体に受けたダメージはリアルの世界と同様の痛みをもたらす仕様になっている。
結果、エルフ族両手剣使いの男は、HPのゲージはまだイエロー程度で【死】に至るにはほど遠いステータスながら、苦痛にのたうち回って戦線から離脱した。
まぁ、この男だけが殊更に情けない根性の持ち主というわけではない。少し賑やかなイベント・クエストに参加している……という程度の意識しかもたない多くの「勇者様たち」は、歯を食いしばって死にものぐるいで敵に向かうために必要な「切実な動機」というものを持っていない。だから、所詮はその程度……ということだ。
この「TOP19狩り」が始まって以来、襲いかかる「勇者様」たちを殺してしまう覚悟をもてなかったカミとミコトは、戦闘を避けてひたすら逃げ回っていた。
TOP19をTOP19たらしめる理由。
それは、この世界における【死】を誰よりも強く拒否する【心】。
だから、カミに限らず他のTOP19の多くが、自分の「死にたくない」という気持ちを他者へも投影し、無意識に相手を【死】に追いやることのないようにしていた。
……もちろん、ジーパンたちのような例外はあるが。
また、この世界で効率的かつ安全に経験値を稼ごうとする場合、積極的な意志……たとえば「恨みつらみ」のような感情……で積極的に戦闘をしかけてくるPC相手の戦闘よりも、一定の距離をとれば攻撃をしかけてくることはないモンスター相手の戦闘に専念した方が得だ……という打算もあり、「何でもあり」なこのデスシムの仕様の割には、そもそも案外とPKの発生率は少なかったのだ。
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そう。相手とその仲間を一瞬で根絶やしにできるならば別だが、そうでなければ、相手を殺そうという意志は、同じだけの強さをもっていずれ自分へと跳ね返ってくる。
それが、システムからその強さを折り紙付きで認められたTOP19でありながら、カミとミコトが防戦一方で逃げ回っていた理由だった。
しかし、先日、四方八方……それから上方向までをも完全に包囲され、ついに甘い考えを捨てざるを得なくなったカミとミコト。
誰よりも自分の【死】を忌避する【心】が強いTOP19であるカミだ。いざとなれば、他者の生存よりも、当然に自分の生存への欲求が勝る。
あの時の死にものぐるいの戦闘で、いったい何人の勇者様が斃れたのかは知らない。一人も【死】に至ることはなかったかもしれないし……何十人と【死】を迎えたのかもしれない。カミもミコトも、いちいち数えながら戦闘をする余裕などなかったし、余裕があったとしても数えたいとは思わなかっただろう。
最下位とはいいながら、システムによりTOP19という一般PCとは別格の扱いをうけているカミだ。戦うという意志さえ固まれば、弱いわけがない。
あの東の孤島の霊峰中腹のダンジョンでは、無限にポップして通路を常にギッシリと埋め尽くす「守衛スケルトン」というやっかいなダンジョン・モンスターの群を、5キロメートル以上も突き進み、ダンジョン・ボスである「スカル・ドラゴン」をも一撃(?)で屠ってみせたのだ。
TOP19でもなく、ましてや中級レベル程度でしかない一般PCが多少の集団を組んだぐらいで倒されるようなカミとミコトではない。
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ただ、「守衛スケルトン」とは違い、勇者様たちは戦術的に連携をとったり、効果的なタイミングを見計らって魔法を放ってくる。
密度は低くても押し囲まれたら「守衛スケルトン」より厄介なことになるだろう。
だから、カミとミコトは走るのを止めない。
入り組んだ街路をランダムに走り回ることで、勇者様たちの陣形を細く引き延ばし、一度に相手にする人数を減らした上で各個に撃破する作戦をとったのだ。
中遠距離から飛来する攻撃魔法は厄介だが、アスタロトからもらった膨大な資金により購入した最上級の防御アイテムたちが、よほどのクリティカルなヒットでなければダメージを最小限に押さえてくれる。時には、完全に無効化してくれたり、相手に効果を跳ね返してくれたりもする。たくさんのアイテムを装備して走り回るのは大変だったが、高価なアイテムというのは重さが極めて軽く作られており、装着の負担が少ないのだ。
生存欲求とPKへの忌避という精神的ジレンマにいらつきながら、カミは走る。
