第四話
さて、初仕事といきますか・・・。
掲示板の前まで来た俺は、ざっと張り出された依頼書を見てみる。
登録したての俺が受けれる依頼なんて、たかが知れてるんだろうけど・・・。
「ん 、やっぱり簡単な依頼しかないなぁ・・・」
Dランクの俺が受けれる依頼は・・・採取、雑用・・・お、討伐もある。
が、俺はあえて・・・。
「これにしよう」
一枚の依頼書を掲示板から剥ぎ取り、受付へと持っていく。
「この依頼を受けたいんだけど・・・」
俺が持って行った依頼書を受付嬢へと渡す。
「はい、え〜と・・・マリオン商会の荷物搬入の手伝いですね?」
「あぁ」
俺が選んだのは雑用依頼。
危険を侵さずに収入を得る事が出来るなら、それに越した事はない。
「少々、お待ちください・・・はい、受理されました。では、こちらの書類を依頼主へお渡しください。依頼が達成されれば依頼主から書類にサインを頂けますので、また此方に提出して下さい。それで依頼完了となります」
「分かった」
俺は書類を受け取って、ギルドを後にした。
「雫」
「はい」
マリオン商会に向かう道中、俺の傍らには雫が歩いていた。
いや、別に良いんだけど・・・目立ってないか?
俺はフードを被ってるから良いけど、雫はそのままの姿だから注目を浴びている。
どうやら、この世界では黒髪は珍しいらしく、俺も黒髪・黒目の人は今の所見ていない。
「何故、顕現しているんだ?」
顕現・・・そう。雫は人間ではない。
とある事件をきっかけに、俺を主とする存在。実際は・・・まぁ、これは追々説明しよう。
とにかく、人間とは異なる存在だ。
「先程の様に、主様の身に何があるか分かりませんので・・・」
「だからって・・・」
雫と会話しながら歩いてると、目的地であるマリオン商会に到着した。
「すいませ ん」
「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」
店内に入り、声を掛けると奥から一人の店員が姿を現した。
「ギルドから依頼を受けて来たんですけど・・・」
そう言ってギルドで預かった書類を渡す。
「おぉ。ご苦労様です。では、こちらに・・・」
書類を確認した店員は俺達を奥へと促す。
店員の後を追い、俺と雫は奥へと入って行った。
「今回の依頼を受けて頂き、有難うございます」
俺達が通された一室には、一人の男がソファに座っていた。
マリオン商会のトップらしい。
俺は促されるまま対面のソファに腰掛けた。
「依頼を受けてもらってありがとう」
「いえ・・・」
「正直、荷物の搬入なんて冒険者が受けてくれるとは思わなかったんだよ」
なら、何で依頼を出したんだよ・・・。
「こういった雑用依頼は新人の・・・戦闘の苦手な冒険者が受ける内容だ。今回も・・・」
「登録したてですよ」
「・・・そのフードを外してもらえないかね?」
「無礼なのは承知してます。ですが、ご勘弁を」
「ふむ・・・まぁ、こちらとしては仕事をしてもらえれば問題はない。では、現場に行こうか・・・」
そう言って立ち上がるマリオン氏の後に続き、俺は現場に向かった。
「ところで彼女は?」
マリオン氏は雫をちらりと見て聞いてきた。
「付き添いみたいなモンです。お気になさらずに・・・」
「保護者付きの冒険者とは・・・」
ため息混じりに呟くマリオン氏。
保護者じゃないんだけどなぁ・・・。
「さて、ここにある荷物を全て倉庫に運んで欲しい」
マリオン氏に連れて来られたのは商会の裏にある倉庫。
その倉庫の前に積み重ねられた木箱は、結構な数だった。
「これ全部・・・ですか?」
「これ全部だ」
昼までに終わらせてくれ・・・と言い残して、マリオン氏は店の方に戻っていった。
「ハァ・・・」
「主様。宜しければ私が・・・」
「いや、この位は自分で出来る」
