恐怖心
「おらぁ!」
「うっ……!」
……もう、あれからどのくらい経ったんだろう……?
たぶん数分かな?
でも私には何時間も経っているような感覚だった。
大好きな人のことが怖いってこんなに悲しいんだ。
もう相手の人は一人も動いていない。
私はただ呆然と見ているだけ。
「ふう。ごめんね、優奈。俺が優奈を一人にしたから……」
こっちへ歩み寄り、謝る光輝。
しかし全身は返り血や、自分の血で真っ赤に染まっていた。
「あ……うん。ごめん。今日はもう帰ろう?」
「え、なんで?」
なんでって……。
「だって、そんな格好じゃ遊べないし……」
光輝、ごめん。
私嘘ついてる。
本当は光輝が怖い。どうしていいか分からないんだ。
「え、でも……!」
「ううん。いいよ。とりあえず帰ろう?」
「……あぁ」
さすがに血で真っ赤になったまま帰れないので、ショップ内で適当にパーカーを買い、私達は無言でテーマパークを去った。
電車の中で光輝がたくさん話しかけてきたけど、全て上の空だった。
「ただいまー……」
「あ、おかえり。早くない?」
「まぁね……」
そのままベッドに倒れこむ。
なに、あれ。
私の知ってる光輝じゃなかった……。
「なに? どーした?」
「ん……」
お姉ちゃんが近くに来てコーヒーを差し出してくれた。
いつもは怖いけど、こういうときは優しいんだよね。
「なんでもない……」
でもやっぱり言えないや。
だって彼氏がデート中に私のためとはいえ、人を殴って血だらけになったなんて言えないよ。
ごめんね。
「そっか。んじゃあそんなくらい顔するな。こっちの気分が落ちるわ」
「んー……」
そう言って部屋を出て行くお姉ちゃん。
もう実家出て三年かぁ。
大学が遠かったから先に上京していたお姉ちゃんのところに住まわせてもらってるけど、今思えばそうしてよかったと思う。
こういうときに力になってくれるからね。
「ん?」
不意に携帯の着信が鳴った。
ディスプレイを見ると『光輝』の文字。
…………。
出たくないな。
「光輝、ごめんね」
なんか今日は謝ってばかりだな。
少し長めの着信がようやく切れ、またベッドに顔を埋める。
はぁ……。
何してるんだろうな。私。
しばらく訪れた静寂。
でもそれをかき消すように、また携帯の着信音が鳴った。
ん?
次はメール?
受信ボックスを見ると、また『光輝』の文字。
開くと、そこには謝罪の言葉が。
『優奈。今日はごめん。
俺、ついかっとなっちゃって……。
なぁ、今からでもやり直さないか?
もう服も着替えたし、まだ近くならデートできるしさ。
な?
……あと、電話無視しないで』
…………。
どうしよう?
会ったほうがいいのかな?
だけど今会ったらさっきの光景を思い出して、楽しめないと思うし、それは光輝に対しても失礼だ。
……見なかったことにしよう。
また連絡がきて落ち込むのは嫌だからもう寝るか。
精神的な疲れが大きかったからか、私はすぐに眠りに着いた。