と、そんな思考の隙をつくように、今度は左側から顔に黒い布を覆面のように巻いたアサシンタイプのPCが躍り掛かってきた。前進も暗色系の服で覆われているが、胸や腰のあたりが描くカーブからすると女性PCのようだ。
両手には鋭いアイスピックのような武器。
このように詳細に相手の容姿を見定めているところからすると、冷静に相手を見極め分析できているように思えるかもしれないが、しかし、不意をつかれたカミの体の反応は遅れた。しまった……という焦りとともに跳ね上がった心拍数により、世界をスローモーションのように感じただけだ。敵だけでなく、自分の動きさえも遅い。カミの眉間へと狙いを定めたアイスピックが吸い込まれるように迫ってくる。眉間には防具はない。崩れた体勢では、もう、逃げられない。
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が、次の瞬間、女性アサシンの姿が掻き消えた。
いや。まるで吸い込まれるように、若しくは引っこ抜かれるように上空へと飛んでいったのだ。
瞬間的に女性アサシンの上部に、渦を巻きながら激しく上昇する気流……気象学的にはスーパーセルと呼ばれる現象……が発生したのだ。もちろん、そんなタイミングよく偶然に、しかもカミを巻き込まないピンポイントで、そのような気象現象が発生するはずはない。ミコトが唱えた簡易詠唱魔法【極小風神手】の力だ。
「集中だよ!カミちゃん!」
空高く巻き上げられた女性アサシンの姿はもう見えない。
激しい錐揉み状態で吹き飛ばされた時点でかなりのダメージを負ったと思われるが、最終的には遙か上空から地表に向かって落下することになるだろう。
おそらく、あの女性アサシンは【死】を免れまい。
カミは、自らの無事についてはミコトに感謝しながらも、女性アサシンの【死】に対しては何とも言えない感情に苛まれる。が、この状況ではそんな偽善的な感傷に浸っている場合ではない。と、カミは気持ちを切り替え、明るく礼を言う。
「ありがと!ミコト」
TOP19に選ばれたわけではないミコトは、カミほどにはこのデスシムというゲーム内での【死】に重さを感じていない。
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もしもカミが、このゲームでの【生】を諦めて現実への帰還を決意するのなら、ミコトはいつだって、自らの喉を掻き切り、カミとともにこのゲームからサインアウトすることだろう。
もちろん、ミコトだって痛いのは嫌だが、どうせこの世界はゲームなのである。
【死】が唯一のサインアウト方法だというのは極めて悪趣味だと思うが、ここでの【死】がすなわち現実の自分の【死】につながるわけではないのだ。
むしろ、今、現実世界では自分の体が、オムツに水着に近い出で立ちで無防備にメディカル・プールの浴槽に浮かんでいることを思えば、逆に、できるだけ早く帰って着替えたいという気持ちの方が強い。正直なところ。
ミコトがそれでも今、カミを見捨てずに必死に走り回っているのは、リアルでのミコトの父親がカミの家の使用人であるから……というシガラミと、同じぐらいの割合でリアルでも親友であるカミが放っておけないからである。しっかりしているようで、どこか抜けているカミには、自分のようなしっかり者がついていなければならないのだ。……と、ミコトは無意識に思いこんでいる。
とにかく、そんな価値観だから、カミと違って他のプレイヤーの【死】にまで気を使う必要性をミコトは感じていない。
あの女性アサシンだって、ミコトと同じ価値観だからこそ、同じプレイヤー同士であるはずのカミに襲いかかったハズだ。
今の【極小風神手】に吹き飛ばされた結果として【死】に至ろうとも、文句を言われるいわれはないし、言われたとしてもミコトにそれを聞いてやる義務もないのだ。
とにもかくにも、カミがある程度までの反撃の必要性を覚悟したことと、ミコトのこのような価値観による容赦ない攻撃が、二人の生存確率を大幅に引き上げた。
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いったい誰が「TOP19狩り」などという悪趣味なイベントを企図したのかは知らないが、その企画者の当初の煽動の効果は、ここにきて失われ始めている。
初めのうちこそ、脅えて逃げ回る獲物を一方的に狩る……というイメージで勢いに任せて襲いかかってきた勇者様たち。だが、その獲物はおとなしく黙って狩られるような小動物などでは決してない。下手に手を出せば噛まれるし、最悪の場合、その牙は手どころか首元を掻き食らうのだ……ということを、今、彼らは思い知らされている。
