第8話:アルトは、ガフリア国立エクシル魔法学園へと向かった。
――Side アルト――
…待ちに待ったこの時がやってきた。 そう、俺が学校の名を聞いてから1年程経ったのだ。
「さて、もう準備は出来たかい? アルト!」
「寮生活で大変だと思うけど! 頑張ってきてね!」
「うん。 もう何回も確かめたし。 大丈夫だと思うよ」
今日は生まれ育った家を発つ日。 ここまで15年。 長かった。 …0歳の頃から意識があるから、なお更だ。
俺が持つバッグの中には、2人に揃えてもらった衣類や、文房具、生活用品などが入っている。 多少の本と、そしてお金が少量。
まぁ、先ほど俺が言ったように何回も確認したし。 何かを忘れる必要は無いかな。
「それじゃ、行って来るね」
「いってらっしゃーい!」
「気をつけるんだよー!」
「ハニー!」「ダーリーン!」
もはや恒例となった夫婦の抱きつき付きの挨拶を背中に受け、俺はソツタを後にした。
俺が向かうのは、ガフリア王国首都、王都エクシリアの郊外にある巨大学園都市。 ガフリア国立、エクシル魔法学園である。
――――ガフリア国立エクシル魔法学園。
首都名の元にもなっている、かつてエンヴァー大陸を救った勇者、エクシルの名が付いた教育機関。
その名に恥じない高いレベルを持つ学園であり、それは大陸中でトップとも。
…そう、「トップ」なのだ。 元の世界で言う、ハーバード? 俺が初めてその名を聞いた時、戦々恐々としていたのはそのためだ。
勿論高いレベルのため、毎年多くの受験者がやってくる。
しかし、受験で出される問題も、他の学園とは桁違い。総受験者の6分の5が落とされるらしい。 難易度の高さが伺える。
…ここで、多くの読者様はちょっと疑問に思うだろう。 「え、お前は受験してそれに受かったのか?」と…。
…アンサー、NOだ。
いや、ちょっと違う。 俺は、今から受験に向かうのだ。 ズコーッと滑ってもらっても構わない。
実はエクシル魔法学園、受験者に対する態度が物凄い良いのだ。 知名度を保つためなのか、それは分からないが。
毎年受験になると、建築系の魔法を扱う者たちが総動員で、受験者の仮の寮を作ってくれるのだ。 本当の寮と、瓜二つぐらいに。
これは「自分が通うかもしれない学園なのだから、寮の雰囲気にも慣れていくべきだ」という学園長の計らいらしい。
ソツタの家から持っていった荷物が少なかったのも、もう受かったかのような雰囲気だったのも、このためである。 紛らわしい。
ガフリアを斜めに踏破し、エクシリアに着いたのはその日の正午ほどである。
…速すぎ? いや、俺の【チカラ】を使ったのだ。 おかげで、普通に歩くより疲れたが。
そのおかげで魔獣とエンカウントしなかったのだ。 このぐらいは我慢しなければ。 しかし、結構辛い。
試験日は、明日である。 俺は適当に宿を取り―――学園の仮の寮が使えるのは試験日からである―――旅(笑)の疲れをとることにした。
エクシル魔法学園の試験日は、エクシリアではちょっとしたお祭り騒ぎである。
なぜかというとヒュマン・エリア全土から受験者が来るのだ。 普段とは比べ物にならないぐらいの集客が見込めるということで、商人エリアはかなり賑わうらしい。
そして学園に行くにはエクシリアを横断し、専用の出入り口から行かなければいけない。
何が言いたいかというと。 試験日当日にエクシリアに行くと、大変なことになるのである。 主にもみくちゃ的な意味で。
それを避けるため、俺はその前日にエクシリアに入り、出入り口付近の宿を取る事にしたのだ。試験の直前に疲れるのは、是が非でも勘弁願いたい。
「…あ、アレがエクシルの出入り口か」
学園の出入り口がエクシリア内の1つしかないのは、単に防衛のためなのだろう。
学園の周囲では強固な壁がそり立っているし、上には透明ながらも強力な魔法壁が学園直属の魔術師によって張られている。
それでも心配な学園長は、入り口をエクシリア内に作ることで、外敵の侵入を防ぐんだそうだ。 だが、あまり意味が無いと思うのは、俺だけだろうか?
そして、宿を発見。 出入り口の目の前にある「Black Jack」という名の宿だ。 …そんな名前で、宿なのか?
