第七話
さて、ギルドで依頼を受けて森へと来た俺だが・・・。
「オーク大量発生のはずだが、何故一匹も遭遇しない?」
森に入っておよそ1時間位か・・・。
何故かオークどころか他の敵にすら遭遇していない。
「森を間違えたか・・・・?」
いや、そんな筈はない。
街から出る時、門兵に場所は確認したし・・・。
なら、何故・・・?
疑問に思ってても仕方が無いので、俺は更に森の奥へと向かった。
(・・・なんだ?やけに空気がピリピリしてるな)
森の奥へ奥へと進むにつれ、周囲の空気が張り詰めていくのが分かる。
「・・・?」
前方の茂みがガサガサと音を立てる。
俺は咄嗟に体内の魔力を全身へと巡らせ、身体強化を施した。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
茂みから飛び出したのは・・・人。
男女のペアなのだろう。かなり慌てていたのか俺の脇をすり抜けて走り去っていく。
「な・・・なんだ?」
走り去っていった二人の後ろ姿を呆然と見ながら呟いた。が、次の瞬間、二人が飛び出してきた茂みからオークが飛び出して来た。
「なんだ、ちゃんと居るじゃ・・・・」
飛び出して来たオークは1体。
俺はニヤリと笑い、戦闘態勢へと構えたが・・・・絶句した。
飛び出して来たオークの後ろには数えるのも億劫になる程のオークの姿があった。
「いやいやいや・・・大量発生にも限度が・・・」
冷や汗を浮かべながら、俺は一歩二歩と後ずさり・・・。
「あるだろぉがぁぁぁぁっ!!」
回れ右をして、一目散に逃げた。
オーク・・・。現代社会のサブカル的な物に触れた人は何となく解ると思うが、頭が豚で、身体は人の魔物。
雑食で好戦的な種族で、そこまで知能は高くなく、ほぼ本能で生きている様な奴だ。
繁殖力は非常に高く、時には人間の女性を襲う事もある・・・ってのが俺の認識だったのだが・・・。
いや、確かに俺もサブカル的な物は好きだったよ?
小説とかゲームとか・・・。
でもよぉ・・・・。
「この数は異常じゃねぇのかぁっ!?」
こっちの世界の常識なんて知らないが、明らかに数が異常だと思う。
チラリと後ろを見ると、手に槍やら剣やらを握り締めたオークがフゴフゴと鳴きながら木々を縫って追ってくる。
(どうする?コイツら倒すにしても、間違いなく討ち漏らしが出てくる)
そんな事を考えていると、前方に先程の男女が走っているのが見えた。
「おいっ!!」
「「!?」」
俺が声を掛けると、驚いた表情で振り向く二人。
振り向きながらも足を止めないのは生存本能の成せる技か・・・。
「現状把握がしたい!!」
「俺達は冒険者ギルドに所属しているロイとナナだ!!ギルドで依頼を受けてオーク討伐に来たんだけどっ!!」
「まさか、あんなに数が居るなんて!思ってもなかったのよっ!!!」
併走しながら話を聞くと、どうやら二人は冒険者だった。
「二人で来たのかっ!?」
「他にも三人居たんだがっ!!ハッハッ・・・アイツらに殺られた!!」
ロイとナナは悔しそうな顔でそう吐き捨てる。
この足場の不安定な森の中を全力で走ってるんだ。さすがに息があがってきているみたいだ。
そんな事をしている間に、俺達とオーク共の距離が少しずつ縮まってきていた。
(このままじゃ、この二人がヤバイな)
俺は逃げ切れる自信はある。あるが、この二人は無理だろう。
この時点で息もあがり、体力の限界・・・。
助ける義理もないが、言葉を交わした以上、切り捨てるという選択肢は無い。
「なら・・・・雫!!!」
「此処に」
走りながらも雫を呼ぶと、フ・・・と姿を顕す雫。
「やるぞ。討ち漏らすな!!」
「御意!!」
ズザザ・・・と足を止め、雫と並んで構える。
「え?いつの間に・・・」とか「無茶だ・・・」とか聞こえてきたが、無視する。
「主様、術は?」
「なるべく使うな。場所が場所だけに火災になると面倒だ」
「では・・・」
雫が何もない虚空を掴むと、ひと振りの薙刀が握られる。
ヒュンヒュンと空気を切る音を立てて薙刀を取り回した雫は、ピタリと腰の高さに構える。
「知性を持たぬ獣風情が・・・我が主に牙を向けるとは・・・・切り刻んでくれる」
ニヤリと笑った雫は、それはそれは黒い笑みでした。
「んじゃ俺も・・・」
魔力の密度を徐々に上げていく。
次第に俺の周囲に赤い魔力が立ち昇る。だが、それは更に色を濃くしていき・・・やがて黒へと変わっていく。
「黒雷・・・」
そう呟くと、俺の身体は黒い雷を迸らせ始める。
「さぁ・・・始めようか!!」