一人ずつ飛びかかったのでは埒があかないと思ったのだろう。4~5人が互いに目配せをしたかと思うと、絶妙な時間差をつけて上下左右から一斉にカミへと飛びかかってきた。先ほどまでの単独で襲いかかってきた者たちと違い、明らかに特別な訓練を受けたと思われる高い連携のとれた動きだ。
一人目の赤い忍び装束に身を包んだ女性PCは、体格に似合わぬ大きな刃を持つ刀を上段から勢いよく振り下ろしてくる。
筋力がある……というわけではなく、瞬発力で後背から頭上へと跳ね上げた刀を、その重量のある刃が持つモーメントを利用した滑らかな円運動で振り回す感じだ。
振り上げた刀に釣り上げられるように、女性忍者PCも宙を跳ぶ。
それをも利用して刀身に全体中をのせるように襲いかかってくる。
しかし、今度はカミも先ほどのように油断をしてはいなかった。
女性忍者を上回る速度で反応。打突杖を両手でしっかりと持ち、モーメントの大きな刃先ではなく、刃の付け根の部分を瞬間的に突き抜く。
斬られれば間違いなく一撃死を予感させる女性忍者の刀を、わずかに軌道をそらせて回避。刃の唸る風音を右肩に聞きながら、2人目に意識を切り替えるカミ。
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女性忍者の重い一撃を逸らすため、打突杖を上に突き上げたため、カミの両腕は右上方へと挙げられたまま。完全に脇が空き、中段や下段に隙が生じてしまっている。
2人目は当然、その隙ができることを読んで、大きく開いた左のわき腹へと水平に両手剣を薙ぎ入れてくる。これまた、女性PCだ。耳の形から察するにエルフ族。武装の特徴から両手剣士か。
1人目の女忍者によって意図的に生み出された隙を突かれた状況にもかかわらず、カミは一瞬で2人目の女性エルフ剣士について、冷静に視線を送る。
打突杖を振り下ろすのでは、もう間に合わない。
瞬間的に打突杖の握りを緩め、杖が重力に引かれるのに任せる。
直線的な落下により、杖の握り側から下方へと逆向きに伸びる打突杖。
だが、重力加速度と雖も初速ゼロの状態からでは、思いのほかゆっくりとしか加速してくれない。命のやりとりの緊張で引き伸ばされたように感じる時間の中では、よけいにその加速は心細い。
吸い込まれるように迫り来る両手剣。
カミの柔らかそうな横腹との距離はもう僅か。だが、カミの瞳は揺らがない。
頼りなく思えた重力加速度も、一旦勢いを増せば、筋力で生み出す如何なる動きよりも疾い。両断されるカミの胴体を想像し、女性エルフの口の端が笑みの形に歪もうとする、その寸前で凍り付く。
一瞬前まで、両手剣と腹部との間には遮るものが何も無かったはずが、凄まじい速度に達して輪郭も定まらぬブレた姿の何かが突如現れた。
とはいえ、カミの表情にもまだ安堵の緩みはない。
そのまま加速に任せれば、両手剣が腹部へと到達する前に、杖はその隙間をすり抜けて、ただ落下するだけだ。
・・・
絶妙としか言えない位置で加速を終え、その輪郭を明らかにする打突杖。
緩めた握りを、的確なタイミングで再び固め、杖ごと両手剣を押し込まれぬように全身に力を巡らすカミ。
「ハァッ!」
瞬間的に息を吐き、気を込める。
キャィン……とでも表現したくなるような甲高い音とともに、女エルフ剣士の両手剣が左へと弾かれる。
奇跡的に近いほどの危ういタイミングで2人目の攻撃を防いだカミ。
だが、ほぼ同時に3人目が右に。
しかし、カミは右からの3人目には視線も向けず、両手剣を弾かれて体を崩した女エルフの方に体を捻って蹴りを叩き込む。
3人目に背を向ける形になったが、それで問題は無かった。
何故なら、勢い良く飛び込んできた3人目には、先ほど上段からの重い一撃をわずかに右へと逸らされた女忍者が、剣を振り抜いた時の回転モーメントを殺せずに背中から体当たりを食らわせてくれたのだから。
もちろん、カミはそれを狙って女忍者を右へといなしたのだ。絶妙にタイミングをずらした彼女たちの攻撃は、それ故に、1人目の攻撃動作のその直後には、その後の襲撃者たちの動作も開始しており、従ってカミには3人目の動きも予測が可能だった。
つまりは、刹那の間の3人の連携。それを、カミは冷静に回避した。
・・・
が、ちょっと待て。
一斉に飛びかかったのは、確か4~5人ではなかったか?