そう言って木箱に近付き、一箱を抱えてみる。が・・・。
「む・・・意外に重いな」
持ち上がらない事はないが、これをこの数運ぶとなると時間が掛かるな。
「んじゃ・・・ふっ!」
体内にある魔力を身体の隅々まで巡らせる。
所謂、身体強化だ。
元の世界では、こんな魔力の使い方はしない。
魔力を使って身体強化をするよりも、炎を出したり風を使ったりした方が圧倒的に効率が良いからだ。
多少は身体強化を使うが、局所的に・・・足を強化して移動速度を上げたりはするが・・・。
「じゃ、さっさと終わらせますか」
俺は早速、作業に取り掛かった。
作業開始から約二時間ほどで依頼を終わらし、マリオン氏に依頼完了のサインを貰って俺はギルドへと向かう。
サインを貰う際、「もう終わったのか!?」と驚いていた。
「あとは、コレをギルドに出したら終わりだな」
時刻は太陽の位置からして、まだ昼前だと思う。
早く報酬を貰って宿を取りたいモンだ。
「はいよ、依頼完了だ」
「・・・はい、確かに。では、報酬の400ルピになります」
ギルドの受付から報酬を受け取る。
渡された小袋の中には淡い緑色の硬貨が40枚入っていた。
何で出来てんだ?これ・・・。
「ちょっと聞きたいんだが、この金額で泊まれる宿はある?」
「それでしたら、表の道を右に真っ直ぐ行くと鉄火亭という宿屋がありますので、そちらなら一泊200ルピで泊まれますよ」
「そうか。ありがとう」
礼を言って宿に向かおうとする俺。
どうやら今夜はベッドで寝れそうだ。
「ようやく金が手に入ったな」
「はい」
「しっかし、不思議な世界だよな。大気中には魔素が満ちてるし、これなら魔術を使っても殆ど即時に回復出来るんじゃないか?」
この世界、元の世界よりも魔素が多い。いや、多過ぎるくらいだ。
元の世界では、魔術行使した後は魔力回復の為に大気中の魔素を体内に取り込む必要がある。まぁ、睡眠中に自然と呼吸と共に取り込むのだが。
だが、個人の魔力許容量にもよるが、かなりの時間が掛かる。
しかし、この世界では大気中の魔素が豊富な為、短時間で回復が出来るみたいだ。
「本当ですね。私も長い時間、顕現していても辛くはありません」
「だからって、目立つのはどうかと・・・」
「私は気になりません。主様の安全が第一ですから」
俺は気にするんだよ・・・。
「あのなぁ、雫。俺の事を心配してくれるのは嬉しいが、俺は目立つのが!?」
「きゃっ!」
雫と話しながら宿に向かって歩いていたら、路地から飛び出して来た人影とぶつかってしまった。
「っ!・・・わりぃ。大丈夫か?」
相手は尻餅を付いていたので、詫びを入れつつ手を差し伸べる。
「ヒッ!?」
何故か怯えられてしまった。
良く見るとぶつかって来た人影は女の子だった。
少しくすんだ茶色の髪に、幼さの残る顔立ち。そして、瞳に浮かぶ涙・・・。
いやいや、泣く程怖いか?俺・・・。
「主様が怖い顔をなさっておいでですから、怖がってるじゃありませんか」
「いや、俺のせいじゃ無いだろ・・・。それに、何シレッと毒吐いてやがる」
ん?良く見ると身なりは別に貧しそうじゃないな。
どちらかと言うと、冒険者の様な格好だし、それに・・・。
「おや、こちらの娘は・・・」
「獣人か?」
雫が気が付いた様に、この娘、頭に犬の様な耳が生えていた。
「!!」
咄嗟に耳を手で隠した女の子。
「いや、何でそんなに怯えるんだ?」
「それは主様が・・・」
「おい!」
未だに尻餅を付いた女の子を見下ろしながら雫と言い合ってたら、女の子が駆けてきた路地から現れた3人の男に声を掛けられた。
「ソイツをこっちに渡してもらおうか?」
男達を見て、明らかに身体を震えさせる女の子。
それに、頬には痣・・・。
ハァ・・・。
こいつぁ・・・・明らかに厄介事だ・・・・・。