坂見愛
大学を辞めると決めてから三日。
正直、光輝と別れようかと少しづつだけど考えていた。
光輝のことは好きだけど、私が介護で忙しくなったらきっと会う暇もないし、私には遠距離なんて無理だから……。
幸いお父さんが入院している一ヶ月はまだここにいられるからその間に決めなくちゃ。
大学の手続きとかもあるだろうし……。
そんなことを中庭のベンチでボーっと考えていると、不意に後ろから声がした。
「優奈、ちゃんだよね?」
「え?」
振り向くと髪をゆるくカールさせ、全体的にふわっとした印象の背の小さな子が立っていた。
……誰だろう?
「やっぱりそうだ! お隣いい?」
「あ、どうぞ」
少し横に座るとちょこんと座ってきた女の子。
近くで見るとかなり可愛いなぁ。
「あ、私ね、坂見 愛っていうの! 前からずっと優奈ちゃんの事気になってて、話しかけたかったんだ!」
「あ、そうなんだ」
若干人見知りのため、返事がそっけなくなっちゃうけど坂見さんはそんなことを気にする様子もなく、笑顔でしゃべり続ける。
「私ねー、前にノートの切れ端もらったときからずっと優奈ちゃんと話してみたいなって思ってたんだ! でも優奈ちゃんいつも堀谷くんといるから中々近づけなくて……」
堀谷?
……あ、光輝のことか!
「ノートの切れ端?」
「うん! あれ? 覚えてない? んー、二年生くらいのときかな? 私がノート忘れちゃって慌ててたときに優奈ちゃんがさりげなくページ破って私にくれたんだよ!」
んー……。
そんなことあったっけ?
「そうなんだ。覚えてないや」
「そっか。残念! でも今こうしてお話できてるからいいんだ! あ、そうだ! これから講義ある?」
「ないよ」
「じゃあさ、一緒に遊びに行こうよ! 私行きたいところあるんだよね!」
「え、でも光輝待ってなきゃ……」
正直今思い出したけど、光輝を待ってる最中だったんだ。
「あー……そっかぁ……」
さっきまでのテンションがどこへやら。本気で落ち込み始めちゃった坂見さん。
なんだか悪いことしちゃったみたいだな……。
「ちょっと待ってて!」
「え? うん!」
私はすぐにメールを作って光輝に送った。
よし。
これで大丈夫かな。
「いいよ! 行こう!」
「え! 本当に!? いいの?」
「うん。光輝には新しいお友達と遊びに行くって伝えておいたから!」
「やったー! じゃあ行こう!」
「うん!」
この子そんなに悪い子じゃなさそうだし、私もここでできるだけ思い出残したいしね。
電車を乗り継いだりして約一時間半。
なんだか……すごく嫌な予感がする……。
「ついた! ここだよ!」
嫌な予感は的中し、たどり着いた場所は例のテーマパーク。
「坂見さん、ここは……」
「愛でいいよ! さ、行こう!」
そう言って強引に私の手を引っ張って進む愛。
……入っちゃった。
「私ね、ジェットコースター乗りたいんだ!」
「あ、そうなんだ。行ってきていいよ。私待ってるから」
「ダメだよー。優奈ちゃんも一緒に行くの」
「え! ちょ、愛!」
またもや強引に引っ張られ、列に並ばせられた。
平日だからかこの前より大分空いてるなぁ。
というか!
「愛。私、ジェットコースター無理!」
「えー。もう並んじゃったから一回だけ!」
顔の前で手を合わせて必死に懇願する愛が可愛くて、つい許してしまった……。
まあ、そのあとはご存知だと思いますけど……死にました。ハハハ……。
それからもいろいろなところへ強引に連れて行かれ、今日はもう別れることに。
「今日はありがとう! また遊ぼうね! ばいばーい!」
「うん。ばいばい!」
はぁ……。
なんか疲れちゃったな。
帰ろう。
……帰り道。
なんだかんだいって楽しんでいたため、携帯を確認していなかった私がそれを後悔するのはほんの少し後のお話。