少なくとも、あと一人は同時に飛びかかってきたハズだが。それは……
「ぐぇっ」
カミの死角を狙って飛び込んだ4人目。
背後から、カミの両膝辺りを抱き込むように両手釜を刈り込んだ、これまた女忍者は、今、その背中をカミに踏みつけられて悶絶していた。
2人目の女性エルフを蹴り飛ばした足の反動を、そのまま下方向へ踏み抜く力へ変えての強力な一撃。腰椎付近を砕き折るかのごときその踏みつけに、女忍者2は悲鳴の代わりに血泡を吐いて気絶する。
やはり、TOP19の最下位だと言って甘く見てはいけなかったのだ。
あの霊峰のダンジョン内で無限にポップしてきた「守衛スケルトン」の攻撃密度に比べたら、4~5人程度がどれだけ絶妙な時間差で攻撃を仕掛けようと、そんなものは稚戯に等しい。
刹那の攻防におけるカミの動態視力と反射速度は、それだけならTOP19でも上位にランキングされるべき「達人の域」に達しているのだから。
この一瞬の攻防でカミの足下には、女忍者が2人と武闘衣を纏った筋肉質なPCがうつ伏せに重なって倒れており、また左手側の少し離れた位置には女性エルフが仰向けに転がっていた。
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踏み倒した女忍者2は確実に戦闘不能だが、女忍者1と武闘衣のマッチョがどの程度のダメージを負ったのかは不明だ。直接、打撃を打ち込んだ訳ではないのだから。
カミは、万が一を警戒して、足先で女忍者1と武闘衣のマッチョを蹴るようにして仰向けにした。
女忍者1は、確実に白目を向いて失神している。
だが、マッチョの方はやはり狸寝入りだった。肉の鎧が、女忍者1との激突からくるダメージを最小限にとどめたらしい。ひっくり返された瞬間、悪戯を見つかった子どものような表情をしたが、すぐに攻撃の手を伸ばそうと……
したところで、首もとに打突杖を突きおろされて声も出せずに悶絶する。
くどいようだが、カミの反射神経をバカにしてはならなかったのだ。
改めてよく見れば、気絶した武闘服マッチョも女性PCだ。
そういえば、最初のうちは男性PCの襲撃を受ける方が多かったような気がするが、いつの間にか、だんだんと女性PCの比率が高くなってきていた。
その理由はカミの知るところではないが、男性PCが大勢で追いながらなかなか退治できないのを、無意識に女性であるカミとミコトへ手心を加えている結果ではないか?と疑い、憤慨したギルドの女性構成員たちが、ならば自分たちが容赦なく追い立てて退治してやろう……と、全面に立ち始めたというのが真相のようだ。
女性に対しては、女性の方が容赦がない。
……のは、カミの側から見ても同じだ。
今倒された4人の女性たちは、それを身を持って知ることとなったのだが、しかし、意識をも刈り取られ、実際にはそんな教訓など学ぶ暇もなく戦力外へと脱落した。
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ところで、あなたは4人の人間を「4~5人」と表現することがあるだろうか?
確かに、今の時間差攻撃の起点において、カミはその相手の人数を指折り数える暇などなかった。だが、4人程度であれば、数えなくとも直感であっても正確な人数など把握可能なハズだ。
逆に、直感的に「4~5人」という表現が脳裏を焼いたのだとしたら……それは、4人では無かった可能性の方が高いのではないか?