名前に似合わぬ、質素な入り口から入ると、店主らしき人が、カウンターに座っていた。
「――――おう、Black Jackへようこそ」
一瞬、帰ろうと思った。 だってさ、だって「黒い土佐犬のガッチムチな魔人」が、「エプロン(普通の灰色の奴だ)」つけて「ものすごい低い声」でようこそ、だぜ?
身震いがした。 だが、だがこういう人に限って良い人……
「お? 学園の受験者か? …なるほど、宿代半額にしてやるよ、泊まっていくか?」
…良い人だった。 おー良かった。 …しかし、よく俺が学園受験者だとわかったな…。 観察眼パネェ。
良い人そうだったので、俺は早速泊まる事にし(幸運にも、俺の部屋で空き部屋はなくなったらしい)、その店主の魔人と話してみることにした。
店主の名前はジャック。 店名は其処からつけたらしい。 なるほど、毛色は漆黒だしな。
この店は数年前から開いており、学園の試験日前日になると俺と同じ考えを持った奴が挙って泊まりに来るのだそうだ。
ジャックさんは、そんな受験者に優しく宿代を半額にしているのだそうだ。 強面な顔に似合わず、やはり優しいジャックさんなのだった。
…この後、「俺も半額にしてくれよ~」とか言う酔っ払いの客が部屋から出てきたが、ジャックさんは「うるせぇ!」と一喝。 やはり怖い。
俺は宿代である銀貨1枚(元の世界で言う、5000円ほど)をジャックさんに渡し、とりあえず俺は部屋に行くことにした。
宿の二階に上がり、ジャックさんに貰った鍵で部屋を空けると、ベッドに棚やクローゼットが配置よく、それでいてシンプルな造りになっていた。
ベッドに横になる。 おぉ、フカフカだ。 きっとジャックさんが丁寧に干して………身震いが。 主にイメージで。
俺は持ってきたバッグから本を取り出す。 といっても小説などではなく、受験のための勉強だ。
ナシズ爺とサナブ婆特製の、元の世界で言う暗記本。 かなり勉強してきたからなぁ・・・としみじみ。
そうそう、学園の受験科目は基本科目の国語と数学、そして魔法学、そして、【チカラ】のレベル測定と続く。
学園は魔法と【チカラ】に文字通り力を入れているようで…
『「国語の点数」+「数学の点数」+「魔法学の点数×2」+【チカラ】のレベル×2』が受験での点数になり、合否とクラスが決まるらしい。
【チカラ】のレベルとは、その名のとおり、【チカラ】の強弱を数値化したもの。 最高は100。
例えば「火の玉を操る【チカラ】」なら40ほど。 「火炎を操る【チカラ】」なら60ほどと、差はある。
平均は460点ほど。 入るには380点は取らないと…なんて、婆さんは言っていた。 よく知ってるな、婆さん。
……そのまま暗記本を見ていると、寝てしまっていたようだ。 もう夜は更け、辺りは段々と賑わっているようだった。
俺は金の入った袋をバッグから引っ掴んで夜の街へと駆け出した。 勿論夜飯を食うためだ。
…適当な店で食おうと思っていた俺。 あ、ホットドッグ(らしき物体)を売る店を発見。アレで良いか。
「らっしゃい!」と、魚の魔人が対応してきた。 「それ1…いや2つで」というと、すぐにホカホカのホットドッグ以下略が。2つにしたのは、結構腹が減っていたから。
銅貨10枚らしい。 えーっと…あ、9枚しかない。
…あー…後1枚あったらな…仕方ない、1つにして他の店に行くか………と、俺はその魚人に1個にして欲しいと伝えようとしたんだ。
すると、ふと見た袋の底にきらりと光る円形のメダルが。 …銅貨だ。 見落としていたのか?
これで10枚。やはり2つで良いや。 結局俺は2つそれを買った。 パン(らしき物)がちょっと硬かったが、まぁまぁ美味かった。
…やっぱり見落としていたのかなー…と俺は自己解決し、「Black Jack」へと戻り、風呂歯磨き洗顔、すぐに寝た。
―――ガフリア国立エクシル魔法学園の試験日まで、あと1日。
昨日何があったんだろうか
12000pvやら何やらありがとうございます!
とりあえずアルトの【チカラ】がブースターじゃないということは書きましたっと。
うおお、サッカー見ないと!
感想・アドバイス、お待ちしております!