第五話
いやぁ・・・。
「おい、聞いてんのか!?」
異世界に飛ばされて・・・。
「シカトしてんじゃねーぞ、コラァ!!」
しかもソレが事故で・・・。
「さっさとソイツをコッチに渡せやっ!!」
何だか良く分からないが、厄介事に巻き込まれて・・・。
「オイッ!!」
神様が居るなら、俺は言いたい・・・。
「俺が何をした・・・・」
・・・・・と。
女の子を渡せと言ってきた男達と、未だに震えて座り込んでいる女の子との間に、俺は割って入る。
「何だ?アンタら」
さっきからギャーギャーと喚き散らしやがって。
「テメェにゃ関係ねぇだろうが」
「引っ込んでろ、ガキ!」
一人の男が俺の胸倉を掴む。
「まぁ、関係ないっちゃ関係ないが・・・」
チラリと後ろを見ると、明らかに男達に怯える女の子。
今は傍に雫が居る。
「あの娘の様子からして、アンタらに渡すのはマズい気がするんだよ」
「クッ!どうやらイテェ目にあわなきゃ分かんねぇみたいだ・・・なぁ!!」
次の瞬間、頬に衝撃が走り、俺は横に吹っ飛ばされた。
「主様っ!!」
「ってぇなぁ・・・」
雫が動こうとするが、俺はそれを手で制する。
流石に隅とはいえ、大通りでこんな騒ぎを起こせば野次馬も集まる。
「ヒヒッ。これ以上、痛い目見たくなけりゃ、さっさと渡せ!」
俺を殴った男の肩越しに、もう一人の男がニヤニヤと笑う。
その男の顔を睨み付けていると、耳元で風を切る音が聞こえた。
「!?」
振り返ると地面にはナイフが刺さっていた。
「フードを被って顔を見せねぇなんざ、気に食わねぇな・・・」
最後の一人が手の中でナイフを弄んでいた。
投げたのはコイツか・・・。
「・・・ん?」
頬に熱い刺激が走ったので触ってみると、手にぬるっとした感触。
頬が少し切れて血が流れていた。
そんな俺の姿を見て男達は更に笑い声を大きくしていた。
「ガキは大人しく言う事聞いてりゃ良いんだ!」
「生意気なガキだなぁ!!」
「クハハハハッ!!」
未だに座り込んでる俺を見て、どうやらビビって立ち上がれないと思ってるみたいだ。
俺達が揉めてるのが隅とはいえ道の傍ら。さすがに野次馬が集まって来た。
「ったく、あまり目立ちたくはないんだがなぁ・・・ん?」
頭を掻きながら立ち上がり視線を上げると、そこには眉間に皺を寄せて怒りを顕にした雫が居た。
「うっは、やべぇ」
何も無い空間から薙刀を取り出して握り締める雫。
「よくも・・・よくも・・・」
「おい、雫!」
「よくも主様を・・・」
ありゃ、俺の声なんて聞こえてないな・・・。
「怪我をさせ、あまつさえ血を流させるなど・・・万死に値するっ!!」
雫の身体から結構な量の魔力が溢れ出す。三人の男達は完全に気圧されて尻餅を付いて、這う様に後ずさっていた。
「雫」
「主様、止めないでください!!」
「いや、止めるだろ。今のお前が暴れりゃ厄介な事になる・・・」
今の雫が暴れたら、恐らく街の一部は更地と化すだろう。
「なぁ、オッサン達。もう良いだろ?この娘の事は諦めてくれねぇか?」
「あ・・・う・・・」
しゃがんで目線を合わせて男達に言うと、三人ともコクコクと首を縦に振った。
「ほら、雫も落ち着け。問題は解決したんだから、さっさと行くぞ」
「ですが、主様!!」
「くどいっ!!」
怒鳴ると雫はビクッと一瞬だけ身体を震わせ、ハイ・・・と渋々頷いてくれた。
「行くぞ」
「あの・・・主様・・・この娘は?」
「ん?」
雫の足元に座り込んでいる女の子を見て、ため息を吐きながら・・・。
「ハァ・・・。連れて来い」
そう言うと雫は女の子を立たせて、俺の傍らに来る。
そして俺達は野次馬を掻き分けて宿屋へと向かった。
「早く宿に着きたい・・・」
俺の心からの呟きだった・・・。
火車丸でございます。
なかなか宿に着かない主人公達。こんなに長くするつもりは無かったのに・・・。
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