いや。あの時点で、カミとミコトに追走していた「勇者さま」たちの数は、実際4~5人どころか、10人近くいた。さっきから論じている「4~5人」というのは、あくまでも時間差攻撃をしようとアイコンタクトをとったPCの人数だ。
だから、今も、攻撃のタイミングをはかって、じりじりと迫ってくる「勇者さま」の数は6人。今度は数えたから間違いない。
アイコンタクトをしていたハズの5人目の存在が気にかかるものの、しかし、今の攻防のために走りが止まってしまったカミを取り囲む6人の「勇者さま」からの圧力に、それを気にしてばかりもいられない。
事実として、4連攻撃が失敗に終わった後に、間抜けな5撃目を繰り出してくるような敵は、現れなかった。真実はどうあれ、気のせいだったと割り切って次の戦闘に頭を切り替える方が良い。カミは、そう考えてミコトの方へと視線を向ける。
そのミコトはと言えば、どこを見やるとでもなく、強いて言えば自分の内面を見つめるかの如き目をして佇んでいた。カミの見つめる先は、額の裏側辺りに呼び出したシステムコンソールだ。MPの残量や、その他のステータス値の状態を確認して、今後の戦い方を検討しているのだろう。
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今の「勇者さま」たちレディースが、カミではなくミコトに襲いかかっていれば、足下に転がっていたのはミコトだったのではないか?……と、そう思うかもしれない。
が、この場所まで走ってくるまでに、思うだけでなく実際にそうした「勇者さま」たち何人もが、足下に転がるどころか、もっと無惨な結末を迎えることになった。
先ほどの女性アサシンが、その一例であることは言うまでもない。
絶対に死ねない。……その理由が、自分の中にはなく、GOTSSであるカミを守るためであるためであるという主体性の欠如から、TOP19にこそランキングされてはいないが、実はミコトは魔法師としてはとてつもない高レベルにあるのだ。
考えてみると良い。反応速度や攻撃力が優れているからといって、あの無限にポップしてくる「守衛スケルトン」の坩堝の中、それだけでカミが【死】を免れることなどできるわけがない。今、ここに、こうしてカミが生き延びているという事実こそが、ミコトの防御魔法の展開速度の速さと展開密度の高さの両方を証明している。
そして、そうした高度な魔法を、MPが尽きる寸前まで、何度も何度も存分に行使すれば、魔法に関する各種の経験値及びステータス値が、低いままであるわけがない。
魔法のバリエーションこそ、あのアスタロトと領土争奪戦で激闘を繰り広げた女魔導師マボやTOP19第5位のユノに劣るものの、その魔法経験値や純粋な魔力の大きさでは決してひけをとるものではないだろう。
そんな高レベルの魔法師が、カミ以外の他人の【死】に対して、一切の忌避感を持っていないのだから、これほど恐ろしい者はいない。
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本当であれば、先ほどの4人の時間差攻撃がカミへ行われると同時に、ミコトの援護魔法を抑えるために別の数人が襲いかかるのが定石であるのだが、無意識の恐怖からそれを担当すべき何人かはタイミングを逸して何もできないでいた。
もっとも、4人の時間差攻撃自体、カミへ毛ほどの傷も負わせられず、ミコトの援護など全く不要なものであったから、別のグループがミコトへの同時襲撃を行えなかったことに何の損失もなく、むしろ無駄な犠牲を出さずに抑えた好判断だったと彼らを評価すべきかもしれない。
だが、そのミコトの表情が突然、余裕の無いものへと変わった。
カミも、すぐに自分の失態を悟る。
【リカバリユアオールステイタス!】
次の瞬間のミコトの行動は、一見、理解不能なものだった。
今のところ、HPに大きなダメージを負っていないグリーン・ステータスの状態であるカミに向かって、展開速度重視の万能回復魔法【リカバリユアオールステイタス】を唱えたのだ。
しかし、それが正解だった。
【リカバリユアオールステイタス】の詠唱が完了する前に、カミに複数の遠隔攻撃魔法が降り注ぐ。
雷撃系、光撃系、火炎系……相互に効果を打ち消しあうことの無い系統の魔法だけを選んだ明らかに組織的な連携魔法。
・・・
カミの身につける防具は、アスタロトから譲り受けた潤沢な資金で調達した、軽量だが高い防御力を誇る逸品だ。魔法防御力もしっかりと付与されている。
だからといって、このようにダメージを重ねさせる複数種類の魔法攻撃を、全て無効化することは、デスシム世界に存在するどんな高価な防具にも不可能というものだ。
基本的に防具に付された魔法防御の仕組みは、加えられた攻撃魔法の種類に応じて、自動的にその効果を打ち消す逆作用の攻撃魔法を等量放射するというカウンター・マジック的なものだ。その加えられた攻撃魔法が1系統なら……いや2系統ぐらいまでなら複合魔法でも対応できるかもしれないが……最上級の高価な防具であれば防ぐことができただろう。だが、3系統、4系統を同時に受ければ、その仕組みも破綻する。
そうならないように、魔法師たちの狙いを定め難くするため、カミとミコトは走り回っていたのだ。
しかし、先ほどの4人の時間差攻撃を凌ぎきったカミは、最後の一人を踏みつけて倒すという鮮やかな勝利が仇となり、その場に足を止めてしまった。
それは、大勢の襲撃者たちに追われるという今の状況にあって致命的なミスだ。
豪雨のように降り注ぐ何種類もの遠隔攻撃魔法を一身に浴びて、カミのHPは見る見る間にオレンジからイエロー、そしてレッドの領域へとその数値を減らしていく。
ギルド側の遠隔魔法師たちは、自分たちの攻撃の成功を疑わなかっただろう。
次の瞬間に、ほとんどダメージを感じさせず平然と立つカミの姿を見るまでは。
距離を置いて隠れた位置から遠隔攻撃魔法を飛ばす彼らの表情は見えないが、おそらく驚愕か、若しくは疑問の色で固まっているだろう。
間違いなくレッドゾーンへと突入するまでHPを減らしたハズの相手が、膝を屈することもなく立っていられることなどあり得ない。信じられないことだ。
・・・
だから、何度も言うが、あのタイミング的には一歩遅かった【リカバリユアオールステイタス】の詠唱は、あれで正解だったのだ。
ミコトは、体を動かす反応速度においてはカミに遠く及ばないが、思考の速度においてはカミどころか他のどのPCをも遙かに凌駕する。頭脳労働派だ。
自らのMPの残量が、強力な防御魔法の展開にはやや心許なくなってきたことを確認していた彼女は、大規模な防御魔法よりは消費MPが少なく、かつ、展開速度が他のどの回復魔法よりも速い【リカバリユアオールステイタス】を、攻撃直後に発動するよう、わざとタイミングを遅らせて詠唱したのである。
結果的に正解だったとはいえ、ある意味では無謀な賭であった。
あの多重の遠隔攻撃魔法は、一瞬ではあるが確実に効果を上げカミのHPをレッドゾーンにまで叩き落としたのだから。
ひょっとすると、【リカバリユアオールステイタス】の効果が発動するよりも前に、カミのHPはゼロに……つまりは【死】の状態にまで削られていたかもしれないのだ。
若しくは、【リカバリユアオールステイタス】の回復効果をも上回る大ダメージであれば、発動が間に合ったとしてもHPの減少速度を多少緩めるだけで、最終的にはカミのHPは全損していたかもしれないのだ。
しかし、結果としてミコトは賭に勝ち、こうしてカミはかすり傷程度の状態で今も立っている。ドライすぎるほどのミコトの中では、もしも……などという無意味で後ろ向きな思考が働く余地はない。
・・・
どうせ、あの一瞬に対応できるほどの高速起動型の魔法は限られていた。そして、そのうちの防御魔法を選んでいたら、今、ミコトのMPはほぼゼロにまでその値を減らしてしまっていただろう。
そうなれば、もう一度、同じ遠隔攻撃魔法の重ね掛けをされた時点で、ジ・エンド。カミも自分も生きてはいないのだ。
……という判断というか取捨選択を、既にあの一瞬で終えているミコトに、「今のは危ない賭だった…」などと、胸をなで下ろすような反省などあり得ない。
とにかく、結果は正解だった。
それも、追走するギルドに連続した遠隔魔法攻撃を躊躇させるという効果付きだ。
デスシムの仕様上、相手の真の名を知った上でその「Face Blog ER」の個人ステータス確認ページでも参照しない限り、戦闘中に相手のHPの残量確認はできない。
だから、遠く隠れるような位置から長距離遠隔攻撃を投げてよこすような臆病な彼らには、今の一瞬に何が起こったのか全く理解できていなかった。彼らは魔法技能こそ、そこそこの腕前ではあったが、その思考速度も想像力もミコトに遠く及ばない。
彼らは、必殺の威力を込めたハズの自分たちの攻撃がほとんどカミにダメージを与えられなかったという結果だけを、驚愕とともに受け取ることとなったのだ。
そんな状態で、すかさず連続攻撃など放てるわけがない。
クドいようだが、だから、ミコトの選択は次の意味でも大正解だった。
先ほどから攻撃のタイミングを測るように肉薄していた6人にも驚愕という名の金縛り効果を与え、その後ろから追走してきたより多くの「勇者さま」たちの足をも一瞬止めるという期待以上の成果まで生み出したのだから。
・・・
相手が動きを止めたこのタイミングを逃すほど、カミもミコトも愚かではない。
「勇者さま」たちは気づいていないが、今、カミとミコトの二人にとって最も嫌なことは、足を止められて今のような連続時間差攻撃を間断なく繰り返されたり、複数系統を多重に重ねた遠隔攻撃魔法に狙い打ちされることだ。
だから走った。
再び、走った。全速力で、走った。
攻撃は最大の防御……という古からの格言は、今の二人にとって何のありがたみもない。二人対人数不明なほどの多勢という状況にあっては、攻撃は最大の自殺行為にしかならないのだ。
それよりもむしろ、三十六計逃げるが勝ち!……を無言の合い言葉に二人はひたすら逃走する。正確には「逃げるが勝ち」ではなく「逃げるに如かず」なのだが、23世紀に生きる彼女たち二人にとっては、そんな古の格言の正確性などに興味はない。
彼女たちがその場から逃げ去っても、しばらくの間「勇者さま」たちはその場から動けなかった。そのあまりの逃げっぷりの良さに唖然としてしまったのだ。
今の必殺の一撃を、ほぼ無傷で受けきってみせた無敵なカミが、反撃ではなく逃走するという行動に出るなどということは、彼らには想像も出来なかった。多くの人は自分の理解できない出来事に直面すると、思考停止に陥ってしまうものだ。
結局、彼らが我に返ったのは、カミとミコトの姿が遙か先の街路へ曲がり見えなくなってからだった。慌てて追走を再開するものの、全く追いつく見込みはない。
一人を除いては。
・・・
その一人とは、カミへの4連時間差攻撃の始動時に目配せの起点となった一人……5人目の男性PCだった。
彼の役目は、時間差攻撃に加わることではなく、それを指揮することだった。
指揮役の彼の仕事は、時間差攻撃のタイミングを指示することだけではなく、それによってカミの足が止まることを見越して、その座標が固定された一瞬を逃すことなく多重遠隔魔法攻撃を仕掛けさせる指揮者の役割も負っていたのだ。
だから彼は、目配せした人数として、カミの「4~5人」という印象の中にカウントされはしたものの、実際の時間差攻撃に加わることはなかった。
そして、そのように全体の流れを広い視野、客観的な視点でコーディネイトしていた彼だからこそ、遠隔魔法攻撃が失敗し、カミとミコトが逃走を再開したという事実にもタイムロスなしで反応しえたのだ。
足音をたてない地表スレスレの飛翔魔法を巧みに操り、二人に追走を気づかせることなく物陰から物陰へと滑るように移動し追跡をする男性PC。
二人との間に身を隠すための遮蔽物が存在しない所では、一瞬、まるで忽然と姿を消し、また忽然と姿を現すかのような動きも見せる。おそらくは近距離転移魔法を神業に近いレベルで巧みに繰り返しているのだろう。そんなことが可能なPCは、TOP19の中にも果たして何人いることか。男性PCの追走は、それほどの高度なものだった。
「ふむ。最下位だと侮ったつもりはなかったのですが、力量を見誤っていたようですね。先ほどの連撃を防いだ彼女の動きもさることながら……あのGOTSSの彼女。むしろ彼女の方が曲者だ。この逃走パターンも、追走者を惑わすような見事なコース取りで、巧みに死角を利用した方向転換をランダムに行っている……」
・・・
凄まじい速度で移動しているにも関わらず、評論家の様なのんびりした口調で独り語る男性PC。
流石に、メンバーたちとの距離が開きすぎたと思ったのか、それともこれ以上の追走は無駄と判断したのか、ふいに立ち止まる。
動きが速すぎてブレていた輪郭が露わになった彼の姿は、追走者としては少し意外な出で立ち……それはまるでシステム側のPCたちのような黒いスーツ姿だった。
・・・
次回、「(14) 独り」(仮題)へ